保育所保育指針解説(全文) 平成21年度


保育所保育指針解説書

はじめに

昭和40 年に保育所保育のガイドラインとして制定された保育所保育指針(以下「保育指針」という。)は、平成2年、平成12年の改定を経て、このたび、3度目の改定が行われました。今回の改定により、保育指針は、これまでの局長通知から厚生労働大臣による告示となりましたが、このことは、保育所の役割と機能が広く社会的に重要なものとして認められ、それ故の責任が大きくなった証しでもあります。

この解説書は、告示化された保育指針の内容が、広く保育現場に浸透し、その趣旨が理解されるように、また、保育指針に示される基本原則をしっかりと踏まえた上で、各保育所がそれぞれの特色を生かし、創意工夫を図っていくための助けとなるように作成されました。保育士をはじめ職員の方一人一人が 日々の保育に活用するとともに、広く保育関係者や保護者の方にも手にしていただき、保育所保育の内容や子どもの発達について理解を深めていただきたく存じます。そして、保育所内外の様々な人に支えられながら、保育の内容の充実や保育の質の向上が図られることを願っています。

平成20年3月

厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課

目次

※ 目次の1,(1)…は保育指針本体の項目の番号と照合させています


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序章

 

1.改定の経緯

 

(1)保育所保育指針とは何か

保育指針は、保育所における保育の内容やこれに関連する運営等について定めたものです。

保育所における保育は、本来的には、各保育所における保育の理念や目標に基づき、子どもや保護者の状況や地域の実情等を踏まえて行われるものであり、その内容については、各保育所の独自性や創意工夫が第一義的に尊重されるべきです。その一方で、すべての子どもの最善の利益のためには、子どもの健康や安全の確保、発達の保障等の観点から、各保育所が行うべき保育の内容等に関する全国共通の枠組みが必要です。このため、保育指針において、各保育所が拠るべき保育の基本的事項を定め、保育所において一定の保育の水準を保つことにしています。

全国の保育所においては、この保育指針に基づき、子どもの健康及び安全を確保しつつ、子どもの一日の生活や発達過程を見通し、保育の内容を組織的・計画的に構成し、保育を実施することになります。この意味で、保育所保育指針は、保育環境の基準(児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)における施設設備や職員配置等)や保育に従事する者の基準(保育士資格)と相まって、保育所保育の質を担保する仕組みであるといえます。

また、保育指針は、保育所保育にとどまらず、他の保育施設や家庭的保育などにおいても、ガイドラインとして活用されることが期待されます。

 

(2)改定の背景

旧保育指針の施行から8年が経過し、この間、子どもや子育て家庭を取り巻く状況は、保育関係者の努力により改善されてきた面もありますが、依然として課題や問題点も多くあります。家庭や地域において人や自然と関わる経験が少なくなったり、子どもにふさわしい生活時間や生活リズムがつくれないことなど子どもの生活が変化する一方で、不安や悩みを抱える保護者が増加し、養育力の低下や児童虐待の増加などが指摘されています。

また、①地域における子育て支援の活動が活発になる中で、保育所はもとより多様な支援の担い手など地域の保育・子育て支援の資源が蓄積されつつあること、②延長保育や一時保育などの保護者の多様なニーズに応じた保育サービスの普及が進むとともに、保育所職員と保護者との適切な関わりが求められていること、③平成18年に保育所と幼稚園の機能を一体化した「認定こども園」制度が創設されたこと、④同じく平成18年に改正された教育基本法において幼児期の教育の振興が盛り込まれ、就学前の教育の充実が課題になっていること、⑤仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現が求められる中で、働きながら子育てをしている家庭を支える地域の担い手として、保育所に対する期待が高まっていること、など、保育所をめぐる環境も様々に変化しています。

乳幼児期は、子どもが生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて重要な時期であり、少子化が進み、家庭や地域の子育て力の低下が指摘される中で、保育所における質の高い養護と教育の機能が強く求められています。また、子どもの育ちや保護者をめぐる環境が変化し、保育所への期待が高まり、質の高い保育が求められる中で、保育所の役割・機能を再確認し、保育の内容の改善充実を図ることが重要になってきています。

今回、こうした観点から、保育指針の内容や構成を見直し、更なる保育の質の向上をめざすこととなりました。

 

2.改定に当たっての基本的考え方

今回の改定では、次の4つの点を基本的な特徴としています。

第1は、保育指針を大臣告示として定め、規範性を有する基準としての性格を明確にしています。ここでいう規範性とは、各保育所は保育指針に規定されていることを踏まえて保育を実施しなければならないということであり、保育指針に規定されている事項の具体の適用については、その内容により異なります。すなわち、①遵守しなければならないもの、②努力義務が課されるもの、③基本原則にとどめ、各保育所の創意や裁量を許容するもの、又は各保育所での取組が奨励されることや保育の実施上の配慮にとどまるものなどを区別して規定しています。

第2は、各保育所の質の向上のための創意工夫を促すことを目指し、基準として規定する事項を基本的なものに限定し、その内容の大綱化を図り全7章にまとめられていることです。基準としての性格を明確化する一方で、保育の実施は、保育所の自主性、創意工夫が尊重されるという基本的原則をより明確にし、例えば、発達過程区分ごとの保育の内容を大括りするなど、構成や記述内容を精選しています。その上で、内容の解説や補足説明、保育を行う上での留意点、各保育所における取組の参考になる関連事項の伝達等を行うために、この解説書が作成されています。

第3は、保育の内容に関する事項と保育の内容を支える運営に関する事項とをできるだけ整理して示すことにより、保育所保育の取組の構造を明確化し、保育の内容や方法の改善、保育所の機能の強化など保育所の質の向上を促すことを目指しています。

第4は、保育指針の明解性を高めるように内容、記述の見直しをしています。すなわち、保育現場での保育実践に日常的に活用されるとともに、子どもの育ちに関する保護者の理解に役立つ資料としても活用されるように、より分かりやすい記述や表記となるように工夫しています。

 

3.改定の要点

2.の基本的考え方に基づき、改定の内容は、次の4点に整理できます。

 

(1)保育所の役割の明確化

改定の背景を踏まえ、保育所の役割を保育指針に位置づけました。すなわち、保育所は、養護と教育を一体的に行うことを特性とし、環境を通して子どもの保育を総合的に実施する役割を担うとともに、保護者に対する支援(入所する児童の保護者に対する支援及び地域の子育て家庭に対する支援)を行うことを明記しています。その上で、保育所における保育の中核的な担い手である保育士の業務とともに、保育所の社会的責任(子どもの人権の尊重、説明責任の発揮、個人情報保護など)について規定しています。

 

(2)保育の内容の改善
①発達過程の把握による子どもの理解、保育の実施

誕生から就学までの長期的視野を持って子どもを理解するため、第2章「子どもの発達」において、発達過程区分に沿った子どもの発達の道筋を明記し、第3章「保育の内容」において、乳幼児期に育ち経験することが望まれる基本的事項を示すとともに、乳児、3歳未満児、3歳以上児など発達過程に応じた特有の配慮事項を示しています。

②「養護と教育の一体的な実施」という保育所保育の特性の明確化

養護と教育が一体的に展開される保育所の生活において、保育の内容をより具体的に把握し、計画-実践-自己評価するための視点として「ねらい及び内容」を「養護」と「教育」の両面から示しています。

③健康・安全のための体制充実

子どもの健康・安全の確保が子どもの保育所での生活の基本であるとの考えの下に、子どもの発育・発達状態の把握、健康増進、感染症など疾病への対応、衛生管理、安全管理などの諸点に関し、保育所が施設長の責任の下に取り組むべき事項を明記しています。加えて、不適切な養育に関する早期把握、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)など地域の専門機関との連携にも言及しています。

また、食育基本法の制定などを踏まえ、健康な生活の基本としての「食を営む力」の育成に向け、食育の推進を明記しています。さらに、健康・安全、食育に関する計画的な実施のため、全職員の連携・協力、専門的職員の確保など保育の実施体制を規定しています。

④小学校との連携

子どもの生活や発達の連続性を踏まえた保育の内容の工夫、小学校の子どもや職員間の交流など積極的な連携に取り組むことを奨励するとともに、就学に際し、子どもの育ちを支えるための資料を「保育所児童保育要録」として小学校へ送付することを義務づけています。

 

(3)保護者支援

保育所における保護者への支援については、保育士の業務として明記するとともに、独立した章(第6章「保護者に対する支援」)を設け、保育所に入所する子どもの保護者に対する支援及び地域における子育て支援について定めています。特に、保育所の特性を生かした支援、子どもの成長の喜びの共有、保護者の養育力の向上に結びつく支援、地域の資源の活用など、保護者に対する支援の基本となる事項を明確にしています。

 

(4)保育の質を高める仕組み

第4章「保育の計画及び評価」において、これまでの「保育計画」を改め「保育課程」として規定することとしています。「保育課程」の編成により、保育所全体で組織的及び計画的に保育に取り組むことや、一貫性、連続性のある保育実践が期待されます。また、各保育所では保育課程を踏まえ、それぞれの指導計画や食育の計画などを作成することや、指導計画の作成上の留意事項を明確化しています。その中で、障害のある子どもの保育について、関係機関と共に支援のための計画を個別に作成することを規定しています。

保育所においては、保育課程、指導計画に基づく保育士等による保育実践の振り返りを重視するとともに、保育の内容等の自己評価及びその公表を努力義務としています。保育所での自己評価等を踏まえ、職員が保育所の課題について共通理解を深め、体系的・計画的な研修や職員の自己研鑽等を通じて、職員の資質向上及び職員全体の専門性の向上を図ることを求めています。

また、第7章においては、保育の資質向上のための施設長の責務についても明確化しています。

以上が主な改定内容ですが、このほかにも今日的視点を踏まえて、様々な点が強調されています。

例えば、保育所の役割や保育士の専門性について明確にしながら、子どもの健やかな成長のためには家庭や地域社会との連携、協力が欠かせないということ、子どもの人権擁護、虐待防止の観点からも保育所の果たす役割が大きいこと、子どもの自発的、主体的な活動を重視するとともに、子どもの生活の連続性、発達の連続性、遊びや学びの連続性と関連性を大切にすることなどが規定されており、保育所保育の特性を生かした質の高い保育実践が望まれます。

また、保育指針の根拠法令、関連法令や幼稚園教育要領などとの整合性がこれまで以上に図られていることも、今回の改定の特徴です。それらを踏まえ、保育所が社会的責任を果たしていくとともに、保育の内容の充実や子どもの保育、教育を担う保育士の専門性の向上が求められています。

全国の保育所が、これまでの保育実践の蓄積や受け継がれてきた保育の精神、児童福祉の理念を踏まえ、新保育所保育指針を核に、さらに豊かに保育を展開し、子どもの幸せに寄与していくことが期待されます。


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第1章 総則

第1章(総則)では、保育指針を貫く基本的考え方を示しています。すなわち、第1章において、保育指針の全体像が描かれ、これに基づき第2章以下が展開されていきます。第2章から第7章までの内容は、すべて第1章に拠るものであり、総則にある「保育所の役割」、「保育の原理」、及び「保育所の社会的責任」を具体化したものが第2章以下に示され、その連続性、整合性が図られています。そして、各章が関連し合い、全体として、一貫性を持ち、保育の質の向上に資するという構造を成しています。

 

1.趣旨

(1)この指針は、児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)第35条の規定に基づき、保育所における保育の内容に関する事項及びこれに関連する運営に関する事項を定めるものである。

(2)各保育所は、この指針において規定される保育の内容に係る基本原則に関する事項等を踏まえ、各保育所の実情に応じて創意工夫を図り、保育所の機能及び質の向上に努めなければならない。

まず、保育指針の法令上の根拠及び規定する範囲と保育指針の目的を明らかにしています。

保育指針は児童福祉施設最低基準第35条に基づくものであり、今回保育指針の改定に伴って改正された最低基準第35条では「保育所における保育は、養護と教育が一体的に行われるものとして、その内容については厚生労働大臣がこれを定める」とされ、これに基づき保育指針が、厚生労働大臣告示として定められています。

また、保育指針の規定する範囲として、「保育所における保育の内容に関する事項」とともに「関連する運営に関する事項」を規定することを明らかにしています。これは、保育所においては、保育実践を組織的に評価すること、子どもの健康や安全の維持向上を図るための体制をつくること、子育て支援に積極的に取り組むこと、保育に携わる者の資質向上を図ることなど、運営面に関わる取組が保育の内容とは切り離せない関係にあることから、こうした構造を明らかにしつつ全体として規定することとしたものです。

さらに、保育指針の目的として、各保育所は保育指針を踏まえ、創意工夫を図り、保育所の機能及び質の向上に努めなければならないことを明らかにしています。序章でも述べているように、今回の改定により、規範性を有する基準となるため、保育指針で規定する事項を基本的なものに限定し、その内容の大綱化を図っています。したがって、各保育所ではこの指針に規定されている基本原則を守り、各保育所の実情を踏まえ、創意工夫を図り保育することが求められます。

保育指針の目指すところは、児童福祉の理念に基づいた保育の質の向上であり、この指針はそのための保育の内容の基本や、保育の質を確保し向上を図るための内容や仕組みを示しているといえます。保育所が社会の中でしっかりとその役割を果たし、保育の専門機関としてその組織性、専門性を高めていくことが強く求められているのです。

 

2.保育所の役割

 

(1)保育所保育の目的

(1)保育所は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条の規定に基づき、保育に欠ける子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。

①子どもの最善の利益

まず、初めに述べられていることは、児童福祉法に基づく児童福祉施設としての保育所の役割であり、保育所は、「入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進する」ということです。これは、保育指針の根幹を成す理念であり、子どもの最善の利益を守り、子どもたちを心身共に健やかに育てる責任が保育所にあることを明らかにしています。

「子どもの最善の利益」については、1989 年に国際連合が採択し、1994年に日本政府が批准した児童の権利に関する条約(通称「子どもの権利条約」)の第3章第1項に定められています。子どもの権利を象徴する言葉として国際社会等でも広く浸透しており、保護者を含む大人の利益が優先されることへの牽制や、子どもの人権を尊重することの重要性を表しています。なお、「子どもの最善の利益」については第6章にも示されています。

②最もふさわしい生活の場

今回の保育指針では特に、保育所が入所する子どもにとって「最もふさわしい生活の場でなければならない」とされました。これは、「すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない」(児童福祉法第1条第2項)とする児童福祉の理念にも通底するものです。これまで保育所は、長時間にわたる保育の中で、子どもの養護的側面を大事にし、一人一人の子どもにきめ細やかに対応してきました。しかし、子育てを取り巻く様々な環境の変化により、乳幼児期にふさわしい生活を送ることが難しくなってきていることなどを踏まえ、保育所の生活を子どもの福祉を積極的に増進する観点から捉え直すことが必要となっています。

子どもが様々な人と出会い、関わり、心を通わせながら成長していくために、乳幼児期にふさわしい生活の場を豊かにつくりあげていくことが重要であり、そうした役割や機能が今日、保育所にはますます求められているといえるでしょう。

 

(2)保育所の特性

(2)保育所は、その目的を達成するために、保育に関する専門性を有する職員が、家庭との緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。

保育所の役割として2番目に挙げられているのは、保育所の特性ともいうべき事柄であり、ここには保育所保育の重要なポイントが凝縮されています。

①専門性を有する職員による保育

保育所には、保育の専門性を有する保育士をはじめ、看護師、栄養士、調理員など、専門性を有した職員がそれぞれの専門性を発揮して保育に当たっています。保育所職員は、それぞれの職種における専門性を認識するとともに、保育所という実践の場において、子どもや保護者等との関わりの中で常に自己を省察していくことが重要です。また、組織の一員として共通理解を図りながら取り組むことも必要とされます。

なお、保育指針やこの解説書において保育に携わるすべての保育所職員(施設長・保育士・調理員・栄養士・看護師等)を「保育士等」としています。

②家庭との連携

保育は保護者と共に子どもを育てる営みであり、子どもの24時間の生活を視野に入れ、保護者の気持ちに寄り添いながら家庭との連携を密にして行わなければならないとしています。保育所での保育が、より積極的に乳幼児期の子どもの育ちを支え、保護者の養育力の向上につながるよう保育所の特性を生かした支援が求められています。

③発達過程

保育指針では「発達過程」という言葉が度々登場します。発達過程とは、子どもの発達を年齢で画一的にとらえるのではなく、発達のプロセスを大切にしようとする考え方です。

保育においては、子どもの育つ道筋やその特徴を踏まえ、発達の個人差に留意するとともに、個別に丁寧に対応していくことが重要です。また、子どもの今、この時の現実の姿を受け止めるとともに、子どもが周囲の様々な人との相互的関わりを通して育つことに留意することが大切です。さらに、一人一人の心身の状態や家庭生活の状況などを踏まえて保育することが明記されています。

④環境を通して行う保育

環境を通して、養護と教育が一体的に展開されるところに保育所保育の特性があり、その際、子ども一人一人の状況や発達過程を踏まえ、環境を整え、計画的に保育環境を構成していくことが重要だとしています。保育の環境の重要性やその意義については、3の「保育の原理」において詳しく示されています。

⑤養護と教育の一体性

養護と教育が一体的に展開され、保育の内容が豊かに繰り広げられていくためには、子どもの傍らに在る保育士等が子どもの心をしっかりと受け止め、相互的なやり取りを重ねながら、子どもの育ちを見通し援助していくことが大切です。その際、身体の発育面とともに、心の育ちにも十分に目を向け、子どもの気持ちに応え、手を携え、言葉をかけ、共感しながら、一人一人の存在を認めていくことが大切です。このような保育士等の関わりにより、子どもはありのままの自分を受け止めてもらえることの心地よさを味わい、保育士等への信頼を拠りどころとして、心の土台となる個性豊かな自我を形成していきます。

養護と教育が一体的に展開されるという意味は、保育士等が子どもを一個の主体として尊重し、その命を守り、情緒の安定を図りつつ、乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられていくように援助することです。子どもは自分の存在を受け止めてもらえる保育士等や友達との安定した関係の中で、自ら環境に関わり、興味や関心を広げ、様々な活動や遊びを通して新たな能力を獲得していくのです。

このように、保育士等は、養護と教育が切り離せるものではないことを踏まえた上で、自らの保育をより的確に把握する視点を持つことが必要です。このため、第3章「保育の内容」において、「養護に関わるねらい及び内容」と「教育に関わるねらい及び内容」がそれぞれに詳しく示されています。保育士等がその専門性を発揮し、自らの保育を振り返り評価する上でも、また、新たな計画を立てる上でも養護と教育の視点を持つことはたいへん重要です。

 

(3)子育て支援

(3)保育所は、入所する子どもを保育するとともに、家庭や地域の様々な社会資源との連携を図りながら、入所する子どもの保護者に対する支援及び地域の子育て家庭に対する支援等を行う役割を担うものである。

保育所の役割の3番目には「子育て支援」が位置付けられています。

ここには保育所に入所する子どもの保護者への支援とともに、地域の子育て家庭に対する支援の役割が明記されています。

入所児の保護者への支援は、日々の保育に深く関連して行われるものです。また、地域の子育て家庭に対する支援については、児童福祉法第48条の3において保育所の努力義務として規定されており、地域の様々な人や場や機関などと連携を図りながら、地域に開かれた保育所として、地域の子育て力の向上に貢献していくことが、保育所の役割として示されています。

現代では身近に話し相手がいなかったり、安全な遊び場がなかったりなど、子育て家庭が孤立しているといわれる中で、安心・安全で、親子を温かく受け入れてくれる施設として、保育所の役割はますます期待されています。さらにまた、保育所の子育て支援は、児童虐待防止の観点からも、重要なものと位置付けられているといえるでしょう。

 

(4)保育士の専門性

(4)保育所における保育士は、児童福祉法第18条の4の規定を踏まえ、保育所の役割及び機能が適切に発揮されるように、倫理観に裏付けられた専門的知識、技術及び判断をもって、子どもを保育するとともに、子どもの保護者に対する保育に関する指導を行うものである。

4番目の項目では平成15年に改正された児童福祉法第18条の4を踏まえ、保育士の専門性に言及しています。

保育士の専門性としては、①子どもの発達に関する専門的知識を基に子どもの育ちを見通し、その成長・発達を援助する技術、②子どもの発達過程や意欲を踏まえ、子ども自らが生活していく力を細やかに助ける生活援助の知識・技術、③保育所内外の空間や物的環境、様々な遊具や素材、自然環境や人的環境を生かし、保育の環境を構成していく技術、④子どもの経験や興味・関心を踏まえ、様々な遊びを豊かに展開していくための知識・技術、⑤子ども同士の関わりや子どもと保護者の関わりなどを見守り、その気持ちに寄り添いながら適宜必要な援助をしていく関係構築の知識・技術、⑥保護者等への相談・助言に関する知識・技術などが考えられます。

こうした「専門的な知識・技術」をもって子どもの保育と保護者への支援を適切に行うことは極めて重要ですが、そこに知識や技術、そして、倫理観に裏付けられた「判断」が強く求められます。日々の保育における子どもや保護者との関わりの中で、常に自己を省察し、状況に応じた判断をしていくことは、対人援助職である保育士の専門性として欠かせないものでしょう。

 

3.保育の原理

「保育の原理」とは、子どもの保育に携わる者の原理原則として、すべての保育所が共通に理解し、認識しなければならないものです。保育所がその役割を適切に果たすために、保育所の職員全員が、保育の目標を達成するためにはどのように保育したらよいのかを理解し、保育の環境に留意しながら実践を重ねていくことが必要です。

 

(1)保育の目標

ア 保育所は、子どもが生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場である。このため、保育所の保育は、子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す力の基礎を培うために、次の目標を目指して行わなければならない。

  • (ア)十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること。
  • (イ)健康、安全など生活に必要な基本的な習慣や態度を養い、心身の健康の基礎を培うこと。
  • (ウ)人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと。
  • (エ)生命、自然及び社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うこと。
  • (オ)生活の中で、言葉への興味や関心を育て、話したり、聞いたり、相手の話を理解しようとするなど、言葉の豊かさを養うこと。
  • (カ)様々な体験を通して、豊かな感性や表現力を育み、創造性の芽生えを培うこと。

イ 保育所は、入所する子どもの保護者に対し、その意向を受け止め、子どもと保護者の安定した関係に配慮し、保育所の特性や保育士等の専門性を生かして、その援助に当たらなければならない。

保育所は、それぞれに保育所の特色や保育方針があり、また、施設の規模や地域性などにより、保育の在り様は様々です。しかし、すべての保育所に共通する保育の目標は、この保育指針に示されているように、子どもの保育を通し、「子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す力の基礎を培う」ことと、「入所する子どもの保護者に対し、その援助に当たる」ということです。

保育所は、「生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期」にある乳幼児の「現在」が、心地よく生き生きと幸せであることを保育の目標とするとともに、その「未来」を見据えて、長期的視野を持って、生涯にわたる生きる力の基礎を培うことを目標として保育することが重要です。それは、生涯、発達し続けていく一人一人の子どもの可能性や、あと伸びする力を信じることでもあり、保育とは、子どもの現在と未来をつなげる営みといえるでしょう。

保育には、子どもの現在のありのままを受け止め、その心の安定を図りながらきめ細かく対応していく養護的側面と、保育士等としての願いや保育の意図を伝えながら子どもの成長・発達を促し、導いていく教育的側面とがあり、この両義性を一体的に展開しながら子どもと共に生きるのが保育の場であるといえます。

①養護と教育の目標

1つ目の子どもの保育の目標は、さらに(ア)から(カ)までの6つの側面から説明されています。

すなわち、(ア)が養護に関わる目標であり、(イ)以下は、教育の内容の5領域に照らし合わせ、(イ)が「健康」、(ウ)が「人間関係」、(エ)が「環境」、(オ)が「言葉」、(カ)が「表現」に関わる目標となっています。

この5領域に関わる保育の目標は、改定前の保育指針と同様、学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定されている幼稚園の目標と共通のものとなっています。ここに示された保育の目標を、一人一人の保育士等が自分自身の保育観、子ども観と照らし合わせながら、より深く心に刻んで保育していくとともに、保育所全体で確認しながら取り組んでいくことが求められます。

②保護者支援の目標

2つ目の大きな目標である保護者への援助は、子どもの保育と深く関連して行われるものです。第6章「保護者に対する支援」に示されていることを踏まえ、保護者の声に耳を傾け、その意向をしっかりと受け止めた上で、適切に対応します。保護者一人一人の状況を考慮し、職員間で連携を図りながら対応していきますが、常に、子どもの最善の利益を考慮して取り組むことが必要です。

また、日頃より保育の意図や保育所の取組について説明したり、丁寧に伝えながら保護者と共に考えたり、対話を重ねていくことが大切です。

こうした保育の目標を目指して行う日々の保育が、常に、人(子どもや大人)との相互の関わりの中で繰り広げられていることや、そのことを通して、子どもはもとより、保護者も、そして保育士等も育ち合っているのが保育の場であるといえます。

子どもと保護者の関係を軸に、子ども、保育士等、また保護者等の様々な関係が豊かに繰り広げられていくことが望まれます。

 

(2)保育の方法

保育の目標を達成するために、保育士等は、次の事項に留意して保育しなければならない。

  • ア 一人一人の子どもの状況や家庭及び地域社会での生活の実態を把握するとともに、子どもが安心感と信頼感を持って活動できるよう、子どもの主体としての思いや願いを受け止めること。
  • イ 子どもの生活リズムを大切にし、健康、安全で情緒の安定した生活ができる環境や、自己を十分に発揮できる環境を整えること。
  • ウ 子どもの発達について理解し、一人一人の発達過程に応じて保育すること。その際、子どもの個人差に十分配慮すること。
  • エ 子ども相互の関係作りや互いに尊重する心を大切にし、集団における活動を効果あるものにするよう援助すること。
  • オ 子どもが自発的、意欲的に関われるような環境を構成し、子どもの主体的な活動や子ども相互の関わりを大切にすること。特に、乳幼児期にふさわしい体験が得られるように、生活や遊びを通して総合的に保育すること。
  • カ 一人一人の保護者の状況やその意向を理解、受容し、それぞれの親子関係や家庭生活等に配慮しながら、様々な機会をとらえ、適切に援助すること。

(1)の保育の目標を達成するために、特に留意すべき保育の方法について、アからカまで6つの事項が示されています。アからオが(1)のアと同様、子どもの保育に関わる事項、カが保護者への援助に関わる事項となっています。

①状況の把握と主体性の尊重

まず、保育の方法として、子どもの状況や生活の実態を把握するとともに、生きる主体である子どもの思いや願いを受け止めることの重要性が記されています。

子どもは保育所で生活するとともに家庭や地域社会の一員として生活しています。したがって保育士等は、その生活全体を把握するとともに、家庭での生活と保育所での生活の連続性に配慮して保育することが必要です。

また、かけがえのない存在として、一人一人の子どもの主体性を尊重し、子どもの自己肯定感が育まれるよう対応していくことが重要です。

②健康安全な環境での自己発揮

次に、子どもの保育環境をしっかりと整えることの重要性が示されています。

保育所の長時間にわたる生活の中で、一人一人の生活リズムを大切にするとともに、次第に乳幼児期にふさわしい生活リズムとなるように努め、健康、安全で情緒の安定した生活を送れるようにすることが必要です。また、自己を十分発揮して生き生きと活動できるよう、保育の環境を適切かつ豊かに構成することが望まれます。

③個と集団

子どもの発達について理解し、一人一人の子どもの発達過程と個人差に配慮して保育すること、また、子ども相互の関わりを重視し、集団としての成長を促すことが記されています。

個と集団の育ちは相反するものではなく、個の成長が集団の成長に関わり、集団における活動が個の成長を促すといった関連性に十分留意して保育することが重要です。その際、子どもの成長・発達について継続的に記録をとり、実際の子どもの姿や言動などから学び、保育に生かしていくことが必要でしょう。

④生活や遊びを通しての総合的な保育

さらに、生活や遊びを通して総合的に保育することの重要性が示されています。

子どもにとっての遊びは、遊ぶこと自体が目的であり、子どもは時が経つのも忘れ、心や体を動かして夢中になって遊び、充実感を味わっていきます。遊びには様々な要素が含まれ、子どもは遊びを通して思考力や想像力を養い、友達と協力することや環境への関わり方などを体得していきますが、何よりも今を十分に楽しんで遊ぶことが重要です。その満足感や達成感、時には疑問や葛藤が子どもの成長を促し、更に自発的に身の回りの環境に関わろうとする意欲や態度を育てます。

子どもの発達は様々な遊びや生活体験が相互に関連し合い、積み重ねられていくことにより促されます。例えばある一つの遊びの中でも様々な側面が連動しています。子どもの諸能力は生活や遊びを通して別々に発達していくのではなく相互に関連し合い、総合的に発達していくのです。

こうしたことを踏まえ、保育所の保育が、見通しを持ったものとなるよう計画を立て、保育していきますが、子どもの状況により柔軟に対応することが大切です。また、短期的な結果を重視したり、子どもの活動が特別な知識・能力の習得に偏ることがないよう留意することが必要です。

⑤保護者支援の方法

最後に、保護者への援助の方法が記されています。

保護者支援においては、保護者と一緒に子どもを育てていくといった視点が大切であり、保護者とのパートナーシップが求められます。保護者の気持ちを受け止め、子どもの成長を共に喜び、保護者の子育てを励まし援助していくとともに、日常の様々な場面をとらえながら、継続的な関わりや対話を重ねていきます。

 

(3)保育の環境

保育の環境には、保育士等や子どもなどの人的環境、施設や遊具などの物的環境、更には自然や社会の事象などがある。保育所は、こうした人、物、場などの環境が相互に関連し合い、子どもの生活が豊かなものとなるよう、次の事項に留意しつつ、計画的に環境を構成し、工夫して保育しなければならない。

  • ア 子ども自らが環境に関わり、自発的に活動し、様々な経験を積んでいくことができるよう配慮すること。
  • イ 子どもの活動が豊かに展開されるよう、保育所の設備や環境を整え、保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること。
  • ウ 保育室は、温かな親しみとくつろぎの場となるとともに、生き生きと活動できる場となるように配慮すること。
  • エ 子どもが人と関わる力を育てていくため、子ども自らが周囲の子どもや大人と関わっていくことができる環境を整えること。
①環境を通して行う保育の重要性

保育の環境については、前項までに何度か述べられていますが、それは、保育の環境が多岐にわたるものであるとともに、様々な事柄との関連性があり、たいへん重要であるからです。

保育所における保育の基本は、環境を通して行うことです。保育の環境とは保育士等や子どもなどの人的環境、設備や遊具などの物的環境、そして、自然や社会の事象などであり、こうした人、物、場が相互に関連し合って保育の環境が作り出されていきます。

子どもが環境との相互作用によって成長・発達していくことを基本的に理解し、子どもの状況により様々に変化していくなど応答性のある環境にしていくことが重要です。さらに、乳幼児期の子どもの成長にふさわしい保育環境をいかに構成していくかが保育の質に関わるものであることを保育士等が自覚しなければなりません。

環境を通して行う保育の重要性を踏まえ、「子どもの生活が豊かなものとなるよう」保育の環境に関する4つの留意点を設け、「計画的に環境を構成し、工夫して保育しなければならない」としています。

②子ども自らが関わる環境

まず、「子ども自らが環境に関わり、自発的に活動し、様々な経験を積んで」いかれるようにすることが重要であるとしています。

子どもが思わず触りたくなるような、動かしてみたくなるような、関わりたくなるような魅力ある環境を構成することが重要です。また、子どもの興味、関心などが触発され、それまでの経験で得た様々な能力が十分に発揮されるよう工夫して環境を構成するとともに、遊びが展開する中で、子ども自らが環境を再構成したり、環境が変化したりすることを子どもたちと共に楽しむことも大切でしょう。保育士等が、保育所の自然環境などを生かした環境を構成することも求められます。

③安全で保健的な環境

次に、施設などの環境整備を通して、「保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること」としています。

子どもの健康と安全を守ることは保育所の基本的かつ重大な責任です。全職員が常に心を配り、確認を怠らず、子どもが安心、安全に過ごせる保育の環境を保育所全体で整え、子どもの命を守り、その活動を支えていきます。

④温かな雰囲気と生き生きとした活動の場

保育所は子どもが長時間生活する「温かなくつろぎの場」であるとともに、「生き生きと活動できる場」となるよう環境を構成することが必要です。

保育所の生活全体を捉えながら活動の静と動のバランスや子どもの発達過程などを踏まえ、一人遊びや少人数での遊びに集中したり、ほっとくつろげる時間と空間が保障される環境であるとともに、友達と一緒に思いきり体を動かすなど様々な活動に取り組むことのできる環境であることが重要です。

⑤人との関わりを育む環境

さらに、「人と関わる力」を育てていくことの重要性に鑑み、「子ども自らが周囲の子どもや大人と関わっていくことができる環境」が必要であるとしています。

子どもは身近な子どもや大人の影響を受けて育ちます。子どもが様々な人と関わる状況を作り出すことが大切であり、同年齢の子ども同士の関係、異年齢の子どもとの関係、保育士等との関係や地域の様々な人との関わりなどによって様々な感情や欲求が生まれることを踏まえ、保育の環境を構成していきます。複数の友達と遊べる遊具やコーナーなどを設定するとともに、保育所内外の物の配置や子どもの動線などに配慮した保育の環境づくりが必要です。

子どもが人とのやり取りを楽しみながら、子ども相互の関わりや周囲の大人との関わりが促されるような環境を構成していくことが求められます。

 

4.保育所の社会的責任

地域において最も身近な児童福祉施設であり、保育の知識、経験、技術が蓄積されている保育所への期待は、今日ますます高まっています。子育て家庭や地域社会に対し、保育所の役割を確実に果たしていくことは、保育所の社会的使命であり責任です。その際、特に遵守しなければならない3つの事項が「保育所の社会的責任」として規定されました。保育所が社会的な信頼を得て日々の保育に取り組んでいくとともに、地域の共有財産として、広く利用され、活用されることが望まれます。

 

(1)子どもの人権の尊重

(1)保育所は、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一人の人格を尊重して保育を行わなければならない。

保育士等は、保育という営みが、子どもの人権を守るために、法的・制度的に裏付けられていることを認識し、「憲法」、「児童福祉法」、「児童憲章」、「児童の権利に関する条約」などにおける子どもの人権等について理解することが必要です。

また、子どもの発達や経験の個人差等にも留意し、国籍や文化の違いを認め合い、互いに尊重する心を育て、子どもの人権に配慮した保育となっているか、常に職員全体で確認することが必要です。体罰や言葉の暴力はもちろん、日常の保育の中で、子どもに身体的、精神的苦痛を与え、その人格を辱めることが決してないよう、子どもの人格を尊重して保育に当たらなければなりません。保育士等の言動は子どもに大きな影響を与えます。幼い子どもは、身近な保育士等の姿や言動を敏感に受け止めています。そのため、保育士等は常に、自らの人間性や専門性の向上に努めるとともに、豊かな感性と愛情を持って子どもと関わり、信頼関係を築いていかなければなりません。

さらに、子どもが健やかに育つ環境を醸成し、子どもや子育てを大切にする文化を紡ぎ出していくことも、保育所の社会的責任といえるのではないでしょうか。

 

(2)地域交流と説明責任

(2)保育所は、地域社会との交流や連携を図り、保護者や地域社会に、当該保育所が行う保育の内容を適切に説明するよう努めなければならない。

①地域交流

保育所は、地域に開かれた社会資源として、地域の様々な人や場、機関などと連携していくことが求められています。また、次世代育成支援や世代間交流の観点から、小・中学校などの生徒の体験学習や実習を受け入れ、高齢者の方との交流を行うなど様々な事業が展開されています。

さらに災害時などにおいては、保育所が被災者や地域の方々の生活を支える上で、重要な役割を担っています。こうした地域の公的施設としての保育所の役割は、今日ますます求められています。

②説明責任

また、今般の改定では、保護者や地域社会への保育所の説明責任について示されました。

平成18 年に改正された社会福祉法(昭和20年法律第45号)第75条では、利用者への情報の提供が社会福祉施設の努力義務とされました。また、児童福祉法第48 条の3においても保育所の情報提供が努力義務として明記され、保育所は保育の内容等、すなわち、一日の過ごし方、年間行事予定、当該保育所の保育方針、職員の状況その他当該保育所が実施している保育の内容に関する事項等について、情報を開示し、保護者等が適切かつ円滑に利用できるようにすることが規定されています。

また、保育所が保護者や地域社会との連携、交流を図り、風通しのよい運営をすることで、一方的な「説明」ではなく、分かりやすく応答的な「説明」となることが望まれます。

保育所の「評価」については、保育士等一人一人の内発的な自己評価を基盤に職員全員で共通理解を持つて取り組んでいくことが求められます。特に今後は、保育課程の編成を中心に、保育の内容の充実と質の向上を図り、組織的、計画的に保育を行い、保育所の自己評価に積極的に取り組んでいくことが期待されます。

また、平成12 年の社会福祉法改正を契機として、保育所を含めた社会福祉事業において、第三者評価が実施されるようになりました。保育所の保育が第三者により公正かつ客観的に評価され、その結果が公表されることは、保育所の組織性や職員の意識を高め、保育の質の向上につながると考えられます。保育所から積極的に発信され、保護者や地域の様々な人の理解を得ていくことが望まれます。

 

(3)個人情報の保護と苦情解決

(3)保育所は、入所する子ども等の個人情報を適切に取り扱うとともに、保護者の苦情などに対し、その解決を図るよう努めなければならない。

①個人情報の保護

保育所の個人情報の適切な取り扱いについて示されています。

保育所が保育に当たり知り得た子どもや保護者に関する情報は、正当な理由なく漏らしてはならず、児童福祉法第18条の22には、保育士の秘密保持義務について明記されています。また、平成15年に制定された「個人情報の保護に関する法律」においても、個人情報は「個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべき」ものであることが示されています。

なお、子どもの発達援助のための関係機関等との連携、保護者への伝達、保護者同士の交流や地域交流などに必要な情報交換等については、関係者の承諾を得ながら適切に進める必要があります。また、特に、「児童虐待の防止等に関する法律」にある通告義務は守秘義務より優先されることに留意しなければなりません。

②苦情解決

保育所は「保護者の苦情などに対し、その解決を図るよう努めなければならない」としています。

社会福祉法第82条及び児童福祉法最低基準第14条の3には、「苦情の解決」について明記されています。

保育所が、苦情解決責任者である施設長の下に、苦情解決担当者を決め、苦情受付から解決までの手続きを明確化し、書面における体制整備をすることが必要です。また、中立、公正な第三者の関与を組み入れるために第三者委員を設置することも求められています。

苦情を通し、自らの保育や保護者等への対応を謙虚に振り返り、誠実に対応していくことが肝要です。そして、保護者等との相互理解を図り、信頼関係を築いていくことが必要です。また、苦情に関しての検討内容や解決までの経過を記録し、職員会議などで共通理解を図り、実践に役立てます。保護者等の意向を受け止めながら、保育所の考えや保育の意図などについて十分に説明するとともに、改善や努力の意思を表明することも必要といえます。

苦情解決とは、保育所の説明責任や評価とともに、保育の内容を継続的に見直し、改善し、保育の質の向上を図っていくための仕組みであり、保育所が社会的責任を果たしていくためには欠かすことのできないものです。


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第2章 子どもの発達

乳幼児期は、心身の発育・発達が著しく、人格の基礎が形成される時期です。個人差が大きいこの時期の子どもたちの一人一人の健やかな育ちを保障するためには、心身共に安定した状態でいることのできる環境と、愛情豊かな大人の関わりが求められます。

そのため、第1章(総則)の2.保育所の役割及び3.保育の原理(2)保育の方法に示されているように、保育士等は、子どもの発達の特性とその道筋を十分に理解し、一人一人の発達過程に応じて見通しを持って保育を行うことが求められていることを踏まえ、この章では子どもの発達について記します。

子どもは、様々な環境との相互作用により発達していく。すなわち、子どもの発達は、子どもがそれまでの体験を基にして、環境に働きかけ、環境との相互作用を通して、豊かな心情、意欲及び態度を身に付け、新たな能力を獲得していく過程である。特に大切なのは、人との関わりであり、愛情豊かで思慮深い大人による保護や世話などを通して、大人と子どもの相互の関わりが十分に行われることが重要である。この関係を起点として、次第に他の子どもとの間でも相互に働きかけ、関わりを深め、人への信頼感と自己の主体性を形成していくのである。

これらのことを踏まえ、保育士等は、次に示す子どもの発達の特性や発達過程を理解し、発達及び生活の連続性に配慮して保育しなければならない。その際、保育士等は、子どもと生活や遊びを共にする中で、一人一人の子どもの心身の状態を把握しながら、その発達の援助を行うことが必要である。

子どもは、生まれながらに備わっている諸感覚を働かせながら、身の回りの環境に働きかけていきます。温かく受容し、優しく語りかける大人に見守られながら、子どもは環境に働きかけ、環境から働きかけられる中で、成長していきます。そして、その相互作用においては、子ども自らが環境に働きかける自発的な活動であることや、五感など身体感覚を伴う直接的な体験であることが大切です。また、特定の大人との親密な関わりにおいて育まれる子どもと大人の信頼関係が、子どもが主体的に環境に関わるその基盤となります。

子どもが人、物、自然などに触れ、興味や関心を広げていくことは、子どもに様々な心情をもたらし、自ら関わろうとする意欲を促していくことでしょう。

また、人、物、自然などと出会い、感覚を磨きながら多様な経験を積み重ねていくことにより、子どもは自らの生活を楽しみながら、環境と関わる姿勢や態度を身に付けていきます。より豊かで多様な環境との出会いの中で、子どもは、行きつ戻りつしながら様々な能力を獲得していきます。こうした過程そのものが、子どもの発達であるといえるでしょう。

子どもと共に過ごす保育士等は、子どもに安心感や安定感を与えながら、子どもの発達の特性や発達過程に沿った適切な援助をしていかなければなりません。

また、生活や遊びを共にする中で、子ども一人一人の心身の状態を把握し、子どもが自ら環境に働きかけ、感じたり考えたり試したり工夫したり繰り返したりする過程を見守り、子どもと共に環境を再構成しながら楽しんでいくことも大切です。

 

1.乳幼児期の発達の特性

 

(1)人への信頼感が育つ

(1)子どもは、大人によって生命を守られ、愛され、信頼されることにより、情緒が安定するとともに、人への信頼感が育つ。そして、身近な環境(人、自然、事物、出来事など)に興味や関心を持ち、自発的に働きかけるなど、次第に自我が芽生える。

幼い子どもは、周囲の大人からこの世にただ一つ存在するかけがえのない人間として尊重され、愛されることによって、人への信頼感を育んでいきます。この基本的な信頼感を心の拠りどころとして、子どもは徐々に働きかける対象を広げていきます。興味や好奇心に導かれて触れていく世界は、子どもにとって新たな出会いや発見に満ちています。笑ったり泣いたり驚いたり不思議に感じたり、周囲の大人や子どもと共感したり楽しんだりする中で、子どもの情感が豊かに育っていきます。

また、子どもは、生活や遊びを通して、周囲の様々な人との接触を通して関心を広げ、様々な体験を重ねていく中で、自分と他者との違いなどに気付き始めます。この気付きが自分の気持ちを相手に表現していく意欲や行動につながり、自我の育ちとなっていきます。

 

(2)環境への関わり

(2)子どもは、子どもを取り巻く環境に主体的に関わることにより心身の発達が促される。

環境との相互作用において重要なことは、自分から興味や関心を持って、自発的、主体的に関わろうとする意欲や態度です。自ら心や体を動かし、積極的に身近な環境に関わっていく中で、子どもの成長は促されていきます。

子どもの周囲には、子どもが興味や関心を持ち、思わず関わってみたくなるような物や人、事柄、雰囲気が必要です。

また、遊びたいという気持ちが高まり、遊びに夢中になり、十分に遊ぶことのできる環境であることが重要です。子どもは遊びそのものを楽しみ、遊ぶことによって満足感や充実感を得ていきます。子どもの感性を揺さぶり、目を輝かせて遊んでみたくなる環境や、遊びにより様々に変化する応答的な環境であることが望まれます。

また、子どもが自発的に試してみれば到達できる課題などを用意することも大切です。何より、子どもが主体的に関わろうとする姿を見守り、ゆったりと構えて待つ、大人の存在が求められます。

 

(3)子ども同士の関わり

(3)子どもは、大人との信頼関係を基にして、子ども同士の関係を持つようになる。この相互の関わりを通じて、身体的な発達及び知的な発達とともに、情緒的、社会的及び道徳的な発達が促される。

子どもは大人との安定した関係を土台にして、次第に他の子どもとの間でも相互の関わり合いを持つようになります。

乳児同士であっても互いに関心を示し、表情を模倣したり、這って追うなど接近したり、同じ玩具を手にしたりといった姿が見られます。また、1歳半から2歳頃になると玩具を取り合ったり、自分のしたいことを主張したり、自分の欲求と友達との欲求のぶつかり合いを体験していきます。その後も友達への関心は高まり、一緒に体を動かして遊んだり、同じ遊びを楽しみ、遊びを発展させていくなど、互いに影響し合いながら育っていきます。

子ども同士で行われるやり取りの中で、互いに自分の欲求を貫き通したいという気持ちを持ち、時には、けんかも起きます。その中で、子どもは、大人に気持ちを代弁してもらったり、共感してもらったりしながら、次第に自分とは異なる相手の気持ちを理解していきます。自己主張することや、時には我慢することに加え、感情をコントロールすることを学び、徐々に社会性を身につけていきます。道徳性の芽生えも、こうした友達との関わりの中で、自分の感情や意志を表現したり、相手の気持ちに気付いたり、共感したりすることを通して培われていきます。

 

(4)発達の個人差

(4)乳幼児期は、生理的、身体的な諸条件や生育環境の違いにより、一人一人の心身の発達の個人差が大きい。

子どもは一人一人異なる資質や特性を持っています。子どもの生育環境がその成長に大きく影響するのはいうまでもありません。

保育所に入所するまでにどのように過ごしてきたか、家庭ではどのような生活を送っているか、これまでにどのような経験をしてきたかなどによって、一人一人の子どもの環境の受け止め方や環境への関わり方は異なります。乳幼児期は、同じ年齢や月齢であってもその興味や関心は様々であり、身体の特性や発達の足取りなど、個人差がたいへん大きいのです。

 

(5)遊びを通して育つ

(5)子どもは、遊びを通して、仲間との関係を育み、その中で個の成長も促される。

幼い子どもは、大人の仲立ちに助けられながら子どもの世界を広げ、様々な遊びを子ども同士で楽しむようになります。遊びは子どもにとって主体的な活動であり、遊びには人として成長していくためのあらゆる要素が含まれています。

成長するにしたがい、子どもは好んで友達と一緒に遊ぶようになり、一人遊びから集団的な遊びへと発展していきます。子どもは協同的な遊びの中で、友達と一緒に活動する楽しさを経験し、仲間の一人であることを自覚し、更に仲間意識を芽生えさせます。同時に友達との間で様々な葛藤を経験します。そして、自己主張することと同時に我慢しなくてはならないことを学び、遊びをより楽しく展開するために自分たちで約束事や決まりを作っていきます。

やがて子どもは、仲間との関係の中で徐々に自分を発揮できるようになります。これは仲間の中で個が成長する過程と言えます。集団の中で一人一人の良さが生かされること、お互いの存在や良さを認め合えるようになることこそが集団の育ちとなります。

 

(6)生きる力の基礎を培う

(6)乳幼児期は、生涯にわたる生きる力の基礎が培われる時期であり、特に身体感覚を伴う多様な経験が積み重なることにより、豊かな感性とともに好奇心、探究心や思考力が養われる。また、それらがその後の生活や学びの基礎になる。

子どもたちが生涯にわたって生きていくために必要な力を培うためには、乳児の頃からスキンシップを受けるなど体が触れ合う関わりを通して心地よさを味わうことが重要です。

また、十分に身体を動かし、諸感覚を働かせた多様な活動を生活や遊びの中で経験することが大切です。それらの体験が積み重なっていく中で、感性や好奇心、探究心や思考力などが培われていきます。

好奇心や探究心の旺盛な乳幼児期に、子どもが自然など身近な環境に関わり、身体感覚を十分に働かせることが大切です。更に興味や関心を育て、思考力や認識力の基礎を培うことは、子どものその後の生活や学びにつながっていきます。子どもたちは遊びや生活を通し、今を充実させながら、生涯にわたって主体的に生きていくために必要な力の基礎を養っているのです。

 

2.発達過程

子どもの発達過程は、おおむね次に示す8つの区分としてとらえられる。ただし、この区分は、同年齢の子どもの均一的な発達の基準ではなく、一人一人の子どもの発達過程としてとらえるべきものである。また、様々な条件により、子どもに発達上の課題や保育所の生活になじみにくいなどの状態が見られても、保育士等は、子ども自身の力を十分に認め、一人一人の発達過程や心身の状態に応じた適切な援助及び環境構成を行うことが重要である。

ここでは、旧保育指針を継承し、就学前の子どもの発達過程を8つに区分して、それぞれどのような特徴があるのかを述べています。

ただし、この区分は、同年齢の子どもの均一的な発達の基準ではありません。一人一人の子どもの成長の足取りは様々ですが、子どもが辿る発達の道筋やその順序性には共通のものがあります。

保育指針ではこうした子どもの姿を発達過程として示していますが、実際の子どもの発達は直線的ではなく、行きつ戻りつしながら、時に停滞しているように見えたり、ある時、急速に伸びを示したりといった様相が認められます。

また、当然のことながら、子どもは単独で生きているのではなく、人との関わりの中で生きています。また、人や物や自然など様々な環境の中で、それらとの相互作用によって成長しています。

発達には一定の順序性とともに、一定の方向性が認められます。例えば身体機能であれば、頭部から下肢へ、体躯の中心部から末梢部へと発達していきます。また、身体的形態や生理機能、運動面や情緒面の発達、さらには知的発達や社会性の発達など様々な発達の側面が、相互に関連しながら総合的に発達していくといった特徴があります。

子どもが自ら発達していく力を認め、その姿に寄り添いながら、子どもの可能性を引き出していくことは大人としての責任です。特に保育士は、子どもの発達の順序性や連続性を踏まえ、長期的な視野を持って見通し、子どもが、今、楽しんでしていることを共に喜び、それを繰り返しながら子どもの発達を援助することが大切です。

 

(1)おおむね6か月未満

誕生後、母体内から外界への急激な環境の変化に適応し、著しい発達が見られる。首がすわり、手足の動きが活発になり、その後、寝返り、腹ばいなど全身の動きが活発になる。視覚、聴覚などの感覚の発達はめざましく、泣く、笑うなどの表情の変化や体の動き、喃語などで自分の欲求を表現し、これに応答的に関わる特定の大人との間に情緒的な絆が形成される。

【著しい発達】

子どもはこの時期、身長や体重が増加し、著しい発育・発達が見られます。まさに一個の生命体として発達の可能性に満ちているといえます。

運動面に目を向けると、生後4か月までに首がすわり、5か月ぐらいからは目の前の物をつかもうとしたり、手を口に持っていったりするなど手足の動きが活発になります。その後、寝返りできるようになったり、腹ばいにすると胸を反らして顔や肩を上げ、上半身の自由を利かせて遊ぶようになったりするなど、全身の動きが活発になり、自分の意思で体を動かせるようになります。

また、この時期の視覚や聴覚などの感覚の発達はめざましく、これにより、自分を取り巻く世界を認知し始めます。例えば、生後3か月頃には、周囲の人や物をじっと見つめたり、見まわしたりします。また周りで物音がしたり、大人が話している声がしたりすると、その音や声がする方を見るようになります。そして次第に、このような認知が運動面や対人面の発達を促していくのです。

【特定の大人との情緒的な絆】

生理的な微笑みからあやすと笑うなどの社会的な微笑みへ、単調な泣き方から抑揚のある感情を訴える泣き方へ、様々な発声は大人と視線を交わしながらの喃語へと、生まれながらに備わっていた能力が、次第に、社会的・心理的な意味を持つものへと変わっていきます。

子どもが示す様々な行動や欲求に、大人が適切に応えることが大切であり、これにより子どもの中に、人に対する基本的信頼感が芽生えていきます。特に、身近にいる特定の保育士が、応答的、かつ積極的に働きかけることで、その保育士との間に情緒的な絆が形成され、愛着関係へと発展していきます。

 

(2)おおむね6か月から1歳3か月未満

座る、はう、立つ、つたい歩きといった運動機能が発達すること、及び腕や手先を意図的に動かせるようになることにより、周囲の人や物に興味を示し、探索活動が活発になる。特定の大人との応答的な関わりにより、情緒的な絆が深まり、あやしてもらうと喜ぶなどやり取りが盛んになる一方で、人見知りをするようになる。また、身近な大人との関係の中で、自分の意思や欲求を身振りなどで伝えようとし、大人から自分に向けられた気持ちや簡単な言葉が分かるようになる。食事は、離乳食から幼児食へ徐々に移行する。

【運動発達-「座る」から「歩く」へ】

この時期、子どもは座る、はう、立つ、つたい歩きを経て一人歩きに至りますが、その時々にそれぞれの動きや姿勢を十分に経験することが大切です。こうした運動面の発達により、子どもの視界が広がり、子どもは様々な刺激を受けながら生活空間を広げていきます。

特に一人歩きによって、自由に移動できることを喜び、好奇心が旺盛になっていく中で、身近な環境に働きかける意欲を高めていきます。そして、自分が行きたいところに行かれるという満足感は更なる発達の原動力となっていきます。

【活発な探索活動】

子どもはこの時期、特定の大人との信頼関係による情緒の安定を基盤にして、探索活動が活発になります。特に、座る、立つ、歩くなどの運動面の発達により、自由に手が使えるようになることは、子どもが自ら触ってみたい、関わってみたいという意欲を高めます。様々な物に手を伸ばし、次第に両手に物を持って打ちつけたり叩き合わせたりすることができるようになります。

また、握り方も掌全体で握る状態から、すべての指で握る状態、さらに親指が他の指から独立して異なる働きをする状態を経て、親指と人差し指でつまむ動作へと変わっていきます。

全身を動かし、手を動かす中で身近な物へ興味や関心を持って関わり、そのことにより更に体を動かし、探索意欲を高めていきます。

【愛着と人見知り】

6か月頃には身近な人の顔が分かり、あやしてもらうと喜んだり、愛情をこめて受容的に関わる大人とのやり取りを盛んに楽しみます。そして、前期に芽生えた特定の大人との愛着関係が更に強まり、この絆を拠りどころとして、徐々に周囲の大人に働きかけていきます。

この頃には、初めての人や知らない人に対しては、泣いたりして人見知りをするようになりますが、人見知りは、特定の大人との愛着関係が育まれている証拠といえます。

【言葉の芽生え】

この時期は、声を出したり、自分の意思や欲求を喃語や身振りなどで伝えようとします。こうした喃語や身振りなどに対して、身近な大人が子どもの気持ちを汲み取り、それを言葉にして返すなど、応答的に関わることで、子どもは大人の声ややり取りを心地よいものと感じていきます。そして、徐々に簡単な言葉の意味することがわかってくるのです。このような大人とのやり取りが言葉によるコミュニケーションの芽生えとなります。

また、子どもは生活の中で、応答的に関わる大人と同じ物を見つめ、同じ物を共有することを通し、盛んに指さしをするようになります。自分の欲求や気付いたことを大人に伝えようと指でさし示しながら、関心を共有し、その物の名前や、欲求の意味を徐々に理解していきます。それはやがて言葉となり、一語文となりますが、その一語の中には子どもの様々な思いが込められ、身近な大人との対話の基本となります。

例えば子どもが発する「マンマ」という言葉は、母親などへの呼びかけであるとともに、「マンマ食べたい」という欲求であったりします。子どもは一語文に言葉を添え、応答的に関わる大人の気持ちを敏感に感じ取りながら、伝えたい、聴いてもらいたいという表現意欲を高めていきます。

【離乳の開始】

この時期は、離乳が開始され、母乳やミルクなどの乳汁栄養から、なめらかにすりつぶした状態の食べ物を経て、徐々に形のある食べ物を摂取するようになります。そして、少しずつ食べ物に親しみながら、また咀嚼と嚥下を繰り返しながら、幼児食へと移行していきます。

1歳から1歳6か月頃になると、自分の手で食べたいという意欲が芽生え、食べ物に手を伸ばして食べるようになります。このことは、食べ物を目で確かめて、感触を確かめ、手でつかみ、口まで運び、口に入れるという、目と手を協応させる力が発達してきた証しともいえます。

離乳食による栄養の摂取は、生命を維持し、健康を保つためには欠かせませんが、子どもが楽しい雰囲気の中で、喜んで食べることが大切です。様々な食品に慣れ、食材そのものの味に親しみ、味覚の幅を広げながら、子どもは自分で食べようとする意欲を高めていきます。

 

(3)おおむね1歳3か月から2歳未満

歩き始め、手を使い、言葉を話すようになることにより、身近な人や身の回りの物に自発的に働きかけていく。歩く、押す、つまむ、めくるなど様々な運動機能の発達や新しい行動の獲得により、環境に働きかける意欲を一層高める。その中で、物をやり取りしたり、取り合ったりする姿が見られるとともに、玩具等を実物に見立てるなどの象徴機能が発達し、人や物との関わりが強まる。また、大人の言うことが分かるようになり、自分の意思を親しい大人に伝えたいという欲求が高まる。指差し、身振り、片言などを盛んに使うようになり、二語文を話し始める。

【行動範囲の拡大】

この時期の子どもの発達の大きな特徴の一つは歩行の開始です。歩けるようになることは子どもにとって大きな喜びであり、子どもは一歩一歩踏み出しながら行動範囲を広げ、自ら環境に関わろうとする意欲を高めていきます。歩行の獲得は、自分の意志で自分の体を動かすことができるようになることであり、子どもは、「自分でしたい」という欲求を生活のあらゆる場面において発揮していくことにつながります。

一人歩きを繰り返す中で、脚力やバランス力が身に付くとともに、歩くことが安定すると、自由に手を使えるようになり、その機能も発達します。様々な物を手に取り、指先を使いながらつまんだり、拾ったり、引っ張ったり、物の出し入れや操作を何度も繰り返します。

また、絵本をめくったり、クレヨンなどでなぐり描きを楽しみます。その中で、物を媒介としたやり取りが子どもと大人の間で広がり、子どもの好奇心や遊びへの意欲が培われていきます。

【象徴機能と言葉の習得】

子どもは、応答的な大人との関わりによって、自ら呼びかけたり、拒否を表す片言や一語文を言ったり、言葉で言い表せないことは、指さし、身振りなどで示し、親しい大人に自分の気持ちを伝えようとします。子どもの一語文や指さすものを言葉にして返していくなどの関わりにより、子どもは「マンマほしい」などの二語文を獲得していきます。

子どもは、体を使って遊びながら様々な場面や物へのイメージを膨らませ、そのイメージしたものを遊具などで見立てて遊ぶようになります。このように実際に目の前にはない場面や事物を頭の中でイメージして、遊具などで見立てるという象徴機能の発達は、言葉を習得していくこととたいへん重要な関わりがあります。

【周囲の人への興味・関心】

この時期には、友達や周囲の人への興味や関心が高まります。近くで他の子どもが玩具で遊んでいたり、大人と楽しそうにやり取りをしていたりすると、近づいて行こうとします。

また、他の子どものしぐさや行動を真似たり、同じ玩具を欲しがったりします。特に、日常的に接している子ども同士では、同じことをして楽しむ関わりや、追いかけっこをする姿などが見られます。その中で玩具の取り合いをしたり、相手に対し拒否したり、簡単な言葉で不満を訴えたりすることもありますが、こうした経験の中で、大人との関わりとは異なる子ども同士の関わりが育まれていきます。

 

(4)おおむね2歳

歩く、走る、跳ぶなどの基本的な運動機能や、指先の機能が発達する。それに伴い、食事、衣類の着脱など身の回りのことを自分でしようとする。また、排泄の自立のための身体的機能も整ってくる。発声が明瞭になり、語彙も著しく増加し、自分の意思や欲求を言葉で表出できるようになる。行動範囲が広がり探索活動が盛んになる中、自我の育ちの表れとして、強く自己主張する姿が見られる。盛んに模倣し、物事の間の共通性を見いだすことができるようになるとともに、象徴機能の発達により、大人と一緒に簡単なごっこ遊びを楽しむようになる。

【基本的な運動機能】

この時期、子どもは歩いたり、走ったり、跳んだりなどの基本的な運動機能が伸び、自分の体を思うように動かすことができるようになります。喜びに満ちた表情で戸外を走り回るだけでなく、ボールを蹴ったり投げたり、もぐったり、段ボールなどの中に入るなど、様々な姿勢をとりながら身体を使った遊びを繰り返し行います。その動きを十分に楽しみながら人や物との関わりを広げ、行動範囲を拡大させていきます。

また、紙をちぎったり、破いたり、貼ったり、なぐり描きをしたりするようになるなど遊びが広がり、探索意欲が増し、自分がしたいことに集中するようになります。指先の機能の発達によってできることが増え、食事や衣服の着脱、排泄など、自分の身の回りのことを自分でしようとする意欲が出てきます。

【言葉を使うことの喜び】

2歳の終わり頃には、自分のしたいこと、して欲しいことを言葉で表出するようになっていきます。また、遊具などを実物に見立てたり、「…のつもり」になって「…のふり」を楽しみ、ままごとなどの簡単なごっこ遊びをするようになります。

こうした遊びを繰り返し楽しみ、イメージを膨らませることにより象徴機能が発達し、盛んに言葉を使うようになります。また、遊びの中で言葉を使うことや言葉を交わすことの喜びを感じていきます。イメージが自由に行き交うことのおもしろさ、楽しさを味わいながら、身近な大人や子どもとのやり取りが増えていきます。

【自己主張】

生活や遊びの中で、自分のことを自分でしようとする意欲が高まっていくことや、自分の意思や欲求を言葉で表そうとすることなどにより、子どもの自我が育ちます。そして、「自分で」、「いや」と強く自己主張することも多くなり、思い通りにいかないと、泣いたり、かんしゃくをおこしたりする場面も現れます。

個人差はありますが、大人がこうした自我の育ちを積極的に受け止めることにより、子どもは自分への自信を持つようになります。一方で、自分の行動のすべてが受け入れられるわけではないことに徐々に気付いていきます。子どもは、自分のことを信じ、見守ってくれる大人の存在によって、時間をかけて自分の感情を鎮め、気持ちを立て直していきます。

 

(5)おおむね3歳

基本的な運動機能が伸び、それに伴い、食事、排泄、衣類の着脱などもほぼ自立できるようになる。話し言葉の基礎ができて、盛んに質問するなど知的興味や関心が高まる。自我がよりはっきりしてくるとともに、友達との関わりが多くなるが、実際には、同じ遊びをそれぞれが楽しんでいる平行遊びであることが多い。大人の行動や日常生活において経験したことをごっこ遊びに取り入れたり、象徴機能や観察力を発揮して、遊びの内容に発展性が見られるようになる。予想や意図、期待を持って行動できるようになる。

【運動機能の高まり】

この時期子どもは、基礎的な運動能力が育ち、歩く、走る、跳ぶ、押す、引っ張る、投げる、転がる、ぶらさがる、またぐ、蹴るなどの基本的な動作が、一通りできるようになります。様々な動作や運動を十分に経験することにより、自分の体の動きをコントロールしたり、自らの身体感覚を高めていきます。

【基本的生活習慣の形成】

運動能力の発達に伴い、食事・排泄・衣類の着脱など、基本的な生活習慣がある程度自立できるようになってきます。例えば、不完全ながらも箸を使って食べようとしたり、排泄や衣服の着脱などを自分からしようとします。

基本的な生活習慣がある程度自立することにより、子どもの心の中には、「何でも自分でできる」という意識が育ち、大人の手助けを拒むことが多くなります。自分の意思で生活を繰り広げようとすることは、子どもの主体性を育み、意図を持って行動することや、自分の生活を律していくことにつながります。

【言葉の発達】

子どもが理解する語彙数が急激に増加し、日常生活での言葉のやり取りが不自由なくできるようになります。「おはよう」、「ありがとう」などの人と関わる挨拶の言葉を自分から使うようになり、言葉を交わす心地よさを体験していきます。

また、言葉の獲得を通し、知的興味や関心が高まり、「なぜ」「どうして」といった質問を盛んにするようになります。このような質問ややり取りを通して、言葉による表現がますます豊かになってきます。

【友達との関わり】

この時期の遊びの多くは場を共有しながらそれぞれが独立して遊ぶ、いわゆる平行遊びですが、平行して遊びながら他の子どもの遊びを模倣したり、遊具を仲立ちとして子ども同士で関わったりする姿もあります。時には遊具の取り合いからけんかになることもありますが、徐々に友だちと分け合ったり、順番に使ったりするなど、決まりを守ることを覚え始めます。

こういった経験を繰り返しながら、次第に他の子どもとの関係が、子どもの生活や遊びにとって重要なものとなってきます。そして、徐々に関わりを深め、共通したイメージを持って遊びを楽しむようになります。

【ごっこ遊びと社会性の発達】

自分のことを「わたし」、「ぼく」と言うようになるなど自我が成長するにつれて、自分についての認識と同時に、家族、友達、先生などとの関係が分かり始めます。周囲への関心や注意力、観察力が伸びて、気付いたことを言葉で言ったり、遊びに取り入れたりしながら人との関わりを育んでいきます。

子どもは、様々な遊具を手にして夢中で遊んだり、イメージを広げながらごっこ遊びを楽しみますが、その中で、身の回りの大人の行動や日常の経験を取り入れて再現するようになります。こうした遊びを繰り返しながら、様々な人や物への理解を深め、予想や意図や期待を持って行動するなど、社会性を育んでいきます。

また、簡単なストーリーが分かるようになり、絵本に登場する人物や動物と自分を同化して考えたり、想像を膨らませていきます。それらをごっこ遊びや劇遊びに発展させていくこともあります。

 

(6)おおむね4歳

全身のバランスを取る能力が発達し、体の動きが巧みになる。自然など身近な環境に積極的に関わり、様々な物の特性を知り、それらとの関わり方や遊び方を体得していく。想像力が豊かになり、目的を持って行動し、つくったり、かいたり、試したりするようになるが、自分の行動やその結果を予測して不安になるなどの葛藤も経験する。仲間とのつながりが強くなる中で、けんかも増えてくる。その一方で、決まりの大切さに気付き、守ろうとするようになる。感情が豊かになり、身近な人の気持ちを察し、少しずつ自分の気持ちを抑えられたり、我慢ができるようになってくる。

【全身のバランス】

4歳を過ぎる頃から、しっかりとした足取りで歩くようになるとともに、全身のバランスをとる能力が発達し、片足跳びをしたり、スキップをするなど、体の動きが巧みになってきます。活動的になり、全身を使いながら様々な遊具や遊びなどに挑戦して遊ぶなど、運動量も増してきます。

手先も器用になり、ひもを通したり結んだり、はさみを扱えるようになります。また、遊びながら声をかけるなど、異なる二つの行動を同時に行えるようにもなります。

【身近な環境への関わり】

子どもは、水、砂、土、草花、虫、樹木といった身近な自然環境に興味を示し、積極的に関わろうとします。砂山や泥ダンゴ作りに夢中になったり、花を摘んだり、木の実を拾ったり、虫を捕ったりと、自分の手足を使い、感覚を総動員して見たり触れたりしながら、物や動植物の特性を知り、より豊かな関わり方や遊び方を体得していきます。

また、認識力や色彩感覚などを育んでいきます。こうした自然や物との関わりの中で、身体感覚を養い、想像の世界を広げていくことは、子どもに心の安定や喜びをもたらします。

【想像力の広がり】

この時期の子どもは、想像力の広がりにより、現実に体験したことと、絵本など想像の世界で見聞きしたこととを重ね合わせたり、心が人だけではなく他の生き物や無生物にもあると信じたりします。その中で、イメージを膨らませ、物語を自分なりにつくったり、世界の不思議さやおもしろさを味わったりしながら遊びを発展させていきます。また、大きな音や暗がり、お化けや夢、一人取り残されることへの不安などの恐れの気持ちを経験します。

子どもは様々にイメージを広げ、友達とイメージを共有しながら想像の世界の中でごっこ遊びに没頭して遊ぶことを楽しみます。

【葛藤の経験】

自分と他人との区別がはっきりと分かり、自我が形成されていくと、自分以外の人をじっくり見るようになり、同時に見られる自分に気付くといった自意識を持つようになります。自分の気持ちを通そうとする思いと、時には自分の思ったとおりにいかないという不安や、つらさといった葛藤を経験します。

このような気持ちを周りの大人に共感してもらったり、励まされたりすることを繰り返しながら、子どもは友達や身近な人の気持ちを理解していきます。

【自己主張と他者の受容】

子ども同士の遊びが豊かに展開していくと、子どもは仲間といることの喜びや楽しさをより感じるようになり、仲間とのつながりが深まっていきます。同時に、競争心も生まれけんかも多くなります。自己主張をぶつけ合い、悔しい思いを経験しながら相手の主張を受け入れたり、自分の主張を受け入れてもらったりする経験を積み重ねていきます。

自己を十分に発揮することと、他者と協調して生活していくという、人が生きていく上で大切なことを、子どもはこの時期に学び始めるのです。

主張をぶつけ合い、やり取りを重ねる中で互いに合意していくという経験は、子どもの社会性を育てるとともに、子どもの自己肯定感や他者を受容する感情を育んでいきます。

 

(7)おおむね5歳

基本的な生活習慣が身に付き、運動機能はますます伸び、喜んで運動遊びをしたり、仲間と共に活発に遊ぶ。言葉によって共通のイメージを持って遊んだり、目的に向かって集団で行動することが増える。さらに、遊びを発展させ、楽しむために、自分たちで決まりを作ったりする。また、自分なりに考えて判断したり、批判する力が生まれ、けんかを自分たちで解決しようとするなど、お互いに相手を許したり、異なる思いや考えを認めたりといった社会生活に必要な基本的な力を身に付けていく。他人の役に立つことを嬉しく感じたりして、仲間の中の一人としての自覚が生まれる。

【基本的生活習慣の確立】

起床から就寝にいたるまで、生活に必要な行動のほとんどを一人でできるようになります。

大人に指示されなくとも一日の生活の流れを見通しながら次にとるべき行動が分かり、手洗い、食事、排泄、着替えなどを進んで行おうとします。また、共有物を大切にしたり、片付けをするなど、自分で生活の場を整え、その必要性を理解するようになります。

また、自分のことだけでなく、人の役にたつことが嬉しく誇らしく感じられ、進んで大人の手伝いをしたり、年下の子どもの世話をしたりするようになります。こうした中で相手の心や立場を気遣っていく感受性を持つようになります。

【運動能力の高まり】

運動機能はますます伸び、大人が行う動きのほとんどができるようになります。縄跳びやボール遊びなど、体全体を協応させた複雑な運動をするようになるとともに、心肺機能が高まり、鬼ごっこなど集団遊びなどで活発に体を動かしたり、自ら挑戦する姿が多く見られるようになります。

手先の器用さが増し、小さなものをつまむ、紐を結ぶ、雑巾を絞るといった動作もできるようになり、大人の援助により、のこぎりなど様々な用具を扱えるようになります。

運動機能の高まりは、子どもの自主性や自立性を育てていきます。

【目的のある集団行動】

5歳を過ぎると、物事を対比する能力が育ち、時間や空間などを認識するようになります。

また、少し先を見通しながら目的を持った活動を友達と行うようになり、仲間の存在がますます重要になります。そして、目的に向かって楽しく活動するためには、それぞれが自分の役割を果たし、決まりを守ることが大切であることを実感していきます。

こういった集団活動の中で、言葉による伝達や対話の必要性が増大し、仲間との話し合いを繰り返しながら自分の思いや考えを伝える力や相手の話を聞く力を身に付けていきます。主張のぶつかり合いやけんかが起きても、すぐに大人に頼らず、自分たちで解決しようとする姿が見られるようになります。その結果、仲間の中で新たな目的が生じ、それぞれの子どもの役割に変化や発展が見られるなど、集団としての機能が高まってきます。

【思考力の芽生え】

子どもはそれまでの経験や日々の生活を通して、自分なりに考え、納得のいく理由で物事の判断ができる基礎を培っていきます。また、納得できないことに対して反発したり、言葉を使って調整するなどの力が芽生えます。自分の意図が伝わらず仲間から批判されたり、悔しい思いを経験したりすることもありますが、そうした経験が子どもの思考力の基礎を育てます。

そして、自ら考えながら、自分の気持ちを分かりやすく表現したり、相手の気持ちを聞く力が育つことを通して、子どもは、次第に相手を許したり認めたりする社会生活に必要な基本的な力を身に付けるようになります。

【仲間の中の人としての自覚】

集団での活動の高まりとともに、子どもは仲間の中で様々な葛藤を体験しながら成長します。そして一人一人の成長が集団の活動を活発なものに変化させ、そのことにより、個々の子どもの成長が促されていきます。

子どもは次第に仲間が必要であることを実感し、仲間の中の一人としての自覚が生まれ、自分への自信と友達への親しみや信頼感を高めていきます。

 

(8)おおむね6歳

全身運動が滑らかで巧みになり、快活に跳び回るようになる。これまでの体験から、自信や、予想や見通しを立てる力が育ち、心身共に力があふれ、意欲が旺盛になる。仲間の意思を大切にしようとし、役割の分担が生まれるような協同遊びやごっこ遊びを行い、満足するまで取り組もうとする。様々な知識や経験を生かし、創意工夫を重ね、遊びを発展させる。思考力や認識力も高まり、自然事象や社会事象、文字などへの興味や関心も深まっていく。身近な大人に甘え、気持ちを休めることもあるが、様々な経験を通して自立心が一層高まっていく。

【巧みな全身運動】

6歳を過ぎると、身体的な成熟と機能の発達に加え、年長として自覚や誇りを持った姿が見られるようになります。全力で走り、跳躍するなど快活に跳び回り、自信を持って活動するようになります。

全身運動がなめらかになり、ボールをつきながら走ったり、跳び箱を跳んだり、竹馬に乗るなど様々な運動に意欲的に挑戦するようになります。同時に細かな手の動きが一段と進み、自分のイメージしたように描いたり、ダイナミックな表現とともに細やかな製作をするなど、様々な方法で様々な材料や用具を用いて工夫して表現することを楽しみます。

子どもの表現には、子どもの内面の成長や心の豊かさが現れ、一つの表現が更に表現しようとする意欲を高めていきます。

【自主と協調の態度】

この頃になると、仲間の意思や仲間の中で通用する約束事が大事なものとなり、それを守ろうとします。

ごっこ遊びを発展させた集団遊びが活発に展開され、遊びの中で役割が生まれます。子どもはその役割を担うことで、協同しながら遊びを持続し、発展させていきます。また、子どもはごっこ遊びの中で、手の込んだ流れと様々な役割を考え出し、遊びはより複雑なものとなっていきます。そして、こうした遊びを試行錯誤しながらも満足いくまで楽しもうとするようになります。

仲間の一員として認められ、遊びの楽しさを共有するためには、持てる知識を総動員して創意工夫する主体的、自主的な姿勢や自由な発想が必要となります。また、友達の主張に耳を傾け、共感したり意見を言い合うこととともに、自分の主張を一歩譲って仲間と協調したり、意見を調整しながら仲間の中で合意を得ていくといった経験も重要となります。

6歳児は社会生活を営む上で大切な自主と協調の姿勢や態度を身に付けていく時期であり、こうした姿勢や態度が生涯にわたる人との関わりや生活の基礎となっていきます。

【思考力と自立心の高まり】

これまでの活動や経験を通して達成感や自分への自信を持つようになった子どもは、様々なことに関心を示し、意欲的に環境に関わっていきます。自ら言葉を使い文字を書いたり読んだりする姿も見られ、社会事象や自然事象などに対する認識も高まります。周囲の大人の言動についてもよく観察し、批判したり、意見を述べたりすることもあります。

また、自分自身の内面への思考が進み、自意識が高まるとともに、自分とは異なる身近な人の存在や、それぞれの人の特性や持ち味などに気付いていきます。こういった成長により、「大人っぽくなった」という印象を周囲に与えます。

時には身近な大人に甘え、気持ちを休めたりすることもありますが、様々な経験や対人関係の広がりから自立心が高まり、就学への意欲や期待に胸を弾ませます。


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第3章 保育の内容

この章では、第1章(総則)及び第2章(子どもの発達)に示されたことを踏まえ、保育所の「保育の内容」について述べます。

保育所において、子どもが自己を十分に発揮し、乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられるよう、保育の内容を充実させていくことは極めて重要であり、それは保育所の第一義的な役割と責任です。特に保育の専門性を有する保育士は、子どもと共に保育環境を構成しながら、保育所の生活全体を通して保育の目標が達成されるよう努めなければなりません。そのためには、第2章で示された子どもの発達と、この章で示す保育の内容を照らし合わせながら、具体的な保育の計画を作成し、見通しを持って保育することが必要です。

今回の改定により、保育の内容は一つの章にまとめられ、保育士等が適切に行う事項及び保育士等が援助して子どもが乳幼児期に育ち経験することが望まれる事項として、養護と教育に関わるねらい及び内容がそれぞれに示されました。ここにある「ねらい」23 項目と「内容」65 項目を基本に、第4 章(保育の計画及び評価)に示された事項を踏まえ、各保育所で適切な保育の内容を構成していくことが求められます。

例えば「言葉」の領域の「内容」に「言葉で表現する」とありますが、0歳では、保育士等に喃語を受け止めてもらいながら発声すること、1歳では片言や簡単な言葉の繰り返しを楽しむことなどが考えられます。示されている「内容」の趣旨を踏まえ、目の前の子どもの育ちゆく姿を見通し、0歳から6歳までの発達過程や発達の連続性を考慮し、各保育所の保育理念や保育方針、地域性などを反映させながら保育の内容を創り出していくことが望まれます。

実際にここに示されたねらい及び内容を8つの発達過程区分に沿って作成していくと、実に多くのねらいと内容が編み出されます。保育指針に示された内容の趣旨を踏まえ、各保育所でねらいと内容をバランス良く構成していきながら、保育所の独自性や創意工夫が十分に促され、子どもの生活と遊びが豊かに展開されるようにしていくことが求められます。大綱化により基本原則を押さえながら創意工夫を図るという意味はここにあります。

保育の内容は「ねらい」及び「内容」で構成される。「ねらい」は、第1章(総則)に示された保育の目標をより具体化したものであり、子どもが保育所において、安定した生活を送り、充実した活動ができるように、保育士等が行わなければならない事項及び子どもが身に付けることが望まれる心情、意欲、態度などの事項を示したものである。また、「内容」は、「ねらい」を達成するために、子どもの生活やその状況に応じて保育士等が適切に行う事項と、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を示したものである。

保育士等が、「ねらい」及び「内容」を具体的に把握するための視点として、「養護に関わるねらい及び内容」と「教育に関わるねらい及び内容」との両面から示しているが、実際の保育においては、養護と教育が一体となって展開されることに留意することが必要である。

ここにいう「養護」とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりである。また、「教育」とは、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助であり、「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」及び「表現」の5領域から構成される。この5領域並びに「生命の保持」及び「情緒の安定」に関わる保育の内容は、子どもの生活や遊びを通して相互に関連を持ちながら、総合的に展開されるものである。

この章の前文では、保育の内容を構成する「ねらい」と「内容」について述べるとともに、ねらいと内容を具体的に把握するための視点として、「養護」と「教育」の両面があることを示しています。そして、保育指針におけるそれぞれの定義を明らかにしつつ、実際の保育においては、子どもの生活や遊びを通して相互に関連を持ちながら、総合的に展開されると述べています。

保育所における養護的側面が重要であることは、解説書の第1章でも述べていますが、保育所が乳幼児にとって、安心して過ごせる生活の場となるためには保育士等の適切な援助と関わりが必要です。また、子どもと生活を共にしながら子どものあるがままを受け止め、その心身の状態に応じたきめ細やかな援助や関わりをしていくことは保育の基本です。子どもが、一個の主体として大事にされ、愛おしい存在として認められ、その命を守られ、情緒の安定を図りながら、「現在を最も良く生きる」ことは、保育の土台を成し、子どもの心と体を育てることに直結します。

保育士等が子どもの欲求を感知し、手を携えて丁寧に対応し、時には励まし、子どもと向き合うことにより、子どもは安心感や信頼感を得ていきます。そして、保育士等との信頼関係を基盤に身近な環境への興味や関心を高め、その活動を広げていきます。また、保育士等の養護的な関わりやその姿を通して、望ましい生活の仕方や習慣・態度を徐々に体得していきます。

一方、保育所における教育的側面を保育指針では、「子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助」としています。このことは、子どもが保育士等の援助により環境との相互作用を通して、生きる力の基礎となる心情、意欲、態度を身に付けていくことであり、「望ましい未来をつくり出す力の基礎を培う」ため、保育士等が子どもの将来を見据え、願いを込めて自らの経験を受け渡していく営みであるともいえます。社会に共通する慣習や知識や技能、さらには価値、態度、心持ちといったもの、そうした文化の継承が子どもと大人の関わりの中でなされていきます。

乳幼児期の教育を考える時、こうした視点を持ちながら、保育士等が一方的に働きかけるのではなく、子どもの自発的な活動としての遊びなどを通して様々な学びが積み重ねられることが大切です。それは、子ども一人一人の存在を受け止め、その育ち行く姿を見守り、援助することでもあります。保育士等の温かな視線や子どもへの信頼が子どもの意欲や主体性を育んでいきます。

このように、養護的側面と教育的側面は切り離せるものではなく、養護が基礎となって教育が展開されます。また、養護に関わる保育の内容の中に教育に関わる保育の内容があり、教育に関わる保育の内容の中に養護に関わる保育の内容があるともいえるでしょう。さらに、養護に関わるねらい及び内容の「生命の保持」と「情緒の安定」、教育に関わるねらい及び内容の5領域が、それぞれに関連を持ち、折り重なりながら日々の保育が一体的に展開されていきます。

こうしたことを踏まえ、子どもの発達の様々な側面を捉え、自らの計画とそれに基づく保育を振り返り評価していく上で、それぞれのねらい及び内容を作成していくことは保育の質と専門性の向上につながると考えられます。

 

1.保育のねらい及び内容

 

(1)養護に関わるねらい及び内容

養護に関わるねらい及び内容は、第1章(総則)の3.保育の原理(1)保育の目標の「(ア)十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること」を具体化したものです。そして、それは「生命の保持」に関わるものと、「情緒の安定」に関わるものとに分けて示されています。

 

ア 生命の保持

(ア)ねらい

  • ①一人一人の子どもが、快適に生活できるようにする。
  • ②一人一人の子どもが、健康で安全に過ごせるようにする。
  • ③一人一人の子どもの生理的欲求が、十分に満たされるようにする。
  • ④一人一人の子どもの健康増進が、積極的に図られるようにする。

養護に関わる保育の目標をより具体化した「ねらい」の中で、まず、子どもの「生命の保持」に関わるねらいとして、①から④までが示されています。

ここにあるように、子どもの命を守り、一人一人の子どもが快適に、そして健康で安全に過ごせるようにするとともに、その生理的欲求が十分に満たされ、健康増進が積極的に図られるようにすることは一人一人の子どもの生存権を保障することでもあります。それは、日常の生活の中での保育士等の具体的な関わりにより実現されていきます。特に、「ねらい」に対応して保育士等が行う事項を次の「内容」で示しています。

「生命の保持」に関わる保育の内容は、特に「教育に関わるねらい及び内容」のア「健康」の領域と深く関連し、また、第5章の(健康及び安全)に示されている事項と重なる事柄もあります。それぞれの内容を踏まえ、一人一人の子どもの健康と安全がしっかりと守られるとともに、保育所全体で子どもの健康増進を図っていくことが求められます。

(イ)内容

  • ①一人一人の子どもの平常の健康状態や発育及び発達状態を的確に把握し、異常を感じる場合は、速やかに適切に対応する。

一人一人の子どもの健康状態を把握するためには、子どもの発育や発達の状態、家庭での食事、睡眠などの状態について保護者から情報を得ることが必要です。また、登所時の健康観察、保育中の子どもの様子の把握も日々の保育の中で必ず行わなければなりません。特に、乳児に対しては、常に体の状態を細かく観察し、疾病や異常を早く発見することが求められます。また、生後6か月を過ぎると母親から受け継いだ免疫がなくなり始め、感染症にかかりやすくなるため、朝の受け入れ時はもちろんのこと、保育中も、機嫌、食欲などの観察を十分に行い、発熱などの体の状態に変化が見られたときは適切に対応することが求められます。

乳幼児は疾病に対する抵抗力が弱く、容態が急変しやすいことを十分認識し、第5章で示されていることを踏まえ、職員間で連携を図りながら、適切かつ迅速に対応していきます。

  • ②家庭との連携を密にし、嘱託医等との連携を図りながら、子どもの疾病や事故防止に関する認識を深め、保健的で安全な保育環境の維持及び向上に努める。

疾病予防については、保護者との連絡を密にしながら一人一人の子どもの状態に応じて、嘱託医やかかりつけ医などと相談して進めていくことが必要です。保育士等が子どもの疾病について理解を深めるとともに、感染予防に心がけ保護者に適切な情報を伝え、啓発していくことも大切です。衛生的な環境への細心の注意を払い、保育室や子どもの身の回りの環境、衣類や寝具、遊具などを点検します。

事故防止については、子どもの発達の特性や発達過程を踏まえ、子どもの行動を予測し、起こりやすい事故を想定し、環境に留意して事故防止に努めることが求められます。子どもの成長に伴い行動範囲が広がるので、その活動を保障しながら、保育所全体で安全点検表などを活用しながら対策を講じ、安心、安全な保育環境を作っていかなければなりません。

  • ③清潔で安全な環境を整え、適切な援助や応答的な関わりを通して子どもの生理的欲求を満たしていく。また、家庭と協力しながら、子どもの発達過程等に応じた適切な生活リズムが作られていくようにする。

保育所は保健面や安全面に関して十分に配慮された環境でなければなりません。細やかに清掃され衛生的な場であることはもちろんのこと、明るさ、温度、湿度、音などについても常に配慮することが求められます。また、子どもが安心して探索活動をしたり、のびのびと体を動かして遊ぶことのできる環境であることが必要です。こうした環境の下で、保育士等が応答的に関わりながら食欲や睡眠などの生理的欲求を満たしていくことが、子どもの健やかな成長を支えます。子どもの欲求に応えて、語りかけながら優しく対応をすることにより、子どもは心地よくなる喜びとともに、自分の働きかけによって応じられた行為の意味を感じ取るのです。

送迎時の保護者との会話や連絡帳、懇談会などを通し、積極的に家庭との情報交換を行いながら、24 時間を見据えた子どもの生活時間を考慮し、子どもの食事、睡眠、休息、遊びなどが無理なく営まれるようにしていきます。そして、一人一人の生活に合わせ、時には柔軟な対応をとりながら、家庭と協力して子どもの生活や発達過程にふさわしい生活リズムが作られるようにしていきます。

  • ④子どもの発達過程等に応じて、適度な運動と休息を取ることができるようにする。また、食事、排泄、衣類の着脱、身の回りを清潔にすることなどについて、子どもが意欲的に生活できるよう適切に援助する。

子どもの発達を見通し、這う、歩く、走る、登る、跳ぶ、くぐる、押す、引っ張るなど全身を使う運動を適度に取り入れ、それぞれの状態にあった活動を十分に行うことが重要です。休息は、心身の疲労を癒したり緊張を緩和したり、子どもが生き生きと過ごすためには大切なことです。一人一人の生活リズムに合わせて安心して適度な休息や午睡がとれるようにするとともに、静と動のバランスに配慮した保育の内容が求められます。

食事は、楽しい雰囲気の中で喜んでできるようにします。友達と一緒に食事をしたり、様々な食べ物を食べる楽しさを味わったりすることで、第5章の3で示されている「食育の推進」が図られるようにしていきます。授乳する時は抱いて微笑みかけながら、ゆったりとした気持ちで行います。離乳の時期や方法については、保護者と情報を交換し、嘱託医や栄養士、調理員と相談しながら一人一人の子どもに合わせて慎重に進めます。

健康や安全等、生活に必要な基本的生活習慣や態度を身に付けることは、子どもが自分の生活を律し、主体的に生きる基礎となるものです。食事、排泄、睡眠、衣類の着脱、身の回りを清潔にすることなどの生活習慣の習得は、急がせることなく、子どもの様子をよく見て、一人一人の子どもにとって適切な時期に適切な援助をしていくことが大切です。保育士等は見通しを持って、さりげない援助をしながら、子どもに分かりやすい方法でやり方を示すなどして、自分でできた達成感を味わえるようにします。子どもが、自信や満足感を持ち、更にやってみようとする意欲が高められるようにしていきます。

 

イ 情緒の安定

(ア)ねらい

  • ① 一人一人の子どもが、安定感を持って過ごせるようにする。
  • ② 一人一人の子どもが、自分の気持ちを安心して表すことができるようにする。
  • ③ 一人一人の子どもが、周囲から主体として受け止められ主体として育ち、自分を肯定する気持ちが育まれていくようにする。
  • ④一人一人の子どもの心身の疲れが癒されるようにする。

次に、「情緒の安定」に関わるねらいとして、①から④までが示されています。

ここにあるように、子どもが保育士等に受け止められながら、安定感を持って過ごし、自分の気持ちを安心して表すことができることは、子どもの心の成長の基盤となります。周囲の大人や子どもから、かけがえのない存在として受け止められ、認められ、自己を十分に発揮していくことは自分への自信につながります。保育士等が子どもを一個の主体として尊重し、主体として受け止め認めるという対応を通して、子どもは自己を肯定する心を育んでいくのです。また、そのことにより保育士等や周囲の人への信頼感が育ち、一人一人がかけがえのない存在であることを感じ取っていきます。人との相互的な関わりにより育まれていくこうした自己肯定感を乳幼児期に育てることは、子どもの将来にわたる心の基盤を培うことでもあります。

一方、子どもの状態を把握し、心身の疲れが癒されるようにすることは、長時間にわたり保育所で過ごす子どもにとって必要なことです。子どもの情緒の安定を図り、その心の成長によりそい、適切に援助するために、「ねらい」に対応して特に、保育士等が行う事項を次の「内容」で示しています。

「情緒の安定」に関わる保育の内容は、「生命の保持」と相互に関連することはもちろん、特に「教育に関わるねらい及び内容」のイ「人間関係」の領域に示されている事項と深く関わります。それぞれの内容を踏まえ、一人一人の子どもの心の成長を助け、保育所全体で子ども主体の保育を実践していくことが求められます。

(イ)内容

  • ① 一人一人の子どもの置かれている状態や発達過程などを的確に把握し、子どもの欲求を適切に満たしながら、応答的な触れ合いや言葉がけを行う。

保育士等は、一人一人の子どもの心身の状態や発達過程を的確に把握し、それぞれの子どもの欲求を受け止め、子どもの気持ちに沿って対応していかなければなりません。また、子どもにとってどうすることが望ましいのかを検討しながら保育していくことが求められます。

子どもは、自分がして欲しいことを心地よくかなえられると安心し、自分の欲求をかなえてくれた人に対し、親しみと信頼感を抱くようになります。また、日ごろより、自分に向けられる優しいまなざしや態度から、自分が認められ愛されていることを感じ、自分からもそうしたまなざしや態度を示していきます。保育士等とのこうした温かなやり取りやスキンシップが積み重ねられることにより、子どもは安定感を持って過ごすことができるようになります。特に、乳児など低年齢の子どもが十分にスキンシップを受けることは、心の安定につながるだけでなく子どもの身体感覚を育てます。肌の触れ合いの温かさを実感することにより、人との関わりの心地よさや安心感を得て、自ら手を伸ばし、スキンシップを求めるようになっていきます。こうした子どもとの触れ合いは保育士等の喜びとなり、応答的なやり取りや言葉がけが豊かになる中で、子どもは保育士等の気持ちや言葉の表す意味を理解していきます。

  • ②一人一人の子どもの気持ちを受容し、共感しながら、子どもとの継続的な信頼関係を築いていく。

保育士等が一人一人の子どもの気持ちや心の声を聴き取り、適切に応答していく行為は保育の基本であり、人への信頼感はこうした関わりが継続的に行われることを通して育まれていきます。子どもは自分の気持ちに共感し、応えてくれる人がいることで、自分の気持ちを確認し、安心して表現したり行動したりしていきます。

また、保育士等が子どもと向き合う中で、自らの思いや願いを子どもに返していくことにより、子どももまた保育士等の存在を受け止め、その気持ちを理解するようになります。保育士等の温かい受容的な雰囲気とともに、自分への気持ちや期待を、子どもは敏感に感じ取るものです。

生涯にわたる人との信頼関係の基盤が保育所での生活によって培われていくことを認識し、互いに認め合い信頼される関わりを育み、子どもの心を豊かに育てていくことは保育士等の責任です。

  • ③保育士等との信頼関係を基盤に、一人一人の子どもが主体的に活動し、自発性や探索意欲などを高めるとともに、自分への自信を持つことができるよう成長の過程を見守り、適切に働きかける。

自分への自信や自己肯定感を育てていくことは、保育の大切なねらいです。一人一人の子どもが豊かに伸びていくその可能性を発揮して、かけがえのない人生を歩んでいること、自らが選択し、決定していくという主体性や生きることへの意欲を育んでいること、保育士等はそれらを心に刻んで子どもと関わることが重要です。そのためには、一人一人の子どもの人格を尊重し、命への尊厳を感受する保育士等の倫理性が求められます。

また、子どもの主体的な活動を促す保育環境を計画的に構成し、子ども自らが環境に関わり体得していくことが大切です。その姿を見守り、共感しながら、時には励まし、必要な助言をしたり、環境を再構成しながら保育士等も一緒に楽しんでいくことが必要でしょう。

大切なことは時間をかけてゆっくりと醸成されていきます。目に見えない心の育ちや人や物との出会いの中で芽生える子どもの様々な感情や考えを受け止め、多様な経験が重なる中で成長していくその過程を見守り、子どもの自己肯定感を育んでいくことが重要です。主体としての子どもを認め、肯定する気持ちを言葉や態度で子どもに伝えることにより、子どもは自分への自信や人への信頼感を獲得していきます。

  • ④一人一人の子どもの生活リズム、発達過程、保育時間などに応じて、活動内容のバランスや調和を図りながら、適切な食事や休息が取れるようにする。

保育所で長時間過ごす子どもの生活は夜型になりやすく、就寝時間も遅くなりがちです。また、子どもは保護者の就労状況や家庭での食生活などの影響を受けます。乳幼児期の子どもにふさわしい生活リズムや、その心身の成長を支える食事や適度な休息はたいへん重要であり、保育士等は子どもの生活を見通して、家庭と協力しながら適切に援助していくことが求められます。

子どもは、睡眠や食事が不十分であったり、心身の疲れがたまっていると、情緒が安定せず、不機嫌になったり、活動への意欲が衰えたりします。保育士等は一人一人の子どもの心身の状態に応じてきめ細やかに対応していきます。

いつでも安心して休息できる雰囲気やスペースを確保し、静かで心地よい環境の下で、子どもが心身の疲れを癒すことができるようにしていくことが大切です。また、午睡は、子どもの年齢や発達過程、家庭での生活や保育時間などを考慮して、必要に応じて取れるようにしていきます。子どもの家庭での就寝時間に配慮し、午睡の時間や時間帯を工夫し、柔軟に対応します。

さらに、子どもの生活時間全体に留意しながら一日の生活の流れを見通し、発散、集中、リラックスなど、静と動の活動のバランスや調和を図るようにしていきます。

 

(2)教育に関わるねらい及び内容

教育に関わるねらい及び内容は、第1章(総則)の3.保育の原理(1)保育の目標の(イ)から(カ)までを具体化したものです。そして、すべての領域におけるねらいは、子どもの「心情」、「意欲」、「態度」などを示しています。

教育に関わる領域は、保育士等が、子どもの発達をとらえる視点として5つに区分されています。この5領域が意味するものを理解し、子どもの発達を5つの窓口から的確にとらえることが求められます。

「領域」は、小学校の教科のように独立して扱われたり、特定の活動を示すものではなく、保育を行う際に子どもの育ちをとらえる視点として示されています。子どもが経験を積み重ねていく姿を様々な側面からとらえ、総合的に保育していくことが大切です。

 

ア 健康

健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う。

(ア)ねらい

  • ① 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう。
  • ② 自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする。
  • ③ 健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付ける。

「健康」の領域では、「(イ)健康、安全など生活に必要な基本的な習慣や態度を養い、心身の健康の基礎を培うこと」を具体化した「ねらい」として、①から③までが示されています。そして、保育士等の愛情に支えられた安全な環境のもとで、心と体を十分に動かして生活することにより、健康な生活を送るための基盤をつくることを目指します。食事、排泄、睡眠、着脱、清潔などの基本的な生活習慣の確立や、食生活などを通し、自分の健康に関心を持ち、病気の予防や健康増進のための活動をすること、安全に行動することなどが含まれます。

特に、心と体の健康は、相互に密接な関わりがあることを踏まえ、子どもが保育所の生活の中で、「明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう」といった心情を持ち、「自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする」意欲が育つようにすることが大切です。また、子どもが全身を使って活動することを通して、「健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け」、自分の体を大切にしようとする気持ちや態度を育てていくことが望まれます。

こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

  • ① 保育士等や友達と触れ合い、安定感を持って生活する。

子どもが長時間にわたり生活する保育所において、子どもの欲求を理解し受け止める保育士等との関わりの中で、子どもは次第に心の安定を得て、友達とも安心して関わるようになります。

この安定感は、心の健康につながるものです。子どもが自立して行く過程にはいろいろな出来事が待ち受けていますが、保育士等や友達との温かい触れ合いの中で得た安定感を心の拠りどころとして、子どもは、様々な活動に意欲的に取り組んでいくようになります。

  • ②いろいろな遊びの中で十分に体を動かす。

保育士等は、子どもの発達過程に沿って十分に体を動かす活動を保障する必要があります。すなわち、寝返り、腹ばい、はいはい、つたい歩き、立つ、歩く、走る、登る、降りる、跳ぶなど、その時期に合わせた運動を取り入れて遊ぶことが、子どもの心と体を育てます。また、つまむ、たたく、ひっぱる、丸める、めくるなどの手や指を使う遊びも、子どもの能力や興味に応じて展開していくことが大切です。発達過程にふさわしい遊具などの物的環境にも十分配慮します。

子どもは十分に体を動かすことの心地よさを味わうことで、自ら活動することの喜びや達成感を味わい、ますます活発に遊ぶようになります。また、様々な遊びを通して身体の諸機能の発達が促されていきます。子どもの心身の成長には身体感覚を伴う様々な経験が必要です。乳幼児期に十分に体を動かすことの意義を踏まえ、子どもの身体の調和的発達を促していきましょう。

  • ③進んで戸外で遊ぶ。

戸外は子どもにとって思いきり全身を動かして遊ぶことのできる空間です。自然は、子どもに様々な刺激を与えます。戸外は自然の不思議さやおもしろさに満ちており、子どもに多くの興味や関心を抱かせます。保育所の園庭だけではなく、公園や広場など、自然環境の豊かな場所に出かけ、戸外で遊ぶことの心地よさを十分に味わうことができるようにします。

乳児にとっても、外気に触れることは大切であり、五感を通して様々な感覚や知覚を得ていきます。一人一人の子どもの健康状態を把握した上で、また、紫外線などの対策に配慮しながら散歩などを心がけたいものです。

また、子どもが進んで体を動かし、様々な遊具や用具などを使った運動や遊びを楽しむことができるように、保育の環境に留意し、戸外での遊びが豊かに展開されるよう工夫して保育することが必要です。

  • ④様々な活動に親しみ、楽しんで取り組む。

子どもの心と体が調和的に発達していくためには、様々な経験を積み重ねることが必要です。子どもが一人でじっくりと好きな遊びに取り組むことは重要であり、その時間と空間が保障されることにより様々な気付きを得ていきます。

子どもは自ら楽しみながら、心と体を十分に動かし、繰り返し試したり、工夫したりすることにより身の回りの事象などへの興味や関心を深めていきます。そして、様々な遊びや活動に親しむ中で、興味や関心を同じくする友達との関わりが生じ、徐々にその関わりを深めていきます。

さらに仲のよい友達と一緒に取り組むだけでなく、グループやクラスなど集団で取り組む活動を経験していくことにより仲間と共に活動することのおもしろさを味わい、その楽しさや充実感が子どもの心と体を育てます。

  • ⑤健康な生活のリズムを身に付け、楽しんで食事する。

子どもの生活の場である保育所において、適切な食事や休息はたいへん重要です。バランスのとれた食事や適度な運動と休息により、健康な生活のリズムや生活習慣を身に付けていくことは、子どもの自立の基礎となります。

長時間にわたる保育所での生活において、活動と休息のバランスに配慮するとともに、明るく和やかな雰囲気の中、子どもが友達と一緒に食事を食べることを楽しみ、食への関心や意欲を高めていくことができるようにします。そして、楽しい食事が子どもの心と体の栄養となるよう食事の環境に配慮することが大切です。

第5章の3の「食育の推進」を踏まえ、子どもの食生活を充実させていきましょう。

  • ⑥ 身の回りを清潔にし、衣類の着脱、食事、排泄など生活に必要な活動を自分でする。

身の回りを清潔にする習慣については、おむつを取り換えてもらい、きれいになった心地よさを感じること、食事の前後に手や顔を拭いてもらい、清潔になることの心地よさを感じることなど、保育士等の援助が必要ですが、次第に子ども自らがやってみようとするようになります。衣服の着脱についても、発達過程に応じて保育士等が手を添え、丁寧に優しく援助することにより、自分でしようとする気持ちが芽生えていきます。その気持ちを大切にし、子どもの意志を尊重しながら見守ったり援助したりしながら、自分でできたことの喜びを味わえるようにしていきます。

和やかな雰囲気の中で、丁寧に援助してもらい、自分でできたことをともに喜んでもらう中で、徐々に食事や排泄などの生活習慣が身に付いていきます。子どもの気持ちに寄り添い、繰り返し丁寧に関わるとともに、発達過程や子どもにふさわしい食器やテーブルなどの生活用具に配慮することが求められます。

  • ⑦ 保育所における生活の仕方を知り、自分たちで生活の場を整えながら見通しを持って行動する。

子どもの一日の生活の流れを明確にすることにより、子どもは安心感を持ち、その都度必要な行動や約束事などを徐々に理解していきます。

例えば、登所後の持ち物の始末、遊んだ後の遊具などの片づけ、自分の持ち物や用具を整理すること、食事の前や排泄後の手洗いなど、保育士等が手を添え、繰り返し丁寧に伝えていくことが大切です。保育士等の立ち居振舞いや物を扱う態度などは子どもが生活する上でのモデルとなり、子どもに大きな影響を及ぼします。

保育士等は、子どもが見通しを持って意欲的に行動することができるように、物の配置や子どもの動線などに留意するとともに、快適に生活するための約束事を子ども自身が理解し、その必要性に気付いていけるよう援助します。

例えば、遊んだ後に遊具などを片付けることにより、次に遊ぶときに気持ちよく使えることに気付いたりしながら、子どもが生活の場を自ら整えようとすることを促していきます。また、十分に遊んで楽しかったといった充実感や満足感が次の活動につながっていくという子どもの活動の連続性に留意することも大切です。

  • ⑧自分の健康に関心を持ち、病気の予防などに必要な活動を進んで行う。

保育士等は、日頃から子どもの心身の健康について理解を深めるとともに、子ども自身が自分の体や健康に関心を持ち、健康に過ごすことの大切さに気付くことが大切です。そのためにも、生活面の細やかな援助やスキンシップなどを通し、子どもの身体感覚を育て、また、健康診断や身体測定などの機会を通して、自分の体に関心を持つようにすることが必要です。

保育士等が看護職や栄養士等と連携を図りながら子どもの状態を把握し、適切に対応していくとともに、子ども自身が自分の体の状態を意識し、異常などを感じた時に、保育士等に伝えられるようになることが大切です。そのためには、様々な方法で病気や発熱、排便などについて、子どもに分かりやすく伝え、清潔にすること、手洗いやうがいをすること、汗をかいたら着替えること、寒暖に応じて衣服の調節をすること、戸外では帽子をかぶることなど、子どもが自分で気付いてできるように日常的な働きかけも重要です。

  • ⑨危険な場所や災害時などの行動の仕方が分かり、安全に気を付けて行動する。

保育所の事故防止や安全対策が重要であることはいうまでもありません。第5章に示されていることを踏まえ、子ども自身が安全に過ごすための習慣を身に付け、危険を回避することができるよう計画的に保育していくことが必要です。

年齢や発達過程などに応じて、子どもへの声のかけ方、注意の促し方、安全の確保、危険回避の仕方などは様々ですが、子どもの安全を第一に考慮するとともに、危険に対する知識やその理由を繰り返し丁寧に伝えていくことが重要です。

また、子どもの遊びや行動を狭めることなく、子どもが保育士等や友達と一緒に行動しながら、危険な場所や遊び方を知り、考えながら行動していくことが大切です。

交通安全や避難訓練などを定期的に計画、実施する中で、子ども自らが安全に対する認識や関心を高め、災害時の行動や避難場所、非常時の行動、不審者への対応などについて、保育士等の指示を聞いて行動できるようにしておくことが必要です。

また、家庭や地域との連携を図るとともに地域の安全に関わる行事などに参加することも大切です。

 

イ 人間関係

他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う。

(ア)ねらい

  • ①保育所生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう。
  • ②身近な人と親しみ、関わりを深め、愛情や信頼感を持つ。
  • ③社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける。

「人間関係」の領域では、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(ウ)人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと」をより具体化した「ねらい」として、①から③までが示されています。

人が人として人との関わりの中で生きていくこと、そしてその関わりの力を養い、子どもが周囲の人への信頼感を基盤に十分に自己を発揮し、充実感を持って生きていくことが重要であり、こうしたことがこの領域のねらいでもあります。

特に、人生の初期に人への基本的信頼感が養われることは重要であり、その信頼感に支えられて「保育所生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう」心情を持つことにより、様々な意欲や態度が培われていきます。それは、「身近な人と親しみ、関わりを深め、愛情や信頼感を持つ」ことであり、さらに人との関わりを通して、「社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける」ことでもあります。

乳幼児期の子どもにとって身近な保育士等や友達と楽しく過ごし、意欲的に活動していくことにより、自分も相手も大切にしようとする気持ちや人への思いやりが育つことはたいへん重要です。子どもは保育所での生活の中で、考えながら行動したり、友達と協同して遊んだりすることを通して徐々に社会性を身に付けていくのです。

こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

  • ①安心できる保育士等との関係の下で、身近な大人や友達に関心を持ち、模倣して遊んだり、親しみを持って自ら関わろうとする。

子どもは、特定の保育士等への安心感を基盤として、徐々に人間関係を広げていきます。

人生のかなり早い時期に、自分とよく似た子どもの存在を認め、同じものを見つめたり、同じ遊具を手にしたりしながら、徐々に保育士等が仲立ちとなり、同じ動作や身振りをしたり、友達に手を伸ばしたり、笑い合ったりするようになります。

友達との関わりが増えるにつれて、友達の様子を観察したり、一緒に遊ぼうとしたり、また、友達のすることに関心を持ったり刺激を受けながら遊びの幅を広げていきます。やがて、一緒に遊ぶことを喜び、友達と役割分担をしながら協力して遊ぶようになります。

こうした人間関係の広がりと深まりの基盤となるのは、常に子どもが保育士等や友達に受け入れられているという安心感と人への信頼感です。

子どもは、保育士等が様々な人とより良い関係を築こうとしているその姿をよく見ています。保育士等は子どもにとって最も身近な人的環境であるとともに、子どもにとってモデルとなっていることを常に心に留めましょう。

  • ②保育士等や友達との安定した関係の中で、共に過ごすことの喜びを味わう。

子どもは、成長とともに徐々に友達と一緒に過ごす時間を増やしていきます。そして、友達と一緒に遊んだり活動したりする中で、共に過ごす楽しさを味わうようになります。その様子を見守ったり、援助したり、仲立ちしたりする保育士等の役割は重要であり、一人一人の子どもの友達への興味や関心、仲間関係などを把握する必要があります。

子どもが友達の様子を観察し模倣したり、一緒に遊ぶ喜びを味わうことは、社会性の発達を促し、ひいてはより豊かな人間理解へとつながっていきます。また、子ども同士で遊ぶ体験を重ねることにより、創造力を発揮しながら、長時間にわたって組織的な遊びを豊かに展開していくようになります。友達や保育士等と共に過ごすことの楽しさを十分に味わうことが、乳幼児期には特に重要です。

  • ③自分で考え、自分で行動する。

子どもが生活する中で、自分なりに考え自分でやってみようとすることは、主体的に生きていく力の基礎を培う上で重要です。きめ細やかな援助を受け、十分に依存したり、守られたりする経験を重ねた子どもが、安心して自己主張するようになり、自我を形成していきます。そして、人との関わりの中で自分の考えや気持ちをみいだし、自ら環境に働きかけ、活動を生み出していきます。

子どもは自ら行動することで、創造力を発揮したり、先の見通しを立てたり、期待や目的を持って、遊びや活動を発展させていきます。そうした姿を保育士等や友達に認めてもらうことで、自分とは異なる人の気持ちに気付き、その考えを聞き、更にもう一度自分で考えるようになります。子どもが、様々な遊びや活動の中で、試行錯誤を重ねながら、自分なりにじっくりと考えて行動することができるように、子どもの気持ちに寄り添って保育していくことが大切です。

  • ④自分でできることは自分でする。

子どもは、安心できる保育士等との関係の下で、食事や排泄など生活に必要なことを自分でしようとするようになります。子どもが自分でできることの喜びや自信を持つことができるよう援助するとともに、できたことを褒めるだけではなく、自分でしようとする意欲や姿勢を十分に見守り、認めていくことが必要です。

成長の途上で、子どもは自分でやりたい気持ちがかなえられず、思い通りにいかないことで泣いたり、かんしゃくを起こしたりする姿も見られます。反抗しながらも大人に依存するなど、子どもの自立は一直線に進むのではなく、大人への依存と自律を繰り返し、行きつ戻りつしながら成長していくものです。

子どもが自ら選択して行動できるよう、保育士等にはじっくりと待つ姿勢と発達過程への深い理解が求められます。

  • ⑤友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共感し合う。

子どもは自分と同じものに興味を示したり、同じような行動をしたり、同じ遊びをする身近な子どもの存在を、やがて「友達」と理解します。そして、友達と一緒に遊ぶことに喜びや楽しさをみいだし、関わりを深めていくことで仲間意識を持つようになりますが、その中で反発したり、競争心を持ったり、複雑な感情を経験します。けんかをしたり、自己主張し合うことも多くなりますが、共に過ごす中で徐々に互いの気持ちに気付いたり、相手の感情を理解していきます。

嬉しいときや悲しいときに、共に喜んだり、共に悲しんだりしてくれる友達の存在は子どもにとって心の支えとなります。子どもは友達とやり取りを重ねる中で、友達の喜びや悲しみに気付き、他者を思いやる気持ちを育んでいきます。

  • ⑥自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く。

子どもは、保育士等や友達との安定した関係が築かれることにより、自分のしたいこと、して欲しいことを主張するようになります。相手に自分の思いをぶつけ、その気持ちが受け入れられたり、受け入れられなかったりする経験を経て、徐々に、相手にも分かるように話したり、相手の言うことを理解しようとするようになります。また、遊びを楽しくする上で互いに合意することが大切だと気付いたり、対話を通してどうすることがよいのかを考えたりしていきます。子どもは、自己主張し合うなかから、自己抑制することを少しずつ体得していくのです。

子どもは共に遊んだり、生活したりする中で、相手の気持ちを理解するだけでなく、相手に分かるように話すにはどうすればよいかを考えていきます。保育士等の言動は子どもが他者と関わる際のモデルになったり、他者と関わるきっかけとなったりすることに留意することも大切です。

  • ⑦友達の良さに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう。

子どもは様々な友達と遊ぶ中で、自分とは異なる思いや感情を持つ友達の存在に気付き、徐々にそれぞれの友達の良いところを知っていきます。友達の得意な遊びや性格、特徴など、自分と違う友達の個性を認めて様々な感情を抱くようになります。そして、人は皆違いがあり、違っていて良いことを実体験として感じ取っていくのです。また、遊びや活動に取り組むプロセスで、様々に自己主張したり、アイデアを出し合ったり、友達の考えや気持ちに耳を傾ける経験を通して、友達の良さに気付き、相互理解を図っていきます。

保育士等は、それぞれの良さを十分に認め、そのことを子どもたちに伝えながら、一緒に活動する楽しさを味わえるようにしていきます。

  • ⑧友達と一緒に活動する中で、共通の目的を見いだし、協力して物事をやり遂げようとする気持ちを持つ。

子どもは幼い頃から友達の存在を気にかけ、次第に同じ遊具で遊んだり、顔を見合わせて笑ったり、名前を呼び合ったりします。そして、ままごとなどのごっこ遊びを楽しんだり、言葉を交わしながら様々な活動に一緒に取り組んでいくようになります。

また、子どもは徐々に目標や期待を持って活動するようになりますが、失敗を恐れて活動することをためらったり、試行錯誤する中、やり続ける気持ちが途中で衰えてしまったりすることもあります。そうした気持ちを、保育士等が敏感に感じ取り、子どもの気持ちを認め、励ますとともに、子ども自身が友達との関わりの中で意欲を高めていくことが大切です。途中であきらめず、友達と一緒に達成感や充実感を味わうことを通して、子どもは物事を最後までやり遂げようとする集中力や持続力を培っていきます。友達と活動する中で、共通の目的をみいだしたり、一緒に遊ぶ中で協力して遊びを発展させたり、子ども同士が力を合わせ取り組んでいく姿を保育士等は十分に認め、集団での活動が意義あるものとなるようにしていきます。

  • ⑨良いことや悪いことがあることに気付き、考えながら行動する。

子どもは、自分や友達のしたことに対して、周りの大人や友達が様々に対応する姿やその言動により、物事には良いことや悪いことがあることに気付いていきます。特に、保育士等が自分の行動を受け入れたかどうかに基づいて、自分のしたことが良いことだったのか、悪いことだったのかを判断しようとすることがあります。保育士等は子ども自身が気付き、考えていく過程を見守るとともに、適宜、良いこと、悪いことを明確に示すことが必要です。

子どもは、保育士等の適切な援助を受けることで、相手の内面にも徐々に注意を向けることができるようになります。自分の行動が相手にどのように受け止められたかについて子ども自身が考えられるような働きかけが必要です。また、子どもが様々な感情を味わいながら、自分で考え判断していく経験を積み重ねていくことができるよう援助していくことが重要です。

  • ⑩身近な友達との関わりを深めるとともに、異年齢の友達など、様々な友達と関わり、思いやりや親しみを持つ。

保育所は、0歳から6歳までの子どもが、共に生活しているところです。

興味や関心の似通っている同年齢の子ども同士の関わりでは、自分の気持ちや欲求を出し合い、様々な遊びをつくり上げていきます。また、そうした活動を通して、友達との関わりを深めていきます。自分より年下の子どもに対しては、生活や遊びの様々な場面で手助けをしたり気持ちを汲んで慰めたり優しい言葉をかけたりするなど、思いやりの気持ちを持ったり、態度で示したりします。また、年上の子どもに対しては、大きくなることの喜びやあこがれを持ち、自分が困っている時などに優しくされた経験があると、年下の子どもに同じように優しくしてあげようという気持ちを持つことでしょう。

このように、保育所の生活において、子どもは異年齢の子どもとの関わりを通して様々な感情を経験し、自分とは異なる存在を受け止めていきます。保育士等は、このような経験が相互によいものとなるように、環境を設定したり、異年齢での活動を積極的に取り入れていくことが大切です。

  • ⑪友達と楽しく生活する中で決まりの大切さに気付き、守ろうとする。

保育所の生活の様々な場面には、順番を待つなど、生活や遊びをスムーズにするための決まりやルールがあります。

子どもはまず、保育士等の関わりや言葉がけにより、このような決まりの存在に気付きます。また、保育士等に助けられて決まりの意味を理解したりしていきます。年齢が高くなるにしたがい、友達と一緒に簡単なルールのある遊びを楽しむ中で、次第に決まりを守ることができるようになります。また自分と友達の欲求や思いがぶつかりあった時には、決まりに従うことで解決に結びつきやすいことにも気付いていきます。保育士等は、状況をよく把握しながら、子どもたち自身が様々な感情を表しながら、ルールを作ったり、ルールを変えたりなど仲間の中で調整したり、工夫したりする姿を見守り、必要に応じて援助します。

子どもはこうした子ども同士のやり取りや集団での活動の中で、徐々に規範意識を身に付けていくのです。

  • ⑫共同の遊具や用具を大切にし、みんなで使う。

保育所の中には、友達や仲間と共に使うものがたくさんあります。保育士等と共に遊具を使って楽しく遊ぶ経験をしたり、物の名前や役割を知ったりする中で、遊具などに親しみ、それらが自分にとって大事なものになっていきます。遊具などに愛着を持ち、大切に取り扱う保育士等の姿は子どもにも伝わることでしょう。

また、子どもは友達と共に一つの遊具で遊んだり、みんなで使って遊ぶ楽しさを味わったりすることを通して、遊具が遊びをおもしろくすることやその活用の仕方を理解していきます。保育士等は遊具や用具を介して子どもの遊びや生活が広がり、友達との関わりが深まっていくことにも留意し、そうした中で共同のものを大切にしようとする気持ちや態度が育まれていくよう環境を整えていきます。

  • ⑬高齢者を始め地域の人々など自分の生活に関係の深いいろいろな人に親しみを持つ。

都市化や核家族化が進行する中、世代間の交流が乏しくなった現代では、子どもが高齢者などと触れ合う機会が少なくなっています。こうした状況の中で、保育所に高齢者や地域の方を招き、伝承遊びを教えてもらったり、昔話を語ってもらったり、伝統芸能などを披露してもらったりすることは、人に対する親しみや感謝の気持ちを育む上で、重要な機会です。こうした人々との触れ合いを通し、子どもが様々な文化に出会い、興味や関心を持ったり、自分の家族や身近な人のことを考えたりするきっかけとなることも大切でしょう。

また、子どもは、散歩などの機会に地域の人と挨拶を交わしたり、地域の高齢者施設などを訪れたりする中で、人への関心を深め、人は周囲の人と関わり、支え合いながら生きていることに気付いていきます。

  • ⑭外国人など、自分とは異なる文化を持った人に親しみを持つ。

異なる文化を持つ人々の存在は、近年、ますます身近になってきています。

保育所においても、多くの外国籍の子どもや様々な文化を持つ子どもたちが、一緒に生活しています。保育士等は、一人一人の子どもの状態や家庭の状況などに十分配慮するとともに、それぞれの文化を尊重しながら適切に援助することが求められます。また、子どもが一人一人の違いを認めながら、共に過ごすことを楽しめるようにしていきます。

保育所の生活の中で、様々な国の遊びや歌などを取り入れたり、地球儀や世界地図を置いたり、簡単な外国語の言葉を紹介していくことも、子どもが様々な文化に親しむ上で大切なことです。

異なる文化を持つ人との関わりを深めていくことは子どもだけでなく保育士等にとっても重要であり、多文化共生の保育を子どもや保護者と共に実践していきたいものです。

 

ウ 環境

周囲の様々な環境に好奇心や探究心を持って関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。

(ア)ねらい

  • ①身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心を持つ。
  • ②身近な環境に自分から関わり、発見を楽しんだり、考えたりし、それを生活に取り入れようとする。
  • ③身近な事物を見たり、考えたり、扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする。

「環境」の領域では、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(エ)生命、自然及び社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うこと」をより具体化した「ねらい」として、①から③までが示されています。

子どもと環境の関わりにおいては、身体感覚を伴う直接的な体験を通して身近な環境に親しみ、子どもの「心情」が豊かに湧いてくることが大切です。特に自然と触れ合う中で、その不思議さ、おもしろさ、心地よさなどを十分に味わい、周囲の子どもや保育士等と共感しながら興味や関心を広げ、自ら環境に関わる「意欲」を高めていきます。環境との関わりによる様々な発見や気付きは子どもの考える力を培っていきます。また、環境に関わる「態度」を徐々に養っていきます。

さらに、子どもは、様々な物を見たり、扱ったり、それらについて考えたりする中で、物の性質や数量、文字などを認識するようになっていきます。生活や遊びを通してそれらに親しみ、感覚を豊かにすることが求められます。

こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

  • ①安心できる人的及び物的環境の下で、聞く、見る、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする。

環境との相互作用により成長・発達していく子どもにとって、最も身近な人的環境である保育士等の存在は重要であり、保育士等により情緒の安定が図られ、基本的な信頼感を得ていきます。そして、それを拠りどころにして、周囲の環境に興味や関心を向け、盛んに探索活動をするようになります。特に、歩行によって自由に歩けるようになることは子どもの探索意欲を大いに高めます。

また子どもは、聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚を働かせ、その敏感な諸感覚により様々な人や物を認識していきます。乳幼児期には、音、匂い、感触、味などへの感覚を豊かにしていくことが必要です。身体感覚を伴う経験を積み重ね、自ら環境に関わる中で、豊かな感覚や感情が培われていくことに留意し、物的環境を整えるとともに、保育士等自ら感受性を豊かにしていくことが求められます。

  • ②好きな玩具や遊具に興味を持って関わり、様々な遊びを楽しむ。

子どもは、身の回りに用意された玩具や遊具や生活用具に興味や好奇心を持ちます。また、それらに自分から関わり、満足するまで触って遊ぶことで、外界に対する好奇心や関心を持つようになります。子どもは、そうした活動の中から自分から物や人に関わっていこうとする自発性を育んでいきます。

保育士等は、子どもが自ら興味を持ち、関わってみたいと思うような玩具や遊具を、子どもの周りに準備しておくことが必要です。そして子どもと共にそれらに関わり、遊びを発展させることが求められます。玩具や遊具の安全性はもちろん、その質、色、デザインなど、乳幼児期の子どもが出会い、関わる物が子どもの感覚や感性を育んでいくことを自覚し、その種類、質、量などにも十分に配慮していくことが必要です。

  • ③自然に触れて生活し、その大きさ、美しさ、不思議さなどに気付く。

近年、子どもは自然と触れ合う体験をする機会が乏しくなっています。子どもが全身を介して直接自然と触れ合う体験は、子どもの心を癒すだけでなく、自然に対する驚きの気持ちや、その美しさに感動する気持ちを子どもに抱かせ、その不思議さに魅せられる中で様々な気付きを得ていきます。動植物や土、砂、水や光、それらを含めた野外の自然に触れて過ごしたり、遊びに取り入れたりする中で、好奇心や探究心、思考力が生まれてきます。こうした体験は、子どもが科学的な見方や考え方の芽生えを培う基礎となるものであり、身近な自然に心を動かしながら保育士等や友達と共感したり、表現活動に結び付けていくことも大切です。

保育士等は、園庭の自然環境を整備したり、散歩に出かけて自然と触れ合う機会を作ったりして、身近な動植物や自然事象に子どもが接する機会を多く持つようにしていくことが大切です。また、保育士等自身が感性を豊かに持ち、自然の素晴らしさに感動することや、子どもの気付きに共鳴していくことが求められます。保育室の環境構成に四季折々の自然物を取り入れるなどの工夫も必要でしょう。

  • ④生活の中で、様々な物に触れ、その性質や仕組みに興味や関心を持つ。

子どもは、生活の中で遊具や用具、素材等の様々な物に触れ、それらを手にして遊んだり、その感触を味わったりします。乳児など年齢の低い子どもは玩具を舐めたり、繰り返し触ったり、試したりします。そうする中で、徐々に、それらの形や性質、仕組みなどに興味や関心を持つようになっていきます。

また、子どもは、身近にある物の働きや仕組みについて、自分なりに考えたり、試行錯誤しながら触ったり試したり工夫を凝らしてみたりします。そして、それらに対し親しみを持ち、遊びに取り入れようとします。物を介して、また物に触発されて遊びが発展すると、友達も一緒にその遊びに加わり、ますます遊びが楽しくなるという循環が生じます。また、友達と一緒に様々な物に見立てたり、作り出したりすることで、ごっこ遊びを楽しんだり仲間関係を深めたりします。

保育士等は、こうした遊びが豊かに展開されるよう様々な遊具や用具、素材などを用意し、物的環境を整えることが大切です。また、保健や安全面への配慮も欠かせません。

  • ⑤季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く。

子どもは、散歩の機会や園庭で遊んでいる時などに、温度の変化、木々の葉の色のうつろいや、日差しの強さ、風の冷たさなどを通して季節によって自然が変化することに気付きます。また、自然の変化に伴って、食べ物や衣服、生活の仕方など、人間の生活も様々に変化することに関心を持つようになります。

こうした季節の変化に目を向けたり、気付いたりしていくことができるよう、自然に触れる機会を計画的に設けたり、季節感のある遊びを取り入れたりしながら環境構成に生かしていきます。また、季節の草花や野菜などを栽培したり、季節に応じた伝統行事に触れたりする機会を持つことも大切です。子どもが自分の感覚を用いて季節の変化を感じ取ることができるようにするとともに、保育士等が季節感を取り入れた生活を楽しめるような取組も求められます。

  • ⑥自然などの身近な事象に関心を持ち、遊びや生活に取り入れようとする。

子どもは、身近な環境に興味を持ち、自分から関わり、自分の生活を広げていきます。子どもが最初に触れる身近なものには、土や水、木の枝や葉っぱ、小石や昆虫などの自然があります。子どもはそうした自然に心を動かし、親しみながら遊びの中に取り入れ、自然との関わりを深めていきます。

また、子どもは身近にある事物や事象に興味や関心を抱くとともに、自分たちの生活との関連にも気付いていきます。特に近年では地球環境やゴミなどの環境問題について、様々な情報を通して関心を持つ機会が増えています。

保育士等は、子どもが身近な自然などの様々な事物や事象に触れる機会を多く持つことができるようにするとともに、それらへの興味や関心を深め、探索したり、自分の生活との関連を考えたりするきっかけをつくることも必要です。また、遊びに取り入れたりすることができるよう環境を整えていくことが大切です。

  • ⑦身近な動植物に親しみを持ち、いたわったり、大切にしたり、作物を育てたり、味わうなどして、生命の尊さに気付く。

子どもは、親しみの持てる小動物や植物を見たり、触ったり、世話をしたりすることを通して、身近な動植物に親しみを持つとともに、いたわりの気持ちを持ち、やがては生命の尊さに気付いていきます。

親しみやすい小動物を飼育したり植物を栽培したりすることを通して、子どもは保育士等と共にえさや水を与えて世話をしながら、興味や関心を深め、自ら関わっていくようになります。また、世話をすることで、その成長や変化などに気付き、感動したり大切にする気持ちを持つようになります。動植物がどのようにして生きているのかを考えたり、命の持つ不思議さに気付いたり、生きているものへの温かな感情が芽生えるよう、保育士等はそのきっかけを与えたり、動植物への関わり方を伝えていきます。子どもの興味や関心に応じて、図鑑や関連する絵本などを用意することも必要でしょう。

  • ⑧身近な物を大切にする。

子どもが、身近な物との関わりや愛着を深め、自分から大切にしようとする気持ちが持てるようになることが大切です。

子どもは、様々な物が身近にあることに気付き、興味を持って関わり、十分にその物で遊んだり、扱ったりしながら、物への愛着や親しみを育てていきます。それぞれの物の役割や特徴を認識していきながら、物を介して友達と楽しく遊んだり、活動したりする経験を重ねていくことが大切です。

また、保育士等が不要になったものを工夫して作ったり、身近な物を大切に扱っている様子を見ることで、子どもは物を大切にしようとする気持ちが芽生えたり、大切に扱うことの必要性に気付くようになります。保育士等は、その物に応じた関わり方や扱い方、片付け方などを繰り返し丁寧に伝えていく必要があります。

  • ⑨身近な物や遊具に興味を持って関わり、考えたり、試したりして工夫して遊ぶ。

子どもは、身の回りの物を触ったり、たたいたり、感触を味わったりしますが、やがてその物を何かに見立ててごっこ遊びを展開したり、遊びの道具として使ったりします。子どもは遊びの中で、その物の使い方について独自の着想を得てそれを試してみたり、工夫を凝らしてみたりするなど、じっくりと遊びに取り組み、考える力を育んでいきます。

子どもと物との出会いや関わりを見守り、子どもが身近な物や遊具を使って、じっくりと遊び込む時間を十分に持つことが大切です。また、子どもが、身近な物や遊具に興味を持ち、自由に触ったり、試したり、工夫したりしていることに保育士等が気付き、その様子を他の子どもに伝えたり、保育士等の工夫を示したりすることも重要です。子どもが心と体を働かせて物と関われるよう環境を構成し、いろいろな物に興味を持って自ら関わる機会をつくるようにしていきます。

  • ⑩日常生活の中で数量や図形などに関心を持つ。

子どもは、ままごとや積み木などの遊具で遊ぶ中で、また、食事など生活の様々な場面で、物の形や大きさ、その量などに気付いていきます。同じ形や違う形の積み木で遊んだり、ままごとの器を並べたり、木の実や収穫した野菜を分けてみたり、食事やおやつの際に量を確かめたりすることを通して、数量や数などへの関心を徐々に高めていきます。また、保育士等や友達とのやり取りを通して、長さや大きさを比べたり、自然物の多様な形に触れたりしながら、具体的な体験を通して、数量などへの感覚を深めていきます。こうした体験を重ねることにより、子どもは数、量、形などといった抽象的な概念に触れていくのです。

概念を把握する基礎は幼児期に形成されます。保育士等は、図形や数量だけでなく、前後、左右、遠近などの位置の違いや時刻等について、毎日の生活の中で次第に関心を持つことができるよう、環境構成に配慮していくこと

が求められます。

  • ⑪日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心を持つ。

子どもは、生活や遊びの中で身近な標識や文字に関心を持つようになります。保育所でも子どもの関心に沿って興味が持てるように環境を構成していくことが大切です。子どもは象徴機能の発達や言葉の獲得などを通して、物と名前の結びつきや、表示などが示す物や事柄を理解していきます。

また、保育所では一人一人の子どものマークを決めることがあります。子どもは、自分のマークを覚え、愛着を持つとともに、友達とそのマークを照らし合わせて覚えたりするなどマークが意味するものを認識していきます。そして、徐々に身の回りの表示などが一定の意味やメッセージを持つことに気付いていきます。子どものこうした発見は、様々な場所にある標識や文字への興味、関心となり、象徴機能として存在する標識や文字が何を意味するのかを保育士等に聞いたり、自分で考えたりすることで、更に認識を高めていきます。

また、使われている言葉が特定の文字や標識に対応していることや、文字による様々な表現があることを、絵本などに親しむ中で気付くことができるよう配慮することも必要です。

  • ⑫近隣の生活に興味や関心を持ち、保育所内外の行事などに喜んで参加する。

子どもは、身近な大人の様子を観察し、模倣したり、イメージを取り込んでいきます。また、大人の仕事や生活に興味を持ち、それらをままごとやお店屋さんごっこなどの遊びに取り入れて遊んだり、役になりきって表現遊びを楽しみます。大人の生活や身近な社会の事象への関心は年齢と共に高まり、大人の手伝いをしたり、近隣の人々の生活や環境などへの興味や関心を広げていきます。そして、電車やバス、消防署や図書館などの公共機関にも関心を持ち、さらに地域には様々な場があり、様々な人がいることを知っていきます。

また、子どもは、友達や保育士等、保護者と共に保育所内外の行事に参加し、その雰囲気を味わったり、楽しんだりしながら、徐々にその中で自分なりの役割を果たすことができるようになります。

子どもが、こうした社会の事象に関心を持ち、人と人が支え合って生活していることに気付いたり、人の役に立とうとしたりする気持ちが芽生えていくように、保育士等が子どもの気付きに共感しながら、適切に働きかけていくことが求められます。

 

エ 言葉

経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養

う。

(ア)ねらい

  • ①自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。
  • ②人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう。
  • ③日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、保育士等や友達と心を通わせる。

「言葉」の領域は、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(オ)生活の中で、言葉への興味や関心を育て、話したり、聞いたり、相手の話を理解しようとするなど、言葉の豊かさを養うこと」をより具体化した「ねらい」として①から③までが示されています。

言葉をめぐっては、話すことと聞いて理解することが大切ですが、特に乳幼児期には言葉への感覚を豊かにし、言葉を交わすことの楽しさが十分に味わえるようにしていくことが重要です。そのためには、子どもが言葉や表情で表した気持ちをしっかりと受け止め、応えていくことが大切であり、保育士等との応答による心地よさや嬉しさといった「心情」が言葉を獲得する上での基盤となります。そうしたやり取りにより、子どもは更に自分の気持ちを伝えようとしたり、保育士等や友達の言うことを分かりたいと思うようになり、話すこと、聞くことへの「意欲」を高めていきます。

また、言葉の意味するものや話されたことの内容を徐々に理解し、言葉で伝え合うことの喜びや言葉により心を通わせる楽しさを味わっていきます。言葉を話したり、相手の言うことを聞いたりする「態度」はこうした経験を積み重ねることにより身に付いていくのです。

こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

①保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする。

赤ちゃんは人の声に最もよく反応し、話しかける大人の顔をじっと見つめます。周りで物音がしたり、大人が話していたりするとそちらの方を見ますし、音に対してとても敏感です。また、自分の欲求を泣き声で表したり、感情をこめて様々な泣き方をするようになるとともに、その欲求を受け止め、かなえてくれる人の関わりにより、自ら声を出したり微笑んだりするようになります。そして、大人の微笑みに微笑みを返したり、喃語や片言を優しく受け止めてもらったりする中で、心の安定を得て、表情や発声を豊かにしていきます。

保育士等は、言葉を獲得する前の子どもの表情や姿をよく観察し、その場面に適した言葉をかけたり、子どもの発声を真似たりしながら、声を介した関わりを楽しいものにしていくことが必要です。こうした応答的な関わりがコミュニケーションの基礎となります。子どもは保育士等の声や言葉をよく聞き、口元や表情をじっと見ています。その中で、適切な発音への準備をしています。また、信頼できる相手に伝えたい、わかってもらいたいという気持ちが発語を促していきます。

  • ②保育士等と一緒にごっこ遊びなどをする中で、言葉のやり取りを楽しむ。

子どもは玩具や遊具などを何かに見立てたり、保育士等や友達のしぐさをまねたりする中で、簡単なごっこ遊びを保育士等と楽しめるようになっていきます。そして、保育士等と心を通わせながら簡単な言葉を交わしたり、やり取りを重ねたりしていきます。保育士等が挨拶を交わしたり、返事をしたり、擬音語や擬態語を口にしたり、場面に適した言葉を話したりすることで、言葉への感覚を豊かにし、自らもこうした言葉を使おうとする意欲を高めていきます。

自分がしたいこと、して欲しいことなどを言葉で表現できるよう応答的に関わるとともに、言葉を交わすことの楽しさが味わえるようにしていきます。

  • ③保育士等や友達の言葉や話に興味や関心を持ち、親しみを持って聞いたり、話したりする。

保育士等に名前を呼んでもらったり、友達同士で名前を呼び合ったり、人と言葉を交わすのは楽しいものです。こうした楽しさを味わうには、保育士等や友達との間に安心して話せるような雰囲気があることや、言葉を交わす相手への安心感と信頼感が必要です。この基本的信頼関係を基盤として、子どもは、保育士等や友達の言葉や話に興味や関心を持ち、自分の思ったことや感じたことを言葉に表し、言葉のやり取りを楽しむようになるのです。

保育士等は、子どもが安心して自分を表現することができるよう、温かな雰囲気で子どもの気持ちを受け止めます。そして、自ら話そうとする意欲を見守りながら親しみを持って接し、しっかりと視線を合わせて子どもの話に耳を傾けます。

  • ④したこと、見たこと、聞いたこと、味わったこと、感じたこと、考えたことを自分なりに言葉で表現する。

子どもが言葉を獲得するためには、乳児の頃からの身近な環境との関わりや微笑や表情などによる人との相互的なやり取りが必要です。様々な気付きや感情が豊かに積み重ねられて子どもの言葉に結びついていくのです。こうした経験の積み重ねにより、子どもは、自分の気持ちが揺り動かされると、誰かに伝えたいと感じるようになります。その気持ちが受け止められ、自分の思ったことや感じたこと、経験したことを言葉に表し、保育士等や友達に共感してもらうと、ますます伝えたい、言葉で表現したいという意欲が高まります。また、相手に分かるように言葉で伝えようとすることで、自分の気持ちを確認したり、考えがまとまったりするようになり、思考力の芽生えが培われていきます。

子どもは自分の経験や気持ちを自分なりに言葉で表現し、話を組み立てていきます。保育士等は、じっくりと子どもの言葉に耳を傾け、子どもが思いや考えを言葉で表現することを助け、良い聞き手となりながら、子どもが話したい、聞いてもらいたいという気持ちを十分に満たすことができるようにすることが大切です。

  • ⑤したいこと、してほしいことを言葉で表現したり、分からないことを尋ねたりする。

子どもは生活していく中で必要なことが分かるようになると、自分がしたいこと、して欲しいことを言葉で表すようになります。それは、玩具を使いたい、保育士等に欲求を満たしてもらいたい、遊具や用具の使い方を知りたい、友達とのトラブルなど困ったことを解決してもらいたい等、多岐にわたります。また、好奇心や知識欲の高まりとともに、「なぜ?」「どうして?」と質問を繰り返し、保育士等に答えを求めたり、自ら考えたりします。保育士等は、子どもの気持ちに寄り添いながら疑問や質問に答えたり、一緒に考えたりしていくことが必要です。

また、友達との関わりを深め、一緒に遊んだり活動に取り組む中で、互いに質問をしたり言葉での意思の疎通を図ったりしていきます。そして、自分の思いを相手に伝え、相手の思いを聞き、友達とイメージを共有することで、遊びを深めていこうとします。

  • ⑥人の話を注意して聞き、相手に分かるように話す。

人の話を聞く態度を習得していくことは、たいへん重要です。人の話を聞き、その言葉を通して相手の気持ちや考えを理解することは、様々な場面で聞く経験を重ねることにより体得されていきます。それは、乳児期からの積み重ねであり、人への親しみの気持ちや相手への興味や関心が、聞くことを促していきます。そして、言葉によるイメージを持つことができるようになることで、人の話に共感したり、話の内容を理解することができるようになります。また、自分の話を十分に聞いてもらえることが、人の話を聞くことにつながっていきます。

話すこともまた様々な場面で話す経験を積み重ねることにより身に付いていきます。その過程において、幼い子どもは言葉で伝えることが難しいと、泣いたり、不機嫌になったりしますが、保育士等が子どもの気持ちを汲み取り、丁寧に対応していくことで、子どもは徐々に分かるように話したり、言葉を介して相互に理解し合うことの大切さに気付いていきます。

さらに、子どもは成長とともに、自分の気持ちを調整しながら相手に分かるように話したり、相手の言葉からその気持ちを汲み取ることができるようになり、保育士等や友達との会話を楽しめるようになります。そして、相手の話し方や話のおもしろさを味わいながら、自分も相手に伝わるように話したり、言葉を選んだりするようになっていきます。

  • ⑦生活の中で必要な言葉が分かり、使う。

乳児が発する「マンマ」という言葉には様々な意味が込められていますが、いずれにしてもそれは乳児の生活に必要な言葉です。また、保育士等が乳児の欲求を言葉にして返すことを重ねることにより、徐々に欲求の意味や言葉との結びつきを理解していきます。また、「ちょうだい」、「どうぞ」、「ネンネ」など、しぐさを伴う言葉を、幼い子どもは早くに覚え、使うようになります。それらは子どもの生活に密着した言葉であり、子どもは身近な人と一緒に過ごす中で、自ら体を動かしながら言葉を獲得していきます。

成長とともに、子どもは保育士等とのやり取りの中で、あいさつや返事など、生活や遊びに必要な言葉を使うようになります。また、保育士等や友達と一緒に生活する中で、繰り返し聞いたり用いたりする言葉を理解するようになり、自分でも状況に応じて言葉が使えるようになっていきます。

保育士等は、子どもが生活する中で、日常使う言葉を十分に理解できるようにその意味するところを丁寧に伝えるとともに、それらの言葉に親しみ、子ども自身が言葉を聞いたり話したりできるよう援助することが大切です。

  • ⑧親しみを持って日常のあいさつをする。

保育所で日常的に交わされるあいさつには、朝のあいさつや、帰りのあいさつ、食事のときのあいさつ、物を借りたり、何かをしてもらったりしたときのあいさつなどがあります。子どもは、温かく安心できる雰囲気の中で、身近な保育士等と心を通わせながらこのようなあいさつを自分でもしようとするようになります。

保育士等や友達と共に楽しく生活する中で、子どもはあいさつの習慣を身に付けて、相手への親しみをこめてあいさつを交わすようになっていきます。保育士等は、自ら子どもや保護者を含めた周囲の人に対して、親しみを持ってあいさつし、明るく和やかな保育所の雰囲気をつくっていきましょう。

  • ⑨生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く。

子どもは気に入った言葉が見つかると何度も使ってみたり、また響きの愉快な言葉を見つけると、友達と一緒に使いながら笑い合ったりします。保育士等が話す美しい言葉に惹き込まれたり、繰り返す言葉のリズムの楽しさや音の響きのおもしろさに気付いたり、自ら使って楽しもうとします。

保育士等は、生活の中で、子どもが言葉に親しむことのできる環境を整えるとともに、日頃から言葉への感覚を豊かに持つことが望まれます。また子どもが美しい、おもしろい、楽しいと感じていることに気付く感受性の豊かさも必要です。子どもの興味や好奇心を満たすような絵本や詩や歌などを通し、言葉の世界を味わいながら、子どもが言葉への豊かな感覚を身に付けていくことができるようにしていきます。

  • ⑩いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする。

子どもは自分が体験した内容を、生き生きとしたイメージとして心の中に蓄積していきます。こうしたイメージは、似たような場面や、ふとした刺激を受けて、子どもの心の中によみがえってくるものです。実体験と結びついたこうしたイメージを数多く心の中に蓄積していくことが、子どもの言葉の発達に結び付いていきます。

子どもの内面に身体感覚を伴う豊かなイメージが蓄積されていくよう働きかけながら、子どもの言葉への感覚や想像力を膨らませていきます。また、子どもの想像力や感覚の豊かさに共感を持って向き合い、子どもの感受性や言葉による表現を受け止めていきます。こうした保育士等の関わりが更に子どもの想像力や表現力を培っていきます。

  • ⑪絵本や物語などに親しみ、興味を持って聞き、想像する楽しさを味わう。

絵本は環境の一つとしてたいへん重要です。子どもは、保育士等に絵本を読んでもらったり、自ら絵本を手にして楽しみます。そして、簡単な言葉を繰り返したり、模倣して楽しんだり、絵本の中の登場人物や物に感情移入したり、話の展開を楽しんだりしながら、イメージを膨らませていきます。

子どもの興味や発達過程に応じて、どのような絵本をどのように置いたり、扱ったりしていくのかを保育士等は吟味します。また、絵本だけでなくお話や童話、視聴覚教材などを見たり聞いたりする機会をつくりながら、子どものイメージの世界を広げていきます。そして、視覚に頼らず自分の心の中に自由にイメージを膨らませていくことができるよう、語りや読み聞かせを取り入れていくことも大切です。さらに、心の中に描いたイメージを言語化したり、身体表現など様々な表現に結び付けていく機会をつくっていくことが、想像する楽しさを膨らませていきます。

  • ⑫日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう。

前項、ウ「環境」の(イ)、内容の⑪にあるように、子どもは日常生活の中で様々な標識や文字があることに気付き、興味や関心を高めていきます。そして、象徴機能として存在する標識や文字が何を意味するのかを保育士等との関わりの中で知り、認識を深めていきます。

最も早く認識する文字は様々な物に記されている自分の名前であり、その文字が自分自身を示していることに喜びを持ち、保育士等に呼ばれる名前と文字で表されている名前を照合させていきます。そして、友達や身の回りの人の名前や物の名前を覚え、それらを表す文字に興味や関心を抱いたり、いろいろなところに文字や記号を見つけ、確認していきます。また、絵本や自分の連絡帳、室内外の様々な表示や文字を見たりする中で、自ら真似て書いてみようとしたり、保育士等に書いてもらったりして文字に親しんでいきます。

お店屋さんごっこや郵便屋さんごっこのように、文字や記号のやり取りのある遊びを楽しみながら、文字などに親しみ、保育士等や友達と文字で伝え合う喜びが芽生えていくよう見守ることが大切です。また、画材や筆記具などの用具や室内の環境設定にも十分配慮していきます。

 

オ 表現

感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。

(ア)ねらい

  • ① いろいろな物の美しさなどに対する豊かな感性を持つ。
  • ② 感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ。
  • ③ 生活の中でイメージを豊かにし、様々な表現を楽しむ。

「表現」の領域は、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(カ)様々な体験を通して、豊かな感性や表現力を育み、創造性の芽生えを培うこと」をより具体化したものです。

子どもは毎日の生活の中で、身の回りの環境と関わり生活しています。その中で、美しいもの、不思議なもの、驚くようなものに出会い、いつも心を動かしています。こうした「心情」を豊かに持つことが、子どもの心の成長の基盤となります。

子どもは環境との関わりの中で抱いた様々な気持ちや気付きを友達や保育士等に伝えようとし、それらを自分なりに表現しようという「意欲」を育んでいきます。そして、環境との関わりの中で、また、友達や保育士等と一緒に生活する中で、様々な体験を通してイメージを豊かにし、表現することの喜びや表現を楽しむ「「態度」を培っていくのです。

こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

  • ①水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ。

子どもは、水の冷たさや砂のざらざら感、泥のぬめりなど、土や水の素材に触れ、全身でその感触を楽しみます。乳児の頃からこうした感触を十分に味わい、諸感覚を働かせていくことが、子どもの感性を育んでいきます。

また、子どもは、それぞれの素材への関わり方や組み合わせにより、その性質を様々に変化させる意外性や不思議さに感動し、その喜びや驚きを全身で表します。十分に素材に触れその特徴や性質を知ると、いろいろと工夫してみようとしたり、必要な遊具や用具を求めたりします。例えば、砂遊びのお団子作りでは、何度も挑戦し硬さや大きさを自分なりに工夫したり、友達と協力して大きな砂山を作ろうとします。自分の思ったものを作り上げた充実感や、友達と一緒に一つのものを作り上げた感動を共有する体験は子どもが成長する上でたいへん重要です。

保育士等は、子どもが様々な素材に接することができるようにするとともに、子どもと一緒に、様々な素材に直接触れたり扱ったりしながら、子どもの感性に寄り添い、感動を共有していくことが求められます。

  • ②保育士等と一緒に歌ったり、手遊びをしたり、リズムに合わせて体を動かしたりして遊ぶ。

幼い子どもは、母親の胎内で聞いていた「拍」に安心感と親しみを持っているようです。わらべ唄や子守唄の拍子が母親の心臓の音と重なり、子どもに安らぎを与えていること、刺激の強い音楽や機械音に不安感を持つことなど、保育士等は子どもの環境としての「音」に敏感でなければなりません。

子どもは、身体機能が発達することにより、保育士等の声や音の響き、音色に親しむことから、保育士等の歌うわらべ唄などに合わせて体を揺らしたり、一緒に歌おうとします。また、手遊び歌などのしぐさを真似たり、歌に合わせてリズムをとったりするようになります。さらに、保育士等が歌う楽しく心地よい歌を聞き、自分も同じように表現したいという気持ちになり、一緒に歌ったり、リズムに合わせて体を動かしたりすることを楽しんでいきます。

保育士等には、子どもの発達過程や興味などに合わせた季節感のある歌や手遊びを提供していくことが望まれます。

  • ③生活の中で様々な音、色、形、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ。

子どもは、安心して生活する中で、風や雨の音、花の色や形、毛布の手触り、おやつや食事の味や香りなど、身の回りにある様々な色や形、音色や感触、味や香りに気付いたり、その心地よさを感じたりしていきます。また、保育士等や友達と一緒にそれらの感覚を楽しんだり、伝え合ったりするようになります。

日常の生活で、身体感覚を伴う様々な体験を積み重ねる中で、子どもはその性質や不思議さ、おもしろさに気付き、更に興味を膨らませます。また、様々な感覚を共に働かせながら、情緒を安定させたり、生活を楽しんだり、遊びに取り入れたりしていきます。

保育士等は、身近な環境に関わって直接、見たり、聴いたり、触れたり、嗅いだり、味わったりする子どもの感覚に心を傾け、子どもの感動や発見に寄り添いながら子どもの感性が豊かに育つよう働きかけていきたいものです。

  • ④生活の中で様々な出来事に触れ、イメージを豊かにする。

前項エの「言葉」の(イ)内容の⑩にあるように、子どもは、自分が体験した内容を、いきいきとしたイメージとして心の中に蓄積していきます。実体験と結びついたイメージを数多く心の中に蓄積していくことにより、子どもはその感性や表現力を培っていきます。言葉で表現することがまだできない乳児や低年齢の子どもであっても、生活の中での経験や環境との関わりによる心の動きを、表情やしぐさや泣き声で表し、その心に様々なイメージや感触を蓄積していきます。

子どもは人や物、自然や社会事象と関わり、様々な感覚や感情を味わう中で、それらへの対応を自分なりに考えようとします。例えば、保育士等や友達との関わりの中で嬉しさや喜びを共有したり、悔しさや悲しみをぶつけ合ったりします。また、自然の不思議さに感動したり、動植物の世話をしたり、その生死に遭遇するなどして感性を豊かにしていきます。

喜び、楽しさ、悲しみ、怒り、恐れ、驚きなど、目に見えない心の動きをイメージしたり、相手の感じ方を推測しながら具体的なイメージを描いていくことは子どもの想像力や感性を育てます。

保育士等は、一人一人の子どもの心に寄り添い、ごっこ遊びや表現遊びなどを通してイメージを共有したり、それぞれのイメージを生活や遊びの中で生かしていくことが大切です。

  • ⑤様々な出来事の中で、感動したことを伝え合う楽しさを味わう。

子どもは、日々の生活や遊びの中で、何か新しいことを発見したり、できなかったものができるようになったりすると、喜んで保育士等や友達に伝えようとします。それを伝え、表現することで感動を共有しようとし、自分の思いが保育士等や友達に伝わったことが分かると、更にその感動を深めていきます。人と共感する経験が積み重なることで、子どもは自分への自信や人への信頼感を得ていくのです。

保育士等は、子どもが見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたことなどを言葉で表現できるように時間や場を設け、自分の思いを素直に表現できる雰囲気をつくることが大切です。そして、子ども同士の伝え合いを大切にしながら、相手の気持ちに思いをはせたり、共感したり、認め合ったりする経験を重ねていくことが重要です。その中で、保育士等自身も自ら感動したことを表現するなど伝え合う楽しさを子どもと共有していきましょう。

  • ⑥感じたこと、考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったりする。

子どもは楽しいことがあると、歌を口ずさんだり、手をたたいたり、体をゆらしたりするなど身振りや動作、声や表情など身体全体で表現しようとします。そして、自分なりの方法で自由に表現することを楽しみます。こうした表現を保育士等や友達に受け止めてもらうことで、更に様々な方法で表現しようとします。

子どもは様々な方法を混在させて表現を楽しみますが、次第に特定の方法を中心とした表現が可能になります。それは絵画や製作であったり、音楽による表現であったりします。こうした子どもの表現活動が、子どもの自由な発想やイメージにより楽しく繰り広げられていくことが重要です。

保育士等は、子ども一人一人の表現を受け止め、そのおもしろさや発想の豊かさに共感し、その工夫を十分に認め、子どもが表現することの楽しさを味わっていくことができるようにします。また、子どもの興味や関心が湧くような動機付けや環境設定も重要です。

  • ⑦いろいろな素材や用具に親しみ、工夫して遊ぶ。

子どもは、身の回りにある様々な素材に興味を持ち、その感触を味わい、並べたり積んだり、いろいろな物をたたいて音の変化を楽しんだり、様々に扱って楽しみます。さらに、自分なりの表現の材料として利用し、工夫を加えて遊ぶことを楽しんでいきます。小枝や木の実などの自然物をいろいろなものに見立てたり、空き箱や廃品を組み合わせて作ったり、それらをごっこ遊びに利用したりします。また、目的を持っていろいろな材料を組み合わせたりするなど、素材の特性を生かした使い方や組み合わせ方に気付き、遊びに取り入れようとします。

保育士等には、子どもが様々な素材や用具を利用してかいたり、つくったりすることを工夫して楽しめるよう、環境を整えておくことが求められます。子どもが自分で素材や用具を選んで使えるようにしたり、季節感のある自然物の素材を用意しておくことも大切です。子ども達は様々な素材の適切な使い方を、試行錯誤を繰り返しながら学んでいくので、その様子を見守りながら、適切に援助したり、ヒントを与えたりすることも必要です。

  • ⑧ 音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりする楽しさを味わう。

保育士等は、聴覚の敏感な幼い子どもたちにどのような音や音楽的環境を与えたら良いのかを、子どもの状態や発達過程に応じて考えていくことが必要です。心地よい音色や情緒が安定する音楽に触れて、子どもは音への関心や音楽への親しみを持つようになります。そして、歌を歌うこと、音楽に合わせて体を動かすこと、友達と一緒に踊ることなどを楽しみ、音の多彩さ、不思議さ、美しさに心を動かしていきます。また、きれいな音のするものや楽器に出会うと、音を出して、友達と一緒に音色を味わったり、簡単なリズム楽器を使ったりするようになります。その中で、音楽と自分の気持ちを重ね合わせたり、音楽を通して自分の気持ちを込めて表現するなどの経験をしていきます。

保育士等は、子どもにとって心地良い音楽、楽しめるような音楽との出会いを大切にしていかなければなりません。また、子どもの表現しようとする気持ちを大切にして環境設定を行うとともに、生活経験や意欲と遊離した特定の技能の習得に偏らないよう配慮することが必要です。

  • ⑨ かいたり、つくったりすることを楽しみ、それを遊びに使ったり、飾ったりする。

1、2歳の子どもがクレヨンなどを手にして、なぐり描きを十分に楽しむことはとても大切です。なぐり描きの線がやがて円(まる)になり、子どもはそれを何かに見立てたり、その内側と外側に更に描きこんだりしていきます。

年齢が高くなるにしたがい、子どもは自分のイメージを表現するために、かいたり、つくったりします。また、かいたものやできたものを友達に見せて話をしたり、遊びに使ったりして楽しみます。このような経験を通して、自分のイメージを更に膨らませ、積極的に表現していきます。つくったものが遊びの中で、友達との共通のイメージを持つための道具として使われたりすることもあります。

保育士等は、子どもが自由にかいたりつくったりできるように、様々な材料や画用紙や描画道具などをいつでも取り出せる場所においておく必要があります。子どもがかきたい時にかく、つくりたい時につくれるような環境が必要であり、子どもの様々な表現に共感し、つくることの楽しさを子どもと共に味わうことが大切です。また、子どもがかいたり、つくったりしたものを丁寧に扱うとともに、その飾り方や提示の仕方に工夫を加えて、魅力的な室内環境にしていくことが求められます。

  • ⑩ 自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりする楽しさを味わう。

子どもは見たことや経験したことを動きや言葉などで表現したり、興味を持った話や出来事を再現してみようとします。例えば、電車に乗った体験をもとに電車ごっこを始めたり、お店で買い物をした体験をもとにお店屋さんごっこをしたり、大人の姿や動きをまねて役になりきって楽しみます。家庭での生活をまねたままごとなどの遊びも各年齢で繰り広げられます。これらの遊びを楽しむためには、子どもの観察力やその経験を振り返る力とともに、友達と一緒に共通のイメージを持つことが必要です。

年齢が高くなるにつれ、ごっこ遊びの中には劇遊びに発展していくものもあります。劇遊びは言葉や音楽、絵画や製作などと関連し、総合的な遊びや表現活動となり、その中で子どもは友達と共に充実感や達成感を味わっていきます。

保育士等は、子どものイメージがより豊かに引き出されるように、道具、用具、素材を十分に用意するとともに、コーナーやスペースを確保し、表現することが楽しめるよう配慮しなければなりません。また子どもの表現や演技を、子どもの内面の表れとして理解しようとすることも大切です。保育士等や友達に理解してもらうことで、その遊びが楽しくなり、更に表現しようという意欲が生まれていきます。

 

2.保育の実施上の配慮事項

保育士等は一人一人の子どもの発達過程やその連続性を踏まえ、ねらいや内容を柔軟に取り扱うとともに、特に、次の事項に配慮して保育しなければならない。

前項の1「保育のねらい及び内容」は、0歳から6歳までの子どもを対象として示されました。保育士等が担当する子どもの発達過程や子どもの状況に応じて保育のねらいや内容を柔軟に取り扱い、自らの手で計画を作成していくことが、保育の創意工夫につながり、保育の内容の充実が図られていくと考えられます。そのことを踏まえた上で、「保育の実施上の配慮事項」では、子どもの発達過程に沿う形で4つに分けて示しました。

(1)は全年齢に共通する事項であり、保育の基本ともいうべき事柄が示されています。(2)は乳児保育に関わる事項で、特に心身の機能が未熟な0歳児の保育に関する配慮事項が示されています。(3)は3歳未満児の保育に関わる事項であり、主に1、2歳児の保育に関わる配慮事項が示されていますが、この時期の子どもは個人差が大きく、また発達過程も様々であるため、乳児保育との重なりや連続性に配慮する必要があります。(4)は3歳以上児の保育に関わる事項で、子どもが友達との関わりを深め、協同的な遊びや活動を通して成長していくことへの配慮などについて示されています。

保育士等は、ここにある配慮事項と第2章の「子どもの発達」、前項の「保育のねらい及び内容」を照らし合わせながら、子どもの発達や発達の連続性を踏まえ、一人一人の子どもに応じて保育していくことが求められます。

 

(1)保育に関わる全般的な配慮事項
  • ア 子どもの心身の発達及び活動の実態などの個人差を踏まえるとともに、一人一人の子どもの気持ちを受け止め、援助すること。

子どもが安定し、充実感を持って生活するために、保育士等は以下の3つの点に配慮する必要があります。

一つ目は、乳幼児期の子どもの発達は心身共に個人差が大きいことに配慮することです。同じ月齢や年齢の子どもの平均的・標準的な姿に合わせた保育をするのではなく、一人一人の発達過程を踏まえた上で、保育を展開する必要があります。

二つ目は、子どもの活動における個人差に配慮することです。同じ活動をしていても、何に興味を持っているか、何を求めてその活動をしているのかは、子どもによって異なります。そのため一人一人の活動の実態を踏まえて、その子どもの興味や関心にそった環境を構成していく必要があります。

三つ目は、一人一人の子どものそのときどきの気持ちに配慮することです。保育士等が様々に変化する子どもの気持ちや行動を受け止めて、適切な援助をすることが大切であり、常に子どもの気持ちによりそい保育することが求められます。

  • イ 子どもの健康は、生理的、身体的な育ちとともに、自主性や社会性、豊かな感性の育ちとがあいまってもたらされることに留意すること。

心と体の健康は、相互に密接な関連があります。大人との信頼関係を拠りどころに、子どもは安心感を持って自ら積極的に環境に関わっていくようになりますが、このことが、生理的、身体的な発達を促し、子どもの心と体を更に育てていきます。保育士等は、子どもの心と体の関係を十分に理解した上で、子どもの存在をまるごと受け止め、丁寧に関わることが大切です。

また、子どもは、自分の感じたことや思いを自分なりに生き生きと表現し、その表現を受け止めてもらい、認めてもらうことで、更に表現したい気持ちを高めます。他者と共感することにより更に自己発揮していくことが、子どもの心と体の健康につながっていくのです。

さらに、子どもは、保育士等に受け止めてもらうだけではなく友達にも認めてもらいたい、一緒に活動したいと思うようになります。保育士等は、子どもが、様々なものを感じることができるような環境、また十分に体を動かして表現することができるような環境を構成するとともに、子ども同士の関係を仲立ちし、関わりが促されるよう配慮することが重要です。

  • ウ 子どもが自ら周囲に働きかけ、試行錯誤しつつ自分の力で行う活動を見守りながら、適切に援助すること。

子どもは周囲の環境に対して、自ら主体的に関わって生活しています。保育士等は、子どもが遊びを通して積極的に環境に関わる中で、多様な経験が重ねられるよう配慮しなければなりません。また、子どもにとって魅力的な環境を構成し、意欲的に取り組みたくなる活動を子どもと共に計画していくことが大切です。

子どもの環境への関わり方は様々です。常に積極的に行動できる子どももいれば、関心を示さなかったり、保育士等や友達がすることを眺めている子どももいます。保育士等は、子どもの気持ちを尊重し、一人一人の子どもに「自分でやってみたい」という気持ちが現れるのを待つことが大切ですが、子どもの興味や関心に沿って環境構成を変えたりするなどの工夫をすることも必要です。

また、活動に取り組む中で、子どもは、うまくできない悔しさを感じて様々に試行錯誤を重ねたり、自分でできたという達成感を味わったりします。保育士等は、子どもの気持ちを受け止めながら、自分で行うことの充実感が味わえるように、行動を見守り、適切に援助することが必要です。

  • エ 子どもの入所時の保育に当たっては、できるだけ個別的に対応し、子どもが安定感を得て、次第に保育所の生活になじんでいくようにするとともに、既に入所している子どもに不安や動揺を与えないよう配慮すること。

入所時に子どもは、心の拠りどころとなる保護者からも、慣れ親しんだ家庭からも離れ、見知らぬ保育士等や友達と、慣れない場所で生活することになります。

入所時の保育に当たっては、こうした子どもの不安な思いを理解して、特定の保育士等が関わり、その気持ちや欲求に応えるよう努めます。また、保護者との連絡を密にし、子どもの生活リズムを把握することも大切です。子どもは、保育士等との関係を基盤にして、徐々に保育室の環境に馴染んでいきますが、保育士等は、子どもが自分の居場所をみいだし、好きな遊具で遊ぶなど、環境にじっくりと関わることができるよう積極的に援助することが大切です。

既に入所している子どもにとっても、新しい友達との出会いは不安と期待が入り混じり、自分と保育士等と新しい友達との関係に敏感になることもあります。保育士等は、既に入所している子どもと入所してきた子どもの双方と関わりながら、子ども同士が安定した関係を築けるよう援助していくことが必要です。

  • オ 子どもの国籍や文化の違いを認め、互いに尊重する心を育てるよう配慮すること。

前述の1のイ「人間関係」の(イ)内容の⑭にもあるように、保育所では外国籍の子どもや様々な文化を持った子どもが共に生活しています。保育士等はそれぞれの持つ文化の多様性を尊重し、多文化共生の保育を進めていくことが求められます。

例えば外国籍の保護者に自国の文化に関する話をしてもらったり、遊びや料理を紹介してもらったりするなど、子どもが異なる文化に触れる機会を通して文化の多様性に気付き、興味や関心を高めていくことができるよう、子ども同士の関わりを見守りながら、適切に援助していきます。

外国籍の子どもの文化を尊重することだけでなく、宗教や生活習慣など、どの家庭にもあるそれぞれの文化を尊重し、十分に認識することが必要です。保育士等は、自らの感性や価値観を振り返りながら、子どもや家庭の多様性を積極的に認め、互いに尊重しあえる雰囲気をつくり出すことに努めましょう。

  • カ 子どもの性差や個人差にも留意しつつ、性別などによる固定的な意識を植え付けることがないよう配慮すること。

保育所において、固定的なイメージに基づいて子どもの性別などにより対応を変えたり、固定的な意識を植え付けたりすることがないようにしなければなりません。子どもの性差や個人差を踏まえて環境を整えるとともに、一人一人の子どもの行動を狭めたり、子どもが差別感を味わったりすることがないよう十分に配慮します。子どもが将来、性差や個人差などにより人を差別したり、偏見を持つことがないよう、人権に配慮した保育を心がけ、保育士等自らが自己の価値観や言動を省察していくことが必要です。

男女共同参画社会の推進とともに、子どもも、職員も、保護者も、一人一人の可能性を伸ばし、自己実現を図っていくことが求められます。

 

(2)乳児保育に関わる配慮事項
  • ア 乳児は疾病への抵抗力が弱く、心身の機能の未熟さに伴う疾病の発生が多いことから、一人一人の発育及び発達状態や健康状態についての適切な判断に基づく保健的な対応を行うこと。

抵抗力が弱く、感染症などの病気にかかりやすい乳児の保育の環境には、最大限の注意を払う必要があります。特に生後57 日からの産休明け保育については、生命の保持と情緒の安定に配慮した細やかな保育が必要となります。

乳児の生活や遊びの場が清潔で衛生面に十分留意した環境になるように、日々整えることが求められます。また、衣類、布団、おむつ等身の回りのものについても、清潔であることはもちろん、その素材などにも十分配慮し、心地よく過ごせるようにします。さらに、保育士等は、手洗いやうがいを励行し、服装や身支度などにも配慮し、自らの健康と清潔を常に心がけることが必要です。

乳児は、食中毒に対しても、抵抗力が弱く重篤になりやすいことから、食品やミルクの取扱いなどには細心の注意を要します。

SIDS(乳幼児突然死症候群)に対しても、うつ伏せ寝を避け、睡眠時にチェック表を利用して乳児の様子を把握するなど、十分な配慮が必要です。特に、入所して間もない頃の保育は複数の目による観察と注意が必要です。

一人一人の発育及び発達状態をよく把握した上で、常に体の状態を細かく観察し、疾病や異常は早く発見し、発見したら、速やかに適切な対応をします。観察に当たっては、機嫌、顔色、皮膚の状態、体温、泣き声、全身症状など様々な視点から、複数の職員の目で行うことも大切です。

  • イ 一人一人の子どもの生育歴の違いに留意しつつ、欲求を適切に満たし、特定の保育士が応答的に関わるように努めること。

生育歴には、その子どもの誕生時の状態をはじめ、誕生時から今日までの生活のすべてが含まれます。乳児の状態は、実際にそれまでどのような生活を送ってきたかに加えて、保護者の心身の状態や家庭の状況など、生活環境のすべてが影響します。 このような生育歴の違いが、欲求や行動などの違いとなって現れます。

保育士等は、こうした違いを踏まえ、一人一人の乳児の現在のありのままの状態を理解することが大切です。そして、乳児がその声やしぐさや動きなどを介して発する欲求を察知し、タイミングよく応えていきます。特に乳児の泣き声に対しては、優しく応え、その心の声を保育士等が言葉で表しながら関わります。こうした特定の保育士等による丁寧な関わりを通して、気持ちの交流が芽生えていきます。

乳児が成長する上で、最も重要なことは、人との継続的かつ応答的な関わりです。特定の保育士等が、愛情豊かに優しく語りかけながら世話をすることにより、乳児は、顔を見たり、表情を変えたり、声に反応したり、手足を動かしたり、子どもなりに自分の気持ちを表現していきます。保育士等が、あやしたり、抱いたり、優しく揺すったりして、乳児が人に触れられて心地よいと感じる関わりを持つことも大切です。子どもは、安心できる人との相互的な関わりの中で、心身の健康が培われ、情緒が安定し、言葉の発達が促されていきます。信頼感など子どもが人として生きていく土台が乳児保育においてつくられることの重要性を十分に認識しながら保育していくことが求められます。

  • ウ 乳児保育に関わる職員間の連携や嘱託医との連携を図り、第5章(健康及び安全)に示された事項を踏まえ、適切に対応すること。栄養士及び看護師等が配置されている場合は、その専門性を生かした対応を図ること。

第5章に示されているように、健康及び安全に関する事項は、保育をする上での基本です。特に、乳児は、大人が手厚く守り育てていかなければ、生命の保持や情緒の安定ができないことから、健康と安全についての事項はたいへん重要です。

乳児保育では、嘱託医との連携を図るとともに、保育士等、看護師、栄養士等がそれぞれの専門性を生かしながら職員間の連携を図り、保育所全体で乳児の健康と安全を守っていくことが大切です。乳児の健康な生活の基本となる授乳や離乳食、睡眠やおむつ替えなどにつ いては、職員間で共通理解を図り、一人一人の状態に応じて丁寧に行っていくことが必要です。

授乳については、清潔に留意して行い、しっかりと抱いて顔を見ながら飲ませ、飲み終わった後の排気や姿勢に留意します。離乳は、健康状態などをみながら、一人一人の咀嚼や嚥下の状態に合わせて進めていきます。また、子どもの機嫌がよく、眠くならない状況の中で食事ができるようにします。厚生労働省において策定した「授乳・離乳の支援ガイド」(平成19 年3月)を参考にしましょう。

睡眠は、乳児が安心して眠れるように、場所、気温、湿度、明るさ、風通し、衣類、布団などの状態に留意します。寝かせ方への配慮も重要であり、月齢が低い場合は、仰向けに寝かせるようにします。眠い時に眠り、自ら目覚めるようにしながら、徐々に睡眠と覚醒のリズムを整え、昼間起きている時間を長くします。

おむつは、汚れたら手際よく替えますが、その際、優しく言葉をかけ、おむつを替えてもらうことの心地よさや清潔感を伝えるようにします。また、乳児が動きやすいように配慮します。

健康の増進が図られるように、体を動かす遊びを積極的に取り入れ、気温や天候などの状況や乳児の体調に留意しながら外気浴することも必要です。また、乳児の生活及び遊びの中で、窒息・誤飲・転倒・転落・脱臼等、予想される危険や事故に対し、様々な配慮や確認が必要です。さらに十分に水分を補給し、脱水状態を回避しなければなりません。

  • エ 保護者との信頼関係を築きながら保育を進めるとともに、保護者からの相談に応じ、保護者への支援に努めていくこと。

乳児保育においては、特に保護者との密接な連携が重要です。成長・発達が著しい乳児の様子や日々の保育について、温かい視点で詳しく伝えるとともに、家庭での様子を丁寧に聞き取っていきます。保護者の就労や子育てを支え、保護者の気持ちに配慮して対応し、送迎時には気持ちよい挨拶や励ましの言葉をかけましょう。

子育てを始めたばかりであったり、育児に不安を抱いたり、悩みを抱えたりなど、一人一人の保護者の置かれている状況は様々です。第6章(保護者に対する支援)にある事項を踏まえ、保護者と信頼関係を築きながら、乳児の成長の喜びを共に味わっていくことができるようにしていきます。

  • オ 担当の保育士が替わる場合には、子どものそれまでの経験や発達過程に留意し、職員間で協力して対応すること。

年度替わりあるいは年度途中で、担当の保育士が替わる場合、特に乳児保育では特定の保育士等との密接な関わりが重要であることから、乳児が安定して過ごせるための配慮が大切になります。生育歴や発達過程等における個人差だけでなく、それまでの生活や遊びの中での乳児の様子についても丁寧に引き継いでいくようにします。一人一人の乳児への働きかけや対応が急激に変わることのないよう、職員間で協力し、乳児の気持ちに沿った対応をしていきます。

周囲の職員は子どもと新しい担当保育士との信頼関係が築けるよう配慮するとともに、子どもがそれまでの経験の中で培ってきた人と関わる力を信じることも大切です。担当保育士等を安全基地として、様々な人と関わり、多くの人の温かい眼差しの中で乳児が成長していくことを職員全員で見守っていきたいものです。

 

(3)3歳未満児の保育に関わる配慮事項
  • ア 特に感染症にかかりやすい時期であるので、体の状態、機嫌、食欲などの日常の状態の観察を十分に行うとともに、適切な判断に基づく保健的な対応を心がけること。

この時期の子どもの保育では、不機嫌な状態や食欲不振、急な発熱や嘔吐など、わずかな様子の異常や変化にも注意を払い、感染症の早期発見に努めることが特に必要です。普段と比べて、過度に水分を欲しがったり、だるそうに生あくびをしたりする時も、要注意です。症状により必要があれば他の子どもから離し、嘱託医や看護師等の指導の下で、保護者と連携をとりながら対応策を考えます。

保育士等は、普段から、室内の気温や湿度及び換気に注意を払い、手洗いやうがい、消毒等、衛生面にも十分に注意をしておくことが重要です。また感染症に関する知識を習得し、流行状態を把握しておくことも大切です。

  • イ 食事、排泄、睡眠、衣類の着脱、身の回りを清潔にすることなど、生活に必要な基本的な習慣については、一人一人の状態に応じ、落ち着いた雰囲気の中で行うようにし、子どもが自分でしようとする気持ちを尊重すること。

基本的な習慣については、安心できる保育士等との関係の下で、一人一人の発達過程に合わせ、無理なく行うことが大切です。食事は、楽しい雰囲気の中で、スプーンや箸などを使い、自分で食事をしようとする気持ちを大切にし、嫌いなものでも少しずつ食べられるように言葉をかけていきます。

排泄は、トイレの環境に配慮し、子どもがゆったりとした気持ちで自分から便器に座ったり排泄したりできるよう丁寧に見守ります。優しく声をかけるとともに、一人一人の排泄の間隔や発達過程等に応じて対応していきます。

睡眠については、一人一人が安心して休息をとることができるよう、子どもの生活リズムを踏まえ、その日の状態に応じて環境を整えます。休息をとるための空間や雰囲気などの環境を確保し、職員間で協力しながら対応します。

衣類の着脱に当たっては、丁寧にやり方を伝えながら自分でしようとする気持ちを励まし、徐々に手伝いの手を放していきます。子どもが自分で着やすい服や心地よい素材などにも配慮し、保護者に伝えていきます。

清潔の習慣を子ども自身が身に付けていくことも大切であり、保育士等が一緒に関わりながら、食事の前後や排泄の後の手洗いなどをしていきます。

いずれの習慣も、家庭との継続的な連携を図っていくことが大切です。

  • ウ 探索活動が十分できるように、事故防止に努めながら活動しやすい環境を整え、全身を使う遊びなど様々な遊びを取り入れること。

歩行の獲得に伴い子どもの行動範囲が広がり、探索活動が活発になります。また、予測できない行動も多くなります。そのため保育士等は、安全な環境や活動の状態、子ども相互の関わりなどに十分注意を払い、事故防止に努めることが必要です。

子どもの手が届く範囲の物はその安全性などを点検し、危険な物は取り除き、安全な環境を確保するとともに、歩行や遊びの障害にならないようにしていきます。また、十分に全身を動かして活動できるよう、子どもの動きやすい服装を保護者に準備してもらうことも必要です。

  • エ 子どもの自我の育ちを見守り、その気持ちを受け止めるとともに、保育士等が仲立ちとなって、友達の気持ちや友達との関わり方を丁寧に伝えていくこと。

2歳頃になると、「自分で」と言ったり、「いや」と拒否したりするなど、自己主張が強くなりますが、これは、自我が順調に育っている証拠であり、保育士等はそのような子どもの気持ちをしっかりと受け止めます。自我の育ちとともに、保育士等の手を借りずに何でも自分で意欲的にやってみようとしますが、現実には思いどおりにいかず、多くの場合、保育士等の援助が必要となります。子どもの意欲や自分でやりたい気持ちを尊重しながら、さりげなく手を貸していくことが大切です。

また、子ども同士の関わりが多くなりますが、まだ言葉が十分ではなく、自分の欲求が伝わらないと手が出てしまったり、泣いて訴えたりする姿が見られます。友達とのトラブルやけんかの場面では、保育士等が互いの気持ちを受容し、その気持ちを分かりやすく伝えながら、関わり方を教えたり、仲立ちをしたりしていくことが必要です。保育士等は子どもの遊びや行動、心の動きに十分配慮し、トラブルを未然に防いだり、状況が悪化しないよう見通しを持って対応するようにします。

  • オ 情緒の安定を図りながら、子どもの自発的な活動を促していくこと。

自我が育ってくると、自分の思いどおりにいかないことや周囲の人に自分の気持ちが伝わらなかったりすることに対し、反抗的な態度を示します。保育所が、子どもにとって安心して自分の気持ちを表せる場であることはたいへん重要です。保育士等は子どもの気持ちを十分に受け止め、触れ合いや語りかけを多くし、情緒の安定を図るようにします。そして、子どもが適切な方法で自己主張できるように、その主体性を傷付けることなく、言葉を補いながら伝えていきます。

子どもは気持ちが安定すると、好奇心が広がり、新たに気付いたことや、自分で成し遂げたことを伝えようと保育士等に働きかけます。このような子どもの姿を十分に認め、共感を示していくことが、子どもの自発的な活動を支えます。子どもが安心感、安定感を得て、身近な環境に自ら働きかけ、好きな遊びに熱中したり、やりたいことを繰り返し行うことは、主体的に生きていく基盤となります。

  • カ 担当の保育士が替わる場合には、子どものそれまでの経験や発達過程に留意し、職員間で協力して対応すること。

進級などで担当の保育士等が替わる場合には、子どもが不安にならないよう、職員間で一人一人のそれまでの経験や発達の状態などに関する情報を共有し、関わり方が大きく変わらないように注意します。発達過程における個人差が大きな時期であり、特に配慮を必要とする関わりについては、十分に話し合うことが必要です。また、担当が替わることを保護者にも伝え、お互いの情報を交換することで、保護者に安心してもらえるよう配慮します。

子どもが、それまでの保育を通して育ってきた自我や人への信頼感などを基盤に人と関わる力を発揮しながら、新しい担当保育士等との関係を築くことができるよう、職員全体で配慮することが大切です。

 

(4)3歳以上児の保育に関わる配慮事項
  • ア 生活に必要な基本的な習慣や態度を身に付けることの大切さを理解し、適切な行動を選択できるよう配慮すること。

保育所において子どもは、生活に必要な基本的な習慣や態度を身に付け、自分でできるという達成感と満足感を味わいながら、自分の生活をつくり出していきます。子どもは友達がすることや大人の姿を確認しつつ、生活に必要な習慣や態度を身に付けていきます。特に保育士等の存在は、子どもにとって重要なモデルとなることを自覚して、自らの生活を常に省みる必要があるでしょう。

子どもは、生活に必要な基本的な習慣や態度を身に付けることで、心身の健康を保持し、快適に過ごせるようになります。そしてその中で、自分に自信を持ち、自分を好ましい存在として受け入れていくことができるようになります。こうした心身の健全と自己肯定感は、子どもが自ら安心して環境に働きかけ、自分を発揮していくための土台となります。

子どもが生活の様々な場面で自分なりに考え、理解し、判断しながら適切な行動を選択できるように援助していくことが大切です。

  • イ 子どもの情緒が安定し、自己を十分に発揮して活動することを通して、やり遂げる喜びや自信を持つことができるように配慮すること。

子どもは、保育士等や仲の良い数人の友達との安定した関係を基盤に、活動の範囲を広げ、やがて数人のグループや仲間と共に活動に取り組むようになります。また、徐々に、意図や目標を持ち、自分なりの見通しを持って活動するとともに、友達と一緒に楽しんだり、遊びを持続させたりするために工夫するようになります。

子どもが、十分に自己を発揮して遊びを楽しんだり、自分の力でやり遂げる経験を重ねていくことができるように、保育士等は子ども同士の関わりを見守り、子どもの考えや気付きを十分に認めていきます。そして、子どもが主体的な活動を通して、満足感や充実感とともに自分への自信を高め、自己肯定感を育んでいくことができるよう援助していきます。自分の存在を大事にすることは、友達や周囲の人たちを大切にしようとする気持ちにつながっていきます。

  • ウ 様々な遊びの中で、全身を動かして意欲的に活動することにより、体の諸機能の発達が促されることに留意し、子どもの興味や関心が戸外にも向くようにすること。

近年、多くの子どもにおいて戸外で体を動かす経験が減少しています。保育所では、子どもが十分に体を動かし、戸外で伸び伸びと遊ぶことができるように保育の計画を立て、園庭などの環境整備に配慮することが重要です。

戸外でもままごとなどのごっこ遊びを楽しんだり、季節の草花や昆虫など身近な自然と関われるようにしたり、子どもの興味と関心に即して園庭の環境を構成していきます。また、様々な運動用具や遊具を用意して、子どもが体を動かして十分遊べるようにします。思い切り体を動かし、息を切らし、汗をかいて遊んだり活動したりする経験は、子どもの身体機能を高めるだけでなく、子どもの達成感や充実感につながります。

3歳以上の子どもが、園庭で活発に遊ぶ場合には、低年齢の子どもが遊ぶ場所と区分したり、時間をずらすなど、行動の実態を考慮して、安全上の配慮をすることが必要です。

また、子どもが動植物をはじめとする様々な自然に触れ、季節感を味わうことができるよう、公園や野原など、保育所外へ出かけて活動する機会を持つことも大切です。そのような場合には、保育士等は常に子どもの安全及び衛生に配慮することが欠かせません。

  • エ けんかなど葛藤を経験しながら次第に相手の気持ちを理解し、相互に必要な存在であることを実感できるよう配慮すること。

子どもは、グループや集団で遊ぶようになると、けんかなど葛藤を経験するようになります。そして、互いの主張をどのように調整したらよいのかを考えるようになりますが、相手の立場に立って、相手の気持ちを理解し、自分の気持ちをコントロールしていくことはたやすいことではありません。保育士等は子ども同士のやり取りやぶつかり合いを見守りながら、必要に応じて相手の気持ちを知らせ、子どもの心の安定に配慮して援助することが大切です。

しかし、子どもは、葛藤を乗り越えていく力を持っています。友達の気持ちを察しながら、交渉したり、合意したり、様々なやり取りを通して問題を解決しようとします。さらに、役割分担をしながら一緒に遊びを展開していく中で、互いの存在が必要であることを感じていきます。

保育士等はそれぞれの子どもの良いところや得意なことを積極的に認め、他の子どもに伝えていくことが大切です。一人一人がかけがえのない存在であるという保育士等の子どもへの思いは生活の様々な場面で子どもたちに伝わっていきます。

  • オ 生活や遊びを通して、決まりがあることの大切さに気付き、自ら判断して行動できるよう配慮すること。

前述の1のイ「人間関係」の(ア)ねらいや(イ)内容の⑪などで示されたように、保育所には、生活や遊びに関する様々な決まりごとがあります。子どもは、ルールのある遊びを楽しんだり、約束を守って遊ぶうちに、それらを守って遊ぶことで、遊びが継続したり、友達と一緒により楽しめることを実感していきます。

また、子どもは、自分たちでルールをつくり出し、それを共有することで遊びを深めていくとともに、同じ遊びを一緒に楽しむ仲間とのつながりを深めていきます。保育士等は、子どもが決まりを守ったり、自分たちで決まりをつくったり変えたりする経験を大切にしていきながら、子どもが友達との関わりの中で、自分自身で考え、判断して行動する力を培っていくことができるようにしていくことが重要です。

  • カ 自然との触れ合いにより、子どもの豊かな感性や認識力、思考力及び表現力が培われることを踏まえ、自然との関わりを深めることができるように工夫すること。

前述の1のウ「環境」の(ア)ねらいや(イ)内容の③、⑤、⑥、⑦などで示されたように、子どもは、自然の不思議さに心を躍らせ、自然に触れることを喜び、更に探求しようとする意欲を持っています。

こうした子どもの意欲や感情は、身近な保育士等が自然に寄せる心情や自然と関わる姿などに影響を受けます。子どもの豊かな感性や自然との積極的な関わりは、子どもと保育士等が共に自然との触れ合いを楽しみ、それらを遊びや生活に取り入れることにより深められます。保育士等は、花壇での草花の栽培、菜園作り、小動物の飼育等、保育所の様々な自然環境を工夫することで、子どもが楽しんで自然と関わっていかれるようにしていきます。

子どもは自然と触れ合う中で心を落ち着けたり、好奇心や探求心を高めていきます。動植物や昆虫など身近な自然との関わりの中で、子どもが気付き、様々に試したり、じっくりと考えたりする経験を重ねていくことができるよう、環境構成に配慮し、働きかけていくことが大切です。

また、子どもが自然と関わった際の感動や喜びを、言葉や音楽、絵画や造形などによって表現することができるよう、様々な素材や用具などを準備し、創造的な活動の展開を援助していきます。

  • キ 自分の気持ちや経験を自分なりの言葉で表現することの大切さに留意し、子どもの話しかけに応じるよう心がけること。また、子どもが仲間と伝え合ったり、話し合うことの楽しさが味わえるようにすること。

前述1のエ「言葉」のねらいや「内容」の③、④、⑤、⑥などで示されたように、言葉は、身近な人との応答的な関わりの中で、次第に獲得されていきます。

子どもは、温かい雰囲気の中で、保育士等や友達と言葉を交わしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手を理解したりすることに喜びを感じます。こうした体験を積み重ねることで、更に自分の気持ちを言葉で伝えようとする意欲が高まります。

保育士等は、言葉で表現する子どもの姿や話の内容を十分に認めるとともに、適切な言葉で応えながら、分かりやすく話せるよう援助していくことが大切です。また、子どもが友達との会話を楽しんだり、伝え合うことや理解し合うことの喜びを味わっていくことができるよう、遊びや生活の様々な場面をとらえ、適切に援助することが必要です。

また、グループごとに話し合ったり、自分たちで活動していくための取り決めをしたりすることを取り入れながら、友達と言葉を交わしていく体験や、意見を言い合い調整するなどを大切にすることも必要です。

  • ク 感じたことや思ったこと、想像したことなどを、様々な方法で創意工夫を凝らして自由に表現できるよう、保育に必要な素材や用具を始め、様々な環境の設定に留意すること。

前述の1のオ「表現」の(ア)ねらいや(イ)内容の④、⑤、⑥、⑦、⑧などで示されたように、子どもは、自分の生活体験の中で感じたこと、思ったこと、想像したことなどを、再現したり、保育士等や友達に伝えようとしたり、更にイメージを広げようと工夫を凝らしたりしながら様々な手段で表現しようとします。

保育士等は、子どもが喜んで表現しようとする姿を日々の保育の中でみいだし、子どもの表現が更に豊かなものになるように、見通しを持ちながら、十分な数の遊具や用具や素材を、子どもが自由に使える場所に準備しておくことが大切です。その際には、子どもの発達過程や興味、関心に応じて、素材の材質や形態にも配慮しなければなりません。また、じっくりと取り組めるスペースやコーナーなどの環境に配慮するとともに、時間をかけて継続的に取り組んでいかれるようにすることも大切です。そして、子どもが表現していく過程を大切にし、自由な自己表現を十分に楽しめるようにしていきます。

子どもの創作意欲や自由な発想に触れることで、保育士等の表現力や創意工夫が促されていくこともあります。子どもと表現活動を楽しみながら、自らの感性やセンスを磨いていくことが求められます。

  • ケ 保育所の保育が、小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに留意し、幼児期にふさわしい生活を通して、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。

子どもは保育所の中で、幼児期にふさわしい生活を通して、様々な経験を積み重ねていきます。また、様々な人や物との関わりを通して、多様な体験をする中で、心身の調和のとれた発達が促されます。一つの活動が子どもの意欲を高め、次の活動を生み出していくなど、一つ一つの体験が相互に結びつき、子どもの生活が生き生きとつくられていくのです。

子どもが十分に自己を発揮し、友達との関わりを深め、友達に対する思いやりの気持ちや仲間意識を持つことは重要であり、人と関わる力の基礎が保育所の生活の中で培われていくことが求められます。また、自ら環境と関わり、自分でできることは自分でしたり、自分で判断したりしていく主体的な生活態度の基礎を養っていくことも幼児期の大きな課題です。

さらに、子どもが、自然事象や身の回りの事物に興味や関心を持ってその現象や仕組みを更に探求しようとしたり、自ら創意工夫して様々な手段で、またそれらを組み合わせて表現しようとすることは、創造的な思考の基礎となります。

保育所の生活の中で、子どもが生涯にわたる生きる力の基礎を培っていること、また、子どもが様々な経験を通して、創造的な思考や主体的な生活態度の基礎を培っていること、そして、これらが小学校以降の生活や学習の基盤となっていくことを保育士等は十分に理解しなければなりません。

このために、保育所では乳幼児期にふさわしい生活が豊かに展開され、適切な保育が行われるように、創意工夫を図り、保育の内容を構築していくことが重要です。

以上のように、保育指針に示された保育の内容として、「養護に関わるねらい及び内容」、「教育に関わるねらい及び内容」がそれぞれに示されています。実際に保育する上では、第4章「保育の計画と評価」にあるように、子どもの発達過程などに応じて柔軟に計画を作成していきます。

また、保育指針に示されたねらい及び内容と子どもの発達との関連を的確にとらえることが重要です。そのための参考となる例示が次頁にありますが、これは、子どもの発達過程における保育の視点として一つの参考例です。

この章の前文や、各項目の前文などで述べられているように、各保育所では養護と教育及び教育の5領域を総合的にとらえながら、0歳から6歳までの保育の内容を具体的に構築していくことが求められます。その際、第2章「子どもの発達」とこの章の「保育の内容」の趣旨を踏まえ、発達の連続性に留意しながら、子どもの全体像をとらえていくことが大切です。

【参 考】 子どもの発達過程における保育の視点(例:「言葉」)

発達過程|言 葉 子どもの発達と保育をとらえる視点
Ⅰ.おおむね6か月未満 ○あやされて声を出したり笑ったりする。 ○保育士等の子守歌を聴いたり、保育士等が話している方をじっと見る。 ○保育士等の声や眼差しやスキンシップ等を通して、喃語が育まれる。
Ⅱ.おおむね6か月から1歳3か月未満 ○身近な大人との関わりを通し、喃語が豊かになる。指さしやしぐさなどが現れはじめる。 ○保育士等に優しく語りかけられることにより、喜んで声を出したり、応えようとする。 ○保育士等と視線を合わせ、喃語や声、表情などを通してやり取りを喜ぶ。
Ⅲ.おおむね1歳3か月から2歳未満 ○指さし、身振りなどで自分の気持ちを表したり、徐々に簡単な言葉を話し始める。 ○保育士等の話しかけややり取りの中で、声や簡単な言葉を使って自分の気持ちを表そうとする。 ○保育士等の話しかけや絵本を読んでもらうこと等により言葉を理解したり、言葉を使うことを楽しむ。
Ⅳ.おおむね2歳 ○保育士等と触れ合い、話をしたり、言葉を通して気持ちを通わせる。 ○保育士等を仲立ちとして、生活や遊びの中で簡単な言葉でのやり取りを楽しむ。 ○絵本などを楽しんで見たり聞いたりして言葉に親しみ、模倣を楽しんだりする。
Ⅴ.おおむね3歳 ○生活に必要な言葉がある程度分かり、したいこと、してほしいことを言葉で表す。 ○友達の話を聞いたり、保育士等に質問したりするなど興味を持った言葉や、言葉によるイメージを楽しむ。 ○絵本、物語、視聴覚教材などを見たり、聞いたりしてその内容や面白さを楽しむ。
Ⅵ.おおむね4歳 ○自分の経験したことや思っていることを話したりして、言葉で伝える楽しさを味わう。 ○様々な言葉に興味を持ち、保育士等や友達の話を聞いたり、話したりする。 ○絵本、物語、視聴覚教材などを見たり、聞いたりしてイメージを広げる。
Ⅶ.おおむね5歳 ○自分で考えたこと経験したことを保育士等や友達に話し、伝え合うことを楽しむ。 ○様々な機会や場で活発に話したり、保育士等や友達の話に耳を傾ける。 ○絵本、物語、視聴覚教材などを見たり、聞いたりしてイメージを広げ、保育士等や友達と楽しみ合う。
Ⅷ.おおむね6歳 ○自分の経験したこと、考えたことなどを言葉で表現する。 ○人の話を聞いたり、身近な文字に触れたりしながら言葉への興味を広げる。 ○絵本、物語、視聴覚教材などに親しみ、保育士等や友達と心を通わせる。

※ 子どもの様々な発達の側面は0歳からの積み重ねであることや実際の保育においては、養護と教育の一体性及び5領域の間の関連性に留意することが必要である。

※ 子どもの発達を見通しを持ってとらえることが、保育課程の編成や指導計画の作成などに生かされる。


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第4章 保育の計画及び評価

保育所は、第1章( 総則)に示された保育の目標を達成するために、保育の基本となる「保育課程」を編成するとともに、これを具体化した「指導計画」を作成しなければならない。

保育課程及び指導計画( 以下「保育の計画」という。) は、すべての子どもが、入所している間、安定した生活を送り、充実した活動ができるように、柔軟で発展的なものとし、また、一貫性のあるものとなるよう配慮することが重要である。

また、保育所は、保育の計画に基づいて保育し、保育の内容の評価及びこれに基づく改善に努め、保育の質の向上を図るとともに、その社会的責任を果たさなければならない。

保育所は保育の目標を達成するために、第2 章( 子どもの発達)、第3章( 保育の内容)に示された子どもの発達の基本的な考え方や保育の内容等の理解に基づき、計画性のある保育を実践することが必要です。そして、計画、評価、改善という一連の保育の過程を通して保育が行われることにより、保育の質の向上が図られるようにすることが重要です。

【子どもの主体性の尊重と計画性のある保育】

保育所における保育の基本は、子どもの主体性を尊重し、子ども自らが環境に関わり、環境との相互作用を通して多様な体験をすることで、子どもが心身共に健やかに育つことです。その際、保育士等の役割として大切なことは、子どもが発達に必要な経験を積み重ねていくことができる環境を計画的に構成し、子どもの心身の状況により適切な援助をすることです。

乳幼児期の発達特性と一人一人の子どもの実態を押さえ、計画を作成し、見通しを持って保育することにより、保育所が子どもにとって、安心できる心地よい生活の場となり、第1 章総則に示される「子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す力の基礎を培う」ことを可能にするのです。

保育所で、子どもの主体性を尊重することは、子どものやりたいこと、やろうとしていることを好き放題、勝手気ままにさせることではありません。子どもの生きる力、伸びようとする力が発揮され、心身共に健やかに育つためには、一人一人の育ちを見通し、発達過程を押さえて保育を組み立てていくこと、すなわち計画性のある保育が必要です。

計画性のある保育とは、一貫性と柔軟性を尊重した保育です。ここでいう一貫性とは0 歳から就学前までの育ちを見通して保育所での日々の生活をデザインすることを意味します。また柔軟性とは、計画通りに「させる」「やらせる」保育ではなく、その時々の子どもの状況に応じた応答的な環境の構成や援助を行うことです。

子どもの状況を理解することなく一貫性や計画性のない保育が行われると、子どもの生命の保持や情緒の安定という保育の基本さえも確保されないことになります。

保育は、子どもと保育士等との相互の多様な関わりが継続していく過程です。したがって、保育の計画は、発達や生活の連続性に配慮したものであることが重要です。

各保育所は、保育目標を明確にし、その目標を達成するために、保育の方向性を予測し、子どもの実態に応じて計画を作成します。また、実際の保育の中では発展的に環境を再構成するなど保育士等の適切な判断のもとに柔軟に保育が展開されることが求められます。

【「保育計画」から「保育課程」へ】

第1章(総則)に示されているように、子どもをめぐる社会の状況が変化する中で、保育所が担う社会的役割はますます大きなものとなっています。子どもの最善の利益を保障しその責任を果たしていくためには、今まで以上に保育の質の向上が求められます。何よりも大切なのは、一人一人の職員の人間性や専門性を高めることと保育所全体が組織として計画的な保育実践とその評価、改善という循環的な営みによって保育の質の向上を図ることです。

そのため、保育の実践において組織性及び計画性をより一層高め、保育所保育の全体的な構造を明確にすることが必要となります。

保育所では、子どもの家庭環境や生育歴、また保育時間や保育期間も一人一人異なります。保育に当たる職員も、保育士はじめ様々な職種、勤務体制で構成されています。こうした状況を踏まえ、子どもの発育・発達を一貫性を持って見通し、発達過程に応じた保育を体系的に構成し、保育に取り組むことが重要です。

こうしたことを踏まえ、今般の改定では、これまで「保育計画」としていた保育の全体計画を「保育課程」と改めることとしました。そして、保育課程を他の計画の上位に位置付け、全職員の共通認識の下、計画性を持って保育を展開し、保育の質の向上を目指すことが重要とされました。

保育所保育の根幹となる「保育課程」という新たな、そして、包括的な捉え方は、保育所保育の全体像を描き出したものといえます。すなわち、生活する場や時間、期間がどのような状況であっても、乳幼児期に共通する発育・発達の過程を基盤に、家庭や地域等、多様な側面に目を向け、入所しているすべての児童の生活の場をデザインし、保育を展開していくということを重要視したのです。

 

1.保育の計画

 

(1) 保育課程
  • ア 保育課程は、各保育所の保育の方針や目標に基づき、第2章(子どもの発達)に示された子どもの発達過程を踏まえ、前章(保育の内容)に示されたねらい及び内容が保育所生活の全体を通して、総合的に展開されるよう、編成されなければならない。
  • イ 保育課程は、地域の実態、子どもや家庭の状況、保育時間などを考慮し、子どもの育ちに関する長期的見通しを持って適切に編成されなければならない。
  • ウ 保育課程は、子どもの生活の連続性や発達の連続性に留意し、各保育所が創意工夫して保育できるよう、編成されなければならない。
① 保育課程とは

「保育課程」は、保育時間の長短、在所期間の長短、途中入所等に関わりなく入所児童すべてを対象とします。保育所の保育時間は、児童福祉施設最低基準第3 4 条に基づき、1 日につき8時間を原則とし、地域における乳幼児の保護者の労働時間や家庭の状況等を考慮して、各保育所において定めることとされています。

さらに延長保育、夜間保育、休日保育などを実施している場合には、それらも含めて子どもの生活全体を捉えて編成します。

子どもの最善の利益を第一義にして多様な機能を果たす保育所保育の根幹となる保育課程は、第2 章に示される発達過程を踏まえ、第3 章に示される保育のねらい及び内容等から編成され、保育所生活の全体を通して総合的に展開されるものです。保育の実施に当たっては、保育課程に基づき、子どもの発達や生活の状況に応じた具体的な指導計画やその他の計画を作成し、環境を通して保育することを基本とします。

なお、入所児童の保護者への支援、地域の子育て支援は、保育課程に密接に関連して行われる業務と位置付けられます。

② 保育課程の編成

各保育所においては、保育指針に基づき、児童憲章、児童福祉法、児童に関する権利条約等に示されていることを踏まえ、子どもの心身の発達や家庭及び地域の実態に即した保育課程を編成します。施設長の責任の下に編成しますが、全職員が参画し、共通理解と協力体制のもとに創意工夫して編成することが大切です。

乳幼児期の発達の特性や連続性を踏まえて保育課程を編成するとともに、柔軟性を持って保育を展開することが大切です。第2章において8 つの発達過程で示される内容は、組やグループの均一的な発達の基準としてとらえるものではなく、一人一人の子どもの発達過程として理解し、人間形成の最も基盤となる時期であることを十分に認識して編成することが必要です。

その際、地域の特性やそれぞれの保育所において積み重ね蓄えられてきた様々な記録や資料などを生かして特色あるものとしていくことが大切です。また、保護者の思いを受け止め、保育課程に反映するかどうかなど検討することが求められますが、子どもの最善の利益を第一義にすることが前提です。

保育課程編成の手順について(参考例)
  • 1)保育所保育の基本について職員間の共通理解を図る。児童福祉法や児童に関する権利条約等関係法令を理解する。保育所保育指針、保育所保育指針解説書の内容を理解する。
  • 2)各保育所の子どもの実態や子どもを取り巻く家庭・地域の実態及び保護者の意向を把握する。
  • 3)各保育所の保育理念、保育目標、保育方針等について共通理解を図る。
  • 4)子どもの発達過程を見通し、それぞれの時期にふさわしい具体的なねらいと内容を一貫性を持って組織するとともに、子どもの発達過程に応じて保育目標がどのように達成されていくか見通しを持って編成する。
  • 5)保育時間の長短、在所期間の長短、その他子どもの発達や心身の状態及び家庭の状況に配慮して、それぞれにふさわしい生活の中で保育目標が達成されるようにする。
  • 6)保育課程に基づく保育の経過や結果を省察、評価し、次の編成に生かす。
③ 保育課程編成の留意事項

保育課程における具体的なねらいや内容は、発達過程に即して組織します。保育指針や解説書に示される発達過程や養護及び教育のねらい・内容を参考にしながら、それぞれの保育所の実態に即して工夫して設定することが必要です。

第3章に示される保育のねらい及び内容は、養護と教育に区分されて示されていますが、保育所の生活の中で相互に関連して総合的に行われることを考慮するとともに、養護と教育が一体となって行われることを十分に認識することが大切です。特に3歳未満児は、この時期の発達の特性から見て各領域を明確に区分することが難しいことや、個人差が大きいことから、工夫してねらいや内容を組織することが求められます。

また、保育所における生活と家庭との生活の連続性を尊重し、保育時間などの違いに配慮するとともに、家庭との連携についても視野に入れて設定します。

さらに、保育所の保育が小学校以降の教育や生活につながることを踏まえ、発達の連続性に配慮して編成します。その際、保育所における保育が、一人一人の子どもをかけがえのない個性ある存在として認め、子どもが充実感を持って生活できる場であることにより、小学校の生活につながっていることを認識することが重要です。

保育課程とこれに基づく指導計画の展開は、保育実践を振り返り、記録等を通して保育を評価し見直すという一連の改善のための組織的な取組です。子どもの姿をとらえながら自らの保育を継続的に省察することが、保育の改善につながっていきます。

こうした保育の状況を職員間で共有し、また、保護者や地域へ様々な方法を通して情報提供していくことが、保育所の説明責任を果たすことになるのです。

 

(2) 指導計画
  • ア 指導計画の作成指導計画の作成に当たっては、次の事項に留意しなければならない。
    • (ア)保育課程に基づき、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、それに関連しながら、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成して、保育が適切に展開されるようにすること。
    • (イ)子ども一人一人の発達過程や状況を十分に踏まえること。
    • (ウ)保育所の生活における子どもの発達過程を見通し、生活の連続性、季節の変化などを考慮し、子どもの実態に即した具体的なねらい及び内容を設定すること。
    • (エ)具体的なねらいが達成されるよう、子どもの生活する姿や発想を大切にして適切な環境を構成し、子どもが主体的に活動できるようにすること。
①保育課程と指導計画

「指導計画」は、保育課程に基づいて、保育目標や保育方針を具体化する実践計画です。指導計画は具体的なねらいと内容、環境構成、予想される活動、保育士等の援助、家庭との連携等で構成されます。

指導計画は、保育実践の具体的な方向性を示すものであり、一人一人の子どもが、乳幼児期にふさわしい生活の中で、必要な体験が得られるよう見通しを持って作成するものです。一人一人の子どもを主体としてとらえ、「環境を通して行う保育」を展開していく上で大切なのは、ねらいを達成するための環境を適切に構成し、子ども自らが環境に関わって様々な活動を生み出していくよう援助することです。したがって、子どもと保育士等との相互作用により生活を創造していく過程で、子どもと共に環境の再構成をするなど柔軟に保育を展開し、その実態を子どもと保育士等の2つの視点で省察し、次の指導計画の作成に生かしていくことが求められるのです。

②長期的指導計画と短期的指導計画

保育所では、子どもの発達を見通した年・期・月など長期的な指導計画と、それに関連しながらより具体的な子どもの生活に即した週・日などの短期的な指導計画を作成します。個人の指導計画、あるいはクラスやグループの指導計画など必要なものを、書式も含めて工夫して作成します。

○長期的な指導計画(年・期・月)

年間(期)指導計画は、1年間の生活を見通した最も長期の計画であり、子どもの発達や生活の節目に配慮し、1年間をいくつかの期に区分した、それぞれの時期にふさわしい保育の内容を計画します。家庭との連携や行事等、また地域との連携などに配慮することが求められます。特に、乳児、1歳児保育については、発育・発達が著しく、個人差が大きいことから、発達過程と保育所生活へ慣れていく過程との2つの側面から構成していくなど工夫していくことが大切です。

○短期的な指導計画(週・日)

長期的な指導計画の具体化を図り、その時期の子どもの実態や生活に即して、柔軟に保育が展開されるように、また、長期の指導計画との関連性や生活の連続性が尊重されるようにします。日課との関連では、保育時間が長時間化している今日、1日の生活の流れの中に、子どもの多様な活動が調和的に組み込まれるように配慮することが求められます。

③指導計画の作成の基本
【子ども一人一人の育ちの理解】

子どもの実態を把握し、理解することから指導計画の作成はスタートします。なぜならば、指導計画は、保育士等から一方的にある活動を子どもに与え、させる計画ではなく、子どもと保育士等との相互作用の中で創っていくものだからです。

「~ができる、~ができない、~遊びをしている」といった目に見えることだけではなく、育っている、育とうとしている子どもの心情、意欲や態度を理解することが大切です。

【集団としての育ちの理解】

一人一人の活動する姿は、一見それぞれ異なるようですが、クラスやグループに共通する育ちがあり、集団としてのねらい、内容が見えてきます。

子どもが生活する姿や記録から、子どもの実態把握をする上で3つの視点が考えられます。一つは生活への取組(食事・睡眠・排泄など基本的な生活習慣)、二つは、人との関係(保育士・子ども等)、三つは遊びへの取組(何に興味を持ち、何をしようとしているのか)です。それぞれの視点で子どもをとらえる際、個人差を大切にすること、また、興味・関心を持っていることや得意なことにまず目を向け、次に何につまずいているかを明確にすることがポイントです。特に、子どもと大人(保育士等・保護者)の関係性と、子ども相互の関係性を読み取ることが必要です。こうした的確な生活実態の把握が、保育所における生活の基本となります。

○次の計画に向けた具体的なねらい・内容の設定

子どもの実態把握をもとに、子どもの発達過程を見通し、養護と教育の視点から子どもの心情・意欲・態度と体験する内容を具体的に設定します。また、家庭生活との連続性や季節の変化、行事との関連性などを考慮して設定することが大切です。特に行事については、保育所と家庭での日常の生活に変化と潤いが持てるように、子どもの自主性を尊重し、日々の保育の流れに配慮した上で、ねらいと内容を考えることが重要です。さらに、家庭や地域の養育機能が低下している今日、家族が積極的に保育所での生活に参加し、子育ての喜びを共有していくための行事も大切です。

○環境の構成

具体的に設定したねらいや内容を、子どもが経験できるように物、人、自然事象、時間、空間等を総合的にとらえて、環境を構成します。清潔で、安全な環境、家庭的な温かな環境を基盤に、子どもが環境に関わって主体的に活動を生みだしたくなるような、心ゆさぶる、魅力ある環境が求められます。「家具、遊具がある」、「素材、用具がある」、「植物、小動物がいる」ということだけではなく、そうした環境が子どもに生かされた環境になっていることや、人と人の関わりなど目には見えない雰囲気等が重要です。環境構成には、こうした計画的な側面と、子どもが環境に関わりながら生じた偶発的な出来事を生かす側面とがあります。したがって、ある特定の活動を想定して大人主導で展開させるための環境ではなく、子どもの気付き、発想や工夫を大切にしながら、子どもと共に環境の再構成をしていくことが大切です。

○子どもの活動の展開と保育士等の援助

子どもの活動の生まれる背景、意味を的確にとらえ、子どもが望ましい方向に向かって主体的に活動を展開していくことができるよう、適切な援助を行なうことが求められます。保育士等の予測を超えた子どもの発想や活動に心を動かすことや、また、天候の変化などにより、ねらい・内容の修正や環境の再構成という新たな保育の展開が始まります。

  • イ 指導計画の展開指導計画に基づく保育の実施に当たっては、次の事項に留意しなければならない。
    • (ア)施設長、保育士などすべての職員による適切な役割分担と協力体制を整えること。
    • (イ)子どもが行う具体的な活動は、生活の中で様々に変化することに留意して、子どもが望ましい方向に向かって自ら活動を展開できるよう必要な援助を行うこと。
    • (ウ)子どもの主体的な活動を促すためには、保育士等が多様な関わりを持つことが重要であることを踏まえ、子どもの情緒の安定や発達に必要な豊かな体験が得られるよう援助すること。
    • (エ)保育士等は、子どもの実態や子どもを取り巻く状況の変化などに即して保育の過程を記録するとともに、これらを踏まえ、指導計画に基づく保育の内容の見直しを行い、改善を図ること。

指導計画を作成することは子どもの生活を見通してデザインしていくことですが、それは「保育の過程」という考え方で理解することができます。

保育実践は子どもの生活実態を理解することから始まります。そしてその生活を見通して作成した指導計画をもとに、保育を柔軟に実践していきます。さらにその保育実践を省察、評価、見直し、改善していくという一連のプロセス全体を「保育の過程」と呼んでいるのです。

また、この「保育の過程」は、一度展開したら終わりというものではありません。保育の改善とは、子どもについて多様な観点からその理解を深めることであり、それはその期間の指導計画を見直し、次の期間の指導計画に生かしていくことにもつながります。こうして日々展開されていく保育実践そのものが、つながりを持ちながら積み重ねられていきます。

【職員の協力体制による保育の展開】

保育所は様々な年齢や状況の子どもたちが一日の大半を共に生活する場であり、職員全体の協力体制が不可欠です。複雑なローテーション勤務体制、専門性・職種の異なる職員構成という状況で、施設長や主任保育士のリーダーシップのもとに、職員一人一人の力や個性が十分に発揮されることが大切です。そのためには、適切な役割分担がなされ、それぞれが組織の一員としての自覚を持てるよう、必要に応じて指導計画に職員相互の連携についての事項を盛り込みます。

【子どもの変化に応じた柔軟な展開と多様な援助】

実際の保育においては、子どもの姿に即して適切な援助をしていく必要が生じます。子どもの生活は多様な活動がからみあって展開していくものであり、保育士等の予想した姿とは異なる実際の姿が生じることがしばしば見られます。

また、子どもに対する援助は、一緒に遊ぶ、共感する、助言する、提案する、見守る、環境を構成するなど多岐にわたります。その時々の状況に応じて、子どもが主体性を発揮できるよう適切な援助が求められます。こうした多様な援助に支えられて、子どもが情緒の安定や豊かな体験を得られるようにすることが重要です。

【記録と見直し、改善】

子どもは、日々の保育所の生活の中で、様々な活動を生み出し多様な経験をしています。保育を振り返り、記録すること自体が、子ども理解、保育を読み解くことになります。すなわち、記録は、実践したことを、客観化する第一歩となり、記録することを通して、保育中には気づかなかったこと、無意識でやっていたことに改めて気付くのです。そこで、子どもと保育士等の2つの視点で保育を捉え、記録することが求められます。

子どもの姿に視点をあてるというのは、一日の保育やある期間の保育が終わったときに、その間の子ども一人一人の様子を振り返り、保育所での生活と遊びの様子を、思い返してみることです。

また、保育士等の保育に視点をあてるというのは、一日の保育やある期間の保育について、自分の保育実践が適切に行えたかどうかを振り返ってみることです。例えば、この期間に設定したねらいや内容が適切であったか、さらには環境構成の見通しと援助が適切であったかなどを改めて見直すことです。

このような保育の省察により、一日、一週間、一か月などある期間の子どもの生活や遊びの実態をとらえ直し、子どもの言動の背後にある思いや成長の姿を読み取ります。そして、指導計画に基づく保育実践やそこでの一人一人の子どもに対する援助が適切であったかどうかを、自己評価に結び付けていきます。

【保育を振り返り省察する方法】

○記録を通しての省察

◎子どもの育ちを振り返る

子どもと共に生活するという日常的な保育において、記録という行為は、自らの保育を意識化することです。計画に基づき、保育は展開されていくのですが、一瞬一瞬、保育士等は、「今、このとき、このようにすることが最善」という判断のもとに、子どもや保護者への多様な援助を行っています。

記録は、その後の保育の省察、そして次の計画作成へと生かされていきます。つまり、日常の保育の記録が、保育士等の自己評価、さらに、保育所としての自己評価に関連していくのです。

「このことはぜひ記録に残しておきたい」、「保護者へ記録を通して子どもの姿を伝えたい」、「仲間と一緒に子どもの育ちや保育のあり方を考えたい」など保育士等の思いとともに、子どもの姿を具体的に記述することが求められます。その際、子どもの内面の変化について職員間で話し合い、今後の方向性を探る時に、その記録が基礎資料になります。

◎自らの保育を振り返る

環境構成・援助や職員間の連携など特に心に残っていること、また、保育の中で悩んだり、解決したいことなども記録していきます。この過程で、その後どう取り組んでいくかということも合わせて考えていくことで保育の方向性を探ることができます。その中で、どのような取組が解決につながったのかを省察していきます。

このように記録をすることは、自分の保育を具体的に振り返り省察する過程そのものなのです。また、それは自分の保育実践を日々自己評価していく過程であるともいえます。

【カンファレンスを通しての省察】

カンファレンスとは、医療や福祉などの分野で行われている話し合いの方法です。特定のケースに関連している専門家が、お互いの立場を尊重しながら、資料に基づいて解決への方向性をみんなで探っていく専門的な話し合いを意味しています。

保育実践においても、気になる子どものことや保育の行き詰まり、さらには保護者との連携のあり方などをめぐって、課題に直面することがしばしば生じます。その時に、問題や課題に関係する職員が専門的に話し合う保育カンファレンスが必要になります。保育カンファレンスにより、自分では考えつかなかった視点や方向性を示唆してもらえることになります。また、保育を振り返り、組織的に解決の方向性を探っていく方法としても有効です。

 

(3)指導計画の作成上、特に留意すべき事項

指導計画の作成に当たっては、第2章(子どもの発達)、前章(保育の内容)及びその他の関連する章に示された事項を踏まえ、特に次の事項に留意しなければならない。

  • ア 発達過程に応じた保育
    • (ア)3歳未満児については、一人一人の子どもの生育歴、心身の発達、活動の実態等に即して、個別的な計画を作成すること。
    • (イ)3歳以上児については、個の成長と、子ども相互の関係や協同的な活動が促されるよう配慮すること。
    • (ウ)異年齢で構成される組やグループでの保育においては、一人一人の子どもの生活や経験、発達過程などを把握し、適切な援助や環境構成ができるよう配慮すること。
①発達過程に応じた保育
【3歳未満児の指導計画】

3歳未満児は、特に心身の発育・発達が顕著な時期であると同時にその個人差も大きいため、一人一人の子どもの状態に即した保育が展開できるよう個別の指導計画を作成することが必要です。

子どもの1日24時間の生活全体の連続性を踏まえて、家庭との連携を密にとっていきます。保護者の思いを受け止め、尊重しながら、「共に育てる」という基本姿勢のもとで家庭との連携を指導計画に盛り込んでいくことが求められます。

また、3歳未満児は歩行の確立や言葉の習得、自我の育ちなど様々な側面で人間としての基本的な発達が著しく見られると同時に、心身の未熟性の強い時期です。したがって、複数担任での保育士等の連携はもちろんのこと、栄養士・調理員・看護師等との緊密な協力体制のもとで、保健及び安全面に十分配慮することが必要です。

さらに、柔軟なかたちでの担当制の中で、特定の保育士等が子どもとのゆったりとした関わりを持ち、情緒的な絆を深められるよう指導計画を作成することが大切です。

計画は、月ごとに個別の計画を立てることを基本として、子どもの状況や季節の変化などにより、月ごとの区分にも幅を持たせ、ゆったりとした保育を心がけることが必要です。

集団生活の中で、一人一人の個人差にどれだけ対応できるかは重要な課題です。温かな雰囲気を大切にし、子どもが興味を持った好きな遊びが実現できる環境が用意されていること、不安な時や悲しい時に頼れる保育士等の存在が必要です。

【3歳以上児の指導計画】

3歳以上児の指導計画は、組やグループなどの集団生活での計画が中心となりますが、言うまでもなく集団は一人一人の子どもによって形成されるものです。個を大切にする保育を基盤として、子どもが集団において安心して自己を発揮し、他の友達と様々な関わりを持ち、一緒に活動する楽しさを味わい、協同して遊びを展開していくことにより仲間意識を高めていくことに視点をあて、計画することが求められます。

これらのことを踏まえ、3歳以上児の指導計画においては、一人一人の子どもの主体性が重視されてこそ集団の育ちがあるという点を十分に認識した上で作成することが重要です。

【異年齢の編成による保育の指導計画】

様々な年齢の子どもたちが共に生活する場という保育所の環境を生かし、異年齢編成での保育によって自分より年上、年下の子どもと交流する体験を持つことで、同一年齢の保育では得られない諸側面の育ちが期待されます。

異年齢の編成による保育では、自分より年下の子どもへのいたわりや思いやりの気持ちを感じたり、年上の子どもに対して活動のモデルとしてあこがれを持ったりするなど、子どもたちが互いに育ち合うことが大切です。また、こうした異年齢の子ども同士による相互作用の中で、子どもは同一年齢の子ども同士の場合とは違った姿を見せることもあります。このように、異年齢の子どもたちが関わり合うことで、日々の保育における遊びや活動の展開の仕方がより多様なものとなることが望まれます。

一方、異年齢の編成の場合は子どもの発達差が大きいため、個々の子どもの状態を把握した上で保育のねらいや内容を明確に持った適切な環境構成や援助が必要です。こうした配慮により、遊びが充実したものになり、子ども同士での多様な関わりがくり広げられるようになるのです。

また、保育士等の意図性が強くなると、子どもが負担感を感じることも考えられます。日常的な生活の中で、子ども同士が自ら関係をつくり、遊びを展開していけるように十分に配慮します。

イ 長時間にわたる保育

長時間にわたる保育については、子どもの発達過程、生活のリズム及び心身の状態に十分配慮して、保育の内容や方法、職員の協力体制、家庭との連携などを指導計画に位置付けること。

②長時間にわたる保育
【生活リズムや心身の状態への配慮】

保育所で長時間にわたって過ごす子どもについては、特に心身の健やかな発達を保障できるよう様々な配慮が必要となります。指導計画を作成する際には一日の生活の流れを見通し、一人一人の子どもの発達過程や心身の状態に基づいて行き届いた対応をすることが求められます。

延長保育・夜間保育の場合は特に、家庭的でゆったりとくつろげる環境や保育士等の個別的な関わりなど、子どもが負担なく落ち着いて過ごせるよう心がけることが重要です。また、通常の時間帯における保育との関連やバランスを視野に入れ、一日の中で気持ちを切り替えられるよう配慮することも大切です。さらに、夕方以降の時間帯においては、一日の疲れや保護者を待つ気持ちを受け止め、保育士等が温かく関わることが求められます。

【家庭との連携】

長時間にわたる保育においては、とりわけ家庭との密接な連携が必要となります。保護者の状況を理解し心身の状態に配慮しながら、子どもの生活の様子や育ちの姿を伝えあい、子どもの思いや一日の全体像について理解を共有することが重要です。また、延長保育や夜間保育で食事や補食を提供する場合には、子どもの生活リズムを視野に入れながら、一日の食事の時間や量、内容などについて保護者と情報を交換することが必要です。

子どもが保育所において安心して充実した毎日を過ごせることは、保護者にとって大きな支えとなり、保育所に対する信頼感へとつながります。

【職員の協力体制】

保育時間の長い子どもの保育では、職員の勤務体制により一日の中で複数の職員が担当することになります。引き継ぎの際には職員間での正確な情報の伝達を心がけ、すべての職員が協力して、子どもや保護者が不安を抱くことのないよう十分に配慮しながら関わっていくことが必要です。

また、指導計画の作成とその実践においても、各々の保育士等が一日の保育の流れを把握した上で、それぞれの担当する時間や子どもにふさわしい対応ができるよう、保育のねらいや内容等について理解を共有して取り組むことが重要です。

  • ウ 障害のある子どもの保育
    • (ア)障害のある子どもの保育については、一人一人の子どもの発達過程や障害の状態を把握し、適切な環境の下で、障害のある子どもが他の子どもとの生活を通して共に成長できるよう、指導計画の中に位置付けること。また、子どもの状況に応じた保育を実施する観点から、家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成するなど適切な対応を図ること。
    • (イ)保育の展開に当たっては、その子どもの発達の状況や日々の状態によっては、指導計画にとらわれず、柔軟に保育したり、職員の連携体制の中で個別の関わりが十分行えるようにすること。
    • (ウ)家庭との連携を密にし、保護者との相互理解を図りながら、適切に対応すること。
    • (エ)専門機関との連携を図り、必要に応じて助言等を得ること。
③障害のある子どもの保育
【保育所における障害のある子どもの理解と保育の展開】

保育所においては、すべての子どもが、日々の生活や遊びを通して共に育ち合っています。障害のある子どもが安心して生活できる保育環境となるよう十分に配慮します。

一人一人の障害は様々であり、その状態も多様であることから、保育士等は、子どもが発達してきた過程や心身の状態を把握し、理解することが大切です。子どもとの関わりにおいては、個に応じた関わりと集団の中の一員としての関わりの両面を大事にしながら、保育を展開していきます。

【個別の指導計画と支援計画】

保育所では、障害のある子ども一人一人の実態を的確に把握し、安定した生活を送る中で、子どもが自己を十分に発揮できるよう見通しを持って保育することが必要です。そこで、必要に応じて個別の指導計画を作成し、クラス等の指導計画と関連づけておくことが大切です。その際には、障害の状態や生活や遊びに取り組む姿、活動への関心や参加の様子、さらには友達との関わりなどをていねいに把握して、クラス等の指導計画と個別の指導計画をどう関連させていくのか、環境構成や援助として特に何を配慮していくのかなど、具体的に見通すことが大事になります。また、計画に基づく支援が、長期的にどのような方向性をめざしていくのか、担当保育士をはじめ、看護師等や栄養士、嘱託医などが連携することが基本です。

学校教育において、幼児期から学校卒業後まで一貫した支援を行うために、個別の教育支援計画の作成が進められている今日、保育所においても、市町村や地域の療育機関などの支援を受けながら、長期的な見通しを持った支援のための個別の計画の作成が求められます。その際、各保育所においては、保護者や子どもの主治医、地域の専門機関など、子どもに関わる様々な人や機関と連携を図ることが重要です。こうした取組が小学校以降の個別の支援への連続性を持つことになります。

【職員相互の連携】

障害のある子どもの理解と援助に当たっては、担当保育士だけではなく、職員全体で共通理解を図りながら取り組むことが基本です。そのためには、施設長が中心となり、職員全体で定期的かつ必要に応じて話し合う機会を持つことが求められます。

担当保育士を中心にその日の子どもの心身の状況に応じて、職員間で協力しながら保育を進めていくことが重要です。

【家庭との連携】

障害のある子どもの理解と援助は、子どもの保護者や家庭との連携が何よりも大切になります。保育所と家庭での生活の状況を伝え合うことで、子どもの理解を深め合うことや、保護者の悩みや不安などを理解し支えていくことなどが可能となります。こうした連携を通して保護者が保育所を信頼し、子どもについての共通理解のもとに協力し合う関係を形成することができます。

また、他の子どもの保護者に対しても、保育所での生活の中で、子どもが互いに育ち合う姿を通して、障害についての理解が深まるようにすることが大切です。その際、子どもとその保護者や家族に関するプライバシーの保護には十分留意します。

【地域や専門機関との連携】

障害のある子どもの保育に当たっては、地域の専門機関と連携し適切なアドバイスを受けながら取り組んでいくことが必要となります。そのためには、保育所と専門機関とが定期的に、または必要に応じて話し合う機会を持ち、子どもへの理解を深め、保育の取組の方向性について確認し合うことが大事です。

また、就学する際には、保護者や関係する専門機関がそれまでの経過やその後の見通しについて協議し、その子どもにとって最も適していると思われる支援のあり方を考えていくことが求められます。

  • エ 小学校との連携
    • (ア)子どもの生活や発達の連続性を踏まえ、保育の内容の工夫を図るとともに、就学に向けて、保育所の子どもと小学校の児童との交流、職員同士の交流、情報共有や相互理解など小学校との積極的な連携を図るよう配慮すること。
    • (イ)子どもに関する情報共有に関して、保育所に入所している子どもの就学に際し、市町村の支援の下に、子どもの育ちを支えるための資料が保育所から小学校へ送付されるようにすること。
④小学校との連携
【小学校との連携において前提とすべきこと】

子どもの生活と発達は、乳児期から幼児期を経て学童期へと連続しています。遊びや生活の中で積み重ねられてきた子どもの様々な側面の育ちが、小学校以降の生活や学びの基盤となります。

指導計画の作成に当たっては、こうした乳幼児期を基盤とする生涯発達という観点を持って、保育所での育ちがそれ以降の生活や学びへとつながっていくよう保育の内容の工夫を図ることが大切です。

子どもは、乳幼児期にふさわしい遊びや生活における身体的・具体的な体験を通して発達していきます。すなわち、小学校での生活や学びにつながる保育とは、これらを先取りするということではありません。保育の中で創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎が培われるよう毎日の生活や遊びを充実させることが大切です。

また、就学に向かう時期においては、子どもが小学校生活に対して期待感をもてるよう配慮するとともに、入学してから一人一人の子どもが生き生きと自分を発揮できるようにするため、小学校と積極的に連携を図ることが必要となります。

【小学校との連携のあり方】

子どもの育ちを考えていくためには、保育所と小学校の関係者が直接的に交流し、双方における生活・学びの実情や子どもの育ちの歩みと見通しについて、互いに理解を深めることが大切です。

また、就学に際して、小学校を訪問したり小学生と交流する機会を設けて、子どもが小学校生活に対する見通しを持てるようになることも重要です。きょうだいや地域の子ども集団において年上の子どもと接することが少なくなりつつある現在においては、こうした子ども同士の触れ合いを通して、子どもが自ら成長していくイメージを持つことは貴重な体験となります。行事等を活用するだけでなく、より日常的に接する機会を持つことが望まれます。

保育所、幼稚園、小学校が合同で研修を行ったり、行政及び他の専門職も含めた地域の連絡会を設けたりすることも重要です。

また、保育所の子どもと放課後児童クラブの子どもとの交流や、職員同士の交流および情報共有によって相互理解を図ることなども求められます。

地域全体で連携を図りながら情報を共有し、一人一人の子どもの育ちを共に考える姿勢を持つことが大切です。

【子どもの育ちを支える資料の送付】

今回の保育指針の改正により、すべての保育所入所児童について、保育所から就学先となる小学校へ、子どもの育ちを支える資料を「保育所児童保育要録」(以下「保育要録」という。)として送付することになりました。

これまで述べてきたように、保育所での子どもの育ちをそれ以降の生活や学びへとつなげていくことは、保育所の重要な役割です。保育所では保育の内容や方法を工夫したり、小学校への訪問や教員との話し合いなど顔の見える連携を図りながら、子どもの日々の保育を充実させ、就学への意欲を育てていくことが求められます。

さらに、保育所生活を通して子どもが育ってきた過程を振り返り、その姿や発達の状況をとらえ的確に記録することが必要です。こうした記録をもとに、就学先に送付する資料として簡潔にまとめたものが保育要録であり、小学校において子どもの育ちを支え、子どもの理解を助けるものとなることが期待されます。

保育要録は、保育における養護及び教育に関わる5領域の視点を踏まえて記載するなど、子どもの状況などに応じて柔軟に作成していきます。また、一人一人の子どもの良さや全体像が伝わるよう工夫して記すとともに、子どもの最善の利益を考慮し、保育所から小学校へ子どもの可能性を受け渡していくものであると認識することも大切です。

さらに、保護者との信頼関係を基盤として、保護者の思いを踏まえつつ記載するとともに、保育要録の送付については、入所時や懇談会などを通して、保護者に周知しておくことが望ましいでしょう。個人情報保護や情報開示に留意することも必要です。

次頁に保育要録の「様式の参考例」を示しましたが、この様式を参考に、各市町村が、地域の実状等に即して、保育要録の様式を作成していきます。

なお、「保育所保育指針の施行に際しての留意事項について」(平成20年3月28 日雇児保発第0328001 号)に記載されている事項についても十分に留意します。

保育所児童保育要録

オ 家庭及び地域社会との連携

子どもの生活の連続性を踏まえ、家庭及び地域社会と連携して保育が展開されるよう配慮すること。その際、家庭や地域の機関及び団体の協力を得て、地域の自然、人材、行事、施設等の資源を積極的に活用し、豊かな生活体験を始め保育内容の充実が図られるよう配慮すること。

⑤家庭及び地域社会との連携

子どもの発達を支えるためには、保育所と家庭及び地域社会における生活経験が、それぞれに実感を伴い充実したものとなることはもちろん、相互に密接に結びつくことが重要です。

保育所での遊びや活動の中で子どもたちが味わった様々な実体験が家庭や地域での生活に生かされるとともに、家庭や地域社会で子どもが身近な環境に触れそれぞれに経験したことが、保育所での生活に生かされていくことが大切です。こうしたことにより子どもは、身の回りの事物に対する興味・関心を広げ、周囲の人々との関わりをより豊かなものにしながら、友達との関わりを深めていきます。

したがって、指導計画を作成するに当たっては、家庭や地域社会を含めた子どもの生活全体を視野に入れながら、子どもの抱いている興味や関心、置かれている状況などに即して、必要な経験とそれにふさわしい環境の構成を考えることが求められます。

そして、そのためには、保育士等が一生活者としての視点や感覚を持ちながら毎日を営む中で、家庭や地域社会と日常的に十分な連携をとり、一人一人の子どもの生活全体について互いに理解を深めることが不可欠となります。

また、日常生活において、子どもたちは、地域の自然に接したり、異年齢の子どもをはじめとする幅広い世代の人々と交流したり、社会の様々な文化や伝統に触れたりする直接的な体験が不足しがちとなっています。

保育所ではこれらのことを十分に踏まえて、保育所内外において子どもが豊かな体験を得る機会を積極的に設けることが必要です。その際、特に保育所外での活動においては、移動も含め安全に十分配慮することはもちろんのこと、子どもの発達や状態を丁寧に把握し、一人一人の子どもにとって無理なく充実した体験ができるよう指導計画に基づいて実施することが重要となります。

これら様々な地域の資源を活用するためには、保育士等が日頃から身近な地域社会の実情をしっかりと把握しておくと同時に、地域から保育所の存在やその役割が認知され、子どもや保育について理解や親しみを持って見守られていることが前提となります。

地域社会との積極的な交流や保育に関する情報の発信など、地域との密な連携を図りながら子どもの生活がより充実したものとなるよう指導計画を作成することが求められます。

 

2.保育の内容の自己評価

【自己評価の意義】

保育所は、保護者とのパートナーシップのもとで、子どもの健やかな育ちを保障し、よりよい保育を展開していくために、計画に基づいて実践した自らの保育を多様な観点で振り返りながら、継続的に保育の質を向上させていくことが求められています。

保育所の自己評価は、個々の保育士等の職員が行うものと、保育所全体で行うものの二つに大別できます。

前者は自らの保育実践と子どもの育ちを振り返り、次の保育に向けて改善を図り、保育の質を向上させることが目的です。また、それを通じて職員間の絆や協働性を強め、学び合いの基盤を作り、研修内容の確認や自己研鑽を行っていく機会にもなります。

後者は各保育所が、保育所として創意工夫していることや独自性などとともに課題を把握し、保育課程や指導計画その他の保育の計画を見直して改善を図ることが目的です。いずれも、組織として積極的に取り組むことに意義があります。

言うまでもなく、保育所保育の質を守り高める主体は保育所であり、施設長をはじめ専門性を有する一人一人の保育士等です。この自己評価を通じて、すべての職員が組織的・継続的によりよい保育を作り上げていくことが期待されているのです。

 

(1) 保育士等の自己評価
  • ア 保育士等は、保育の計画や保育の記録を通して、自らの保育実践を振り返り、自己評価することを通して、その専門性の向上や保育実践の改善に努めなければならない。
  • イ 保育士等による自己評価に当たっては、次の事項に留意しなければならない。
    • (ア)子どもの活動内容やその結果だけでなく、子どもの心の育ちや意欲、取り組む過程などにも十分配慮すること。
    • (イ)自らの保育実践の振り返りや職員相互の話し合い等を通じて専門性の向上及び保育の質の向上のための課題を明確にするとともに、保育所全体の保育の内容に関する認識を深めること。

保育士等が行う自己評価は、保育実践の改善のためにあります。保育は計画、実践、省察、評価、改善、計画という循環を重ねながら展開します。改善のための評価には、評価の視点として「子どもの育ちをとらえる視点」と「自らの保育をとらえる視点」の二つが含まれています。

①子ども一人一人の育ちをとらえる視点

保育士等は子どもと生活を共にする中で、個々の育ちをしっかりととらえることができる専門性が何よりも大切です。特に第2章に示される発達の特性とその過程を踏まえ、ねらいと内容の達成状況を評価します。そのとき留意したいのは、一人一人の発達に個人差があること、生活や遊びの中で目に見えにくい心の動きなど内面の育ちをとらえること、子どもの活動の結果だけに目を向けるのではなく、どのようなことに興味や関心を持ち、どのような活動に取り組もうとしているのか、また取り組んでいるかを理解することです。また、保育の環境や、子ども同士及び保育士等との関係など、周囲の状況との関連も視野に入れながらとらえることも大切で

す。

さらに、それまでの生育歴や保育歴をはじめ、家庭や地域社会での生活の実態にも目を配るようにします。

②自らの保育をとらえる視点

保育士等は、指導計画に書かれたねらいと内容、環境構成、保育士等の援助などが適切であったかなど、「保育の過程」の全体を振り返ります。指導計画をはじめ保育実践記録などをもとに、保育士等の間での省察を通じて、保育の目標やねらいの達成状況、課題となっていることを明らかにします。また、保育を展開していくうえで、保護者との連携が十分に図られていたかについても振り返ります。

③保育士等の学び合いとしての自己評価

自己評価は、保育士等が個別に行うだけではなく、相互理解が大切になります。そのためには、保育実践を互いに見合うことや、カンファレンスを通して、子どもの行動の見方や自己の保育の意味を検討することなどは、一人では気づけなかった保育のよさや課題の発見につながります。

ときには保育所外部の専門家を交えたカンファレンスを行うことも大切です。同じ保育場面でもとらえ方は様々であり、自分の保育が同僚や他の専門家にどう映るのか、自分と異なる子ども理解や保育の視座に出会うことで保育の視野を広げ、自らの子ども観や保育観を見つめ直す機会となります。

こうしたことを通して、自己評価が保育の質の向上に欠かせないものであることを実感できるようになると、そこに共通の保育への見通しを持って、お互いに意見を交わし合う関係が形成されます。保育実践の意味を共有化したり、ときには自分の不十分な点や修正が必要な点に気付く機会になったり、あるいは保育のマンネリ化に陥ることを防ぐことにもつながります。それぞれが専門性を持ちながらチームワークを向上させていこうとする姿勢によって、組織として前向きに取り組むことが可能になります。

このような自己評価のあり方により、学び合いを継続していく基盤が形成され、自分と異なる他者の意見を受け止め自らの保育を謙虚に振り返る姿勢や、保育に対する責任感と自覚など保育の専門性の向上が図られていきます。

 

(2)保育所の自己評価
  • ア 保育所は、保育の質の向上を図るため、保育の計画の展開や保育士等の自己評価結果を踏まえ、当該保育所の保育の内容等について自ら評価を行い、その結果を公表するよう努めなければならない。
  • イ 保育所の自己評価を行うに当たっては、次の事項に留意しなければならない。
    • (ア)地域の実情や保育所の実態に即して、適切に評価の観点や項目等を設定し、全職員による共通理解を持って取り組むとともに、評価の結果を踏まえ、当該保育所の保育の内容等の改善を図ること。
    • (イ)児童福祉施設最低基準第36条の趣旨を踏まえ、保育の内容等の評価に関し、保護者及び地域住民等の意見を聴くことが望ましいこと。
①保育士等の自己評価に基づく保育所の自己評価

保育所としての自己評価は、施設長のリーダーシップの下に、自らの保育の内容とその運営について、組織的・継続的に評価し検証します。この自己評価は、保育士等の自己評価結果に基づいて、施設長と職員との話し合いを通して行われるものです。

保育所が編成する保育課程とそれに基づく指導計画やその他の保育の計画は、各保育所の保育理念・保育方針・保育目標の達成を目指したものです。それらの実現に向けた実践について、職員相互に話し合いを重ねながら、具体的な評価の観点や項目を定めていきます。適切な評価の観点や項目を考えることは、保育の質の向上のために、また保育所としての機能を十分に果たしていくために必要なものです。

②保育所の自己評価の観点

保育所に期待されている具体的な役割や機能は、その地域の社会資源や保育ニーズに応じて異なるものです。したがって保育所が目指す保育の目標や成果も、それぞれの保育所の設置・運営体制や職員規模、子どもや保護者の状況などによって違ったものとなります。自己評価を行うに当たっては、そうした地域の実情や保育所の実態に即して、適切に評価の観点や項目を設定する必要があります。

大切なことは、保育士等の自己評価などで課題となっていることを、短期間にすべて改善しようとすることではなく、課題の重点化を図った上で、期あるいは単年度から数年度の間で、実現可能な計画の中で進めるようにすることです。つねに適切かつ実現可能な評価となるように、評価の観点や項目は、評価に関する様々な情報を収集するなどして見直すことが大切です。評価の観点や項目を設定する際、既存の評価項目を参考にするのも有効です。例えば、一つの方法として、第三者評価基準の評価項目の中から必要なものを選定したり、独自の評価項目をつくるなどして、各保育所にふさわしい項目となるようにします。

このように職員全員が自ら評価することの意味を意識して自己評価を行うとともに、第三者評価など外部評価を受けることは、より客観的な評価につながるでしょう。こうした積み重ねが保育の質を高めるとともに、職員一人一人の意欲の向上につながることに、組織としての自己評価の意義があります。

③自己評価の方法

自己評価は、一年のうちで保育活動の区切りとなる適切な時期を選んで行います。そのために、日頃から保育実践や運営に関する情報や資料を継続的に収集し、職員間で共有するようにします。その資料の中には保育記録をはじめ、保育所が実施した様々な調査結果、あるいは保育所に寄せられた要望や苦情等も含まれます。職員間の情報の共有や効率的な評価の仕組みをつくるために、情報技術(IT)などの積極的な活用も有効でしょう。

自己評価の結果については、具体的な目標や計画、目標の達成状況、課題の明確化、課題解決に向けた改善方策などを整理します。自己評価の結果を整理することで実績や効果、あるいは課題を明確にして、更に質を高めていくための次の評価項目の設定などに生かすようにします。

④自己評価の公表

自己評価の結果を公表する意義は、保護者や地域社会に対して保育所で何をやっているのかを明らかにすることで社会的責任を果たすことにあります。したがって何をどのように公表するのかは、各保育所が判断して定めます。例えば園だよりやホームページなどを利用するといった方法があります。自己評価結果の公表や情報提供によって、自らの保育とその運営について、保護者や地域との継続的な対話や協力関係づくりをすすめ、信頼される開かれた保育所づくりに役立てます。

このように、保育所の自己評価は、保育所の役割や社会的責任を果たせるよう、職員間の連携や組織性を生かした創意工夫が期待されているのです。

◎コラム:第三者評価とは

第三者評価は、2002(平成14)年にスタートしました。根拠となる法律は、2000(平成12)年の社会福祉法であり、その第78 条に「福祉サービスの質の向上を図るための措置等」として、「社会福祉事業の経営者は、自ら提供するサービスの質の評価を行うことなどにより、常に福祉サービスを受ける側の立場に立って、良質かつ適切な福祉サービスを提供するように努めなければならない。国は、社会福祉事業の経営者が行う福祉サービスの質の向上のための措置を援助するために、福祉サービスの質の公正かつ適切な評価の実施に資するための措置を講ずるように努めなければならない。」と規定されています。

第三者評価の意義の第一は、第三者評価を受ける事前の自己評価に職員一人一人が主体的に参画することで、職員の意識改革と協働性を高めることにつながること、第二は、第三者評価結果を利用者(保護者)へ報告し、利用者との協働体制を構築することにあるといえます。


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第5章 健康及び安全

子どもの健康及び安全は、子どもの生命の保持と健やかな生活の基本であり、保育所においては、一人一人の子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保とともに、保育所の子ども集団全体の健康及び安全の確保に努めなければならない。また、子どもが、自らの体や健康に関心を持ち、心身の機能を高めていくことが大切である。このため、保育所は、第1章(総則)、第3章(保育の内容)等の関連する事項に留意し、次に示す事項を踏まえ、保育しなければならない。

子どもの生命と心の安定が保たれ、健やかな生活が確立されることは、日々の保育における基本となります。そのためには、一人一人の子どもの健康状態、発育・発達状態に応じて、子どもの心身の健康の保持増進を図り、危険な状態の回避等に努めなければなりません。保育は、「健康と安全」を欠いては成立しないことを、施設長の責務のもとに全職員が共通して認識することが必要です。

また、保育所は、子どもが集団で生活する場であり、保育における「健康と安全」は、一人一人の子どもに加えて、集団の子どもの「健康と安全」から成り立っているといえます。

子どもの「健康と安全」は、大人の責任において守らなければなりませんが、子ども自らが、健康と安全に関する知識と技術を身につけていくことも大切です。特に、保育における子どもの「健康と安全」は、疾病異常や傷害への対応だけでなく、子どもの心身の健康増進と健やかな生活の確立を目指す視点からの積極的な実践が求められます。

 

1.子どもの健康支援

 

(1) 子どもの健康状態並びに発育及び発達状態の把握
  • ア 子どもの心身の状態に応じて保育するために、子どもの健康状態並びに発育及び発達状態について、定期的、継続的に、また、必要に応じて随時、把握すること。
  • イ 保護者からの情報とともに、登所時及び保育中を通じて子どもの状態を観察し、何らかの疾病が疑われる状態や傷害が認められた場合には、保護者に連絡するとともに、嘱託医と相談するなど適切な対応を図ること。
  • ウ 子どもの心身の状態等を観察し、不適切な養育の兆候が見られる場合には、市町村や関係機関と連携し、児童福祉法第25条の2第1項に規定する要保護児童対策地域協議会(以下「要保護児童対策地域協議会」という。)で検討するなど適切な対応を図ること。また、虐待が疑われる場合には、速やかに市町村又は児童相談所に通告し、適切な対応を図ること。
①心身の状態の把握の意義

一人一人の子どもの健康状態、発育及び発達状態に応じて保育するとともに、保育士等が、定期的にまた随時、保育中の子どもの心身の状態を把握することが極めて重要です。

一人一人の健康状態を把握することによって、施設全体の子どもの疾病の発生状況も把握でき、早期に疾病予防策を立てることにも役立ちます。

また、慢性的疾患や障害の早期発見、不適切な養育等の早期発見にも有効です。

②健康状態の把握の方法

子どもの健康状態の把握は、嘱託医と歯科医による定期的な健康診断に加え、保育士等による毎日の子どもの心身の状態の観察、さらに保護者からの子どもの状態に関する情報提供によって総合的に行う必要があります。なお、一人一人の子どもの生育歴に関する情報は、母子健康手帳等の活用が有効であり、その際は、保護者の了解を求めるとともに、守秘義務についても十分に配慮します。

③把握の実際
【健康観察】

毎日の健康観察は、子どもの心身の状態をきめ細かに確認し、平常とは異なった状態を速やかに見つけ出すことです。観察すべき事項は、機嫌、食欲、顔色、活動性等のどの子どもにも共通した項目と子ども特有の所見・病気等に伴う状態があります。また、同じ子どもでも発達過程により所見の現れ方が異なることがあるので、子どもの心身の状態を日頃から理解しておくことが必要です。

【発育・発達状態の把握】

乳幼児期の最も大きな特徴は、発育・発達が顕著であることです。発育や発達は、出生後からの連続した現象であり、定期的に継続して、または必要に応じて随時、把握することが必要であり、それらを踏まえて保育が行われなければなりません。なお、ここでは、身体の形態面の成熟過程を「発育」、機能面の成熟過程、特に精神運動機能の成熟過程を「発達」として述べています。

○発育・発達状態は、先天的要因、生後の疾病異常、栄養摂取状況、家庭での子育てや保育所等の保育の影響も受けます。そのため、発育・発達状態の把握は健康状態の見極めだけでなく、家庭での子育てや保育の振り返りにも有効です。

○発育状態の把握の方法としては、定期的に身長・体重・胸囲及び頭囲を計測し、前回との比較をする方法が最も容易で効果的です。あわせて、肥満・やせの状態も調べましょう。この結果を、児童票や母子健康手帳等に記録するとともに、各家庭にも連絡し、家庭での子育てに役立てられるようにします。

○精神運動機能の発達は、子どもの日常の言動や生活等の状態の丁寧な観察を通して把握します。精神運動機能発達は、脳神経系の成熟や疾病異常に加えて、出生前、出生時の健康状態や発育・発達状態、生育環境等の影響もあります。さらに個人差も大きく、安易に予測や判断をすることは慎みましょう。

④把握結果への対応

○保育中の子どもの心身の状態については、日々、必要に応じて保護者に報告するとともに、留意事項などについて必要に応じて助言します。保育中に発熱などの異常が認められた場合、また傷害が発生した場合には、保護者に連絡をするとともに、状況に応じて、嘱託医やかかりつけ医等の指示を受け、適切に対応します。

○長期の観察によって、疾病や障害の疑いが生じた時には、保護者に伝えるとともに、嘱託医や専門機関と連携しつつ、対応について話し合い、それを支援していくことが求められます。

○このような事態に備え、疾病や傷害発生時や虐待に対してそれぞれに活用できるマニュアルを作成し基本的な対応を決め、職員全員が適切に実践できることが必要です。この場合、嘱託医や看護師等(保健師、助産師)、栄養士等の専門的機能が発揮されることが望まれます。

⑤虐待の予防・早期発見等の対策
【虐待対策の必要性】

○保育現場は、子どもの心身の状態や家庭での生活、養育の状態等が把握できる機会があるだけでなく、保護者の状況なども把握することが可能です。保護者からの相談を受けたり、支援を行うことにより、虐待発生の予防的機能も可能にします。

○マニュアルを作成し、施設全体の共通認識の下に、組織的に対応すること、また、市町村をはじめとする関係機関とも密接な連携を図ることが必要です。

【虐待等の早期発見】

○子どもの身体の状態、情緒面や行動、養育の状態等について、普段からきめ細かに観察することが必要です。また、保護者や家族の日常の生活や言動等の状態を見守ることが望まれます。

コラム:◎「観察」の主な要点

保育士等が子どもの状態を把握するための視点として以下のことがあげられます。

◎子どもの身体の状態:低身長、やせているなどの発育障害や栄養障害、不自然な傷・皮下出血・骨折・火傷、虫歯が多いまたは急な虫歯の増加等

◎心や行動の状態:脅えた表情・暗い表情、極端に落ち着きがない、激しい癇癪、笑いが少ない、泣きやすい、言葉が少ない、多動、不活発、攻撃的行動、衣服の着脱を嫌う、食欲不振、極端な偏食、拒食・過食 等

◎不適切な養育状態:不潔な服装や体、歯磨きをしていない、予防接種や医療を受けていない状態 等

◎親や家族の状態:子どものことを話したがらない、子どもの心身について説明しない、子どもに対する拒否的態度、しつけが厳しすぎる、叱ることが多い、理由のない欠席や早退、不規則な登所時刻 等

【虐待等が疑われる場合や気になるケースを発見した時の対応】

保育所では、保護者が何らかの困難を抱え、そのために養育が不適切になる恐れがあると思われる場合には、常に予防的に精神面、生活面を援助していく必要があります。上記の種々の事項に応じて、実際に不適切な養育が起こっていると疑われる場合や気になるケースを発見した時は、速やかに市町村や関係機関と連携を取ることが必要です。なお、この対応については、第6章においても記述されています。

 

(2)健康増進
  • ア 子どもの健康に関する保健計画を作成し、全職員がそのねらいや内容を明確にしながら、一人一人の子どもの健康の保持及び増進に努めていくこと。
  • イ 子どもの心身の健康状態や疾病等の把握のために、嘱託医等により定期的に健康診断を行い、その結果を記録し、保育に活用するとともに、保護者に連絡し、保護者が子どもの状態を理解し、日常生活に活用できるようにすること。
①保健計画の作成と実践

一人一人の子どもの生活リズムや食習慣などを把握するとともに、年間の保健計画を作成し、発育・発達に適した生活を送ることができるよう援助します。

【生活リズム】

睡眠、食事、遊びなど一日を通した生活リズムを整えることは、心身の健康づくりの基礎となります。保護者の理解と協力を得ながら、家庭と保育所の生活リズムがバランスよく整えられるよう配慮することが大切です。

【健康教育と生活習慣】

日々の保育の中で子どもたちが健康に関心を持ち、適切な行動がとれるよう、科学的根拠に基づいた健康教育を計画することが望まれます。発達過程に応じ、からだの働きや生命の大切さなどを伝え、手洗い、うがい、歯磨き、排泄後の始末などの基本的な清潔の習慣や健康な食生活が身に付くよう指導・援助をします。排泄の自立の援助は、その生理的機能の発達の個人差や情緒面での配慮がより重要であり、家庭と保育所との連携が望まれます。

○体力づくり:一人一人の発育・発達状態や日々の健康状態に配慮しながら、日常的な遊びや運動遊びなどを通して体力づくりができるように考慮することが必要です。

○保護者との連携:保護者に日々の健康状況や健康診断の結果などを報告したり、疾病時の看護の方法や感染予防の対応などを伝えたり、保護者会などの機会を通して健康への理解を深める働きかけをするなど、計画的に連携を図ることが大切です。

②健康診断の実施

嘱託医の健康診断に際し、保育士等は、一人一人の子どもの発育・発達状態と健康状態を伝えるとともに、保護者からの質問なども伝え、医師の適切な判断や助言を受けることが大切です。診断結果は、日々の健康管理に有効活用できるよう健康記録簿に記載し、家庭にも連絡しなければなりません。特に受診や治療が必要な場合には、嘱託医と連携しながら保護者に丁寧に説明します。

健康診断の結果によっては、嘱託医と相談しながら適切な援助が受けられるよう市町村や保健・医療・療育機関等との連携を図る必要があります。地域の保健医療機関での健康診査についても積極的に受診するように保護者に勧め、その結果を報告してもらうように働きかけることが望まれます。

歯科健診については、年に1回以上実施し、結果を記録し保護者に伝えます。歯と口の健康は、生涯にわたる心身の健康にも影響します。歯磨き指導の他、食生活を含めた心身の健康教育を計画するなど保護者や子どもに関心が持てるよう援助することが望まれます。

 

(3)疾病等への対応
  • ア 保育中に体調不良や傷害が発生した場合には、その子どもの状態等に応じて、保護者に連絡するとともに、適宜、嘱託医や子どものかかりつけ医等と相談し、適切な処置を行うこと。看護師等が配置されている場合には、その専門性を生かした対応を図ること。
  • イ 感染症やその他の疾病の発生予防に努め、その発生や疑いがある場合には、必要に応じて嘱託医、市町村、保健所等に連絡し、その指示に従うとともに、保護者や全職員に連絡し、協力を求めること。また、感染症に関する保育所の対応方法等について、あらかじめ関係機関の協力を得ておくこと。看護師等が配置されている場合には、その専門性を生かした対応を図ること。
  • ウ 子どもの疾病等の事態に備え、医務室等の環境を整え、救急用の薬品、材料等を常備し、適切な管理の下に全職員が対応できるようにしておくこと。

保育所における子どもの疾病等への対応は、保育中の体調不良のみならず、慢性疾患に罹患している子ども等を含めて、子どもの生命保持と健やかな発育・発達を確保していく上で極めて重要です。看護師等が配置されている場合には、その専門性を生かした対応ができるようにします。

①保育中に体調不良や傷害が発生した場合

子どもの状態等に応じて、保護者に連絡するとともに、適宜、嘱託医やかかりつけ医と相談するなどの対応が必要です。特に、高熱、脱水症、呼吸困難、痙攣といった子どもの症状が急変や事故など救急対応が必要な場合には、嘱託医・かかりつけ医または適切な医療機関に指示を求めたり、受診します。必要な場合は救急車の出動を要請するなど、迅速に対応する必要があります。

なお、このような子どもの症状に対して、全職員が正しい理解を持ち、基本的な対応等についても、熟知していることが望まれます。

②感染症の集団発生予防
【予防接種の勧奨】

予防接種は、子どもの感染症予防にとって欠くことのできないものです。特に保育所においては、嘱託医やかかりつけ医の指導のもとに、計画的に接種することを奨励することが望まれます。

【予防接種歴、感染症歴の把握】

入所の際には、母子健康手帳等を参考に、一人一人の子どもの予防接種歴や感染症の罹患歴を把握しておくことが大切です。その後、新たに接種を受けた場合や感染症に罹患した場合には、保護者に伝えてもらうようにします。

【感染症の疑いのある子どもを発見したときの対応】

○保育中に、感染症の疑いのある子どもを発見したときには嘱託医の指示を受けるとともに、保護者との連絡を密にし、医務室等にて他児と接触することのないように配慮します。

○保護者には、かかりつけ医等の診察、治療や指導を受けるように助言します。

○感染症に罹患していることが確定したときには、嘱託医の指導のもとに、他の保護者にも連絡を取り、感染の有無、経過観察等について理解を求めます。

○感染症に罹患した子どもについては、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10 年法律第114 号)にそって嘱託医やかかりつけ医の指示に従うように保護者に協力を求めます。

【出席停止期間】

○いわゆる学校伝染病として定められた感染症に罹患した子どもが登所を再開する時期については、その出席停止期間を守ることを基本とします。

○感染症が発生した場合には、嘱託医などの指示に従うとともに、必要に応じて市町村、保健所等に連絡し、その指示に従います。

③医務室等の整備

体調不良の子どもが安静を保ち安心して過ごせるよう、また他児への感染防止を図ることができるよう、医務室の環境を整備しなければなりません。また、救急用の薬品、包帯等の材料を常備し、全職員が適切な使用法を習熟するようにします。

④与薬への留意点

保育所において薬を与える場合は、医師の指示に基づいた薬に限定します。その際には、保護者に医師名、薬の種類、内服方法等を具体的に記載した与薬依頼票を持参してもらいます。

○保護者から預かった薬については、他の子どもが誤って内服することのないように施錠のできる場所に保管するなど、管理を徹底しなければなりません。

○与薬に当たっては、複数の保育士等で、重複与薬、人違い、与薬量の誤認、与薬忘れ等がないよう確認します。

○座薬を使用する場合には、かかりつけ医の具体的な指示書に基づき、慎重に取り扱う必要があります。

⑤個別的な配慮を必要とする子どもへの対応
【慢性疾患児への対応】

慢性疾患を持つ子どもの保育に当たっては、その主治医及び保護者との連絡を密にし、病状の変化や保育の制限等について保育士等が共通理解を持つことが必要です。また、対象となる子どもの扱いが特別なものにならないように配慮し、他の子どもまたは保護者に対しても、病気を正しく理解できるように留意します。

【肢体不自由児等への対応】

肢体不自由児等、療育が求められる子どもに対しては、保護者及び療育機関と密接に連携し、保育の中でも可能な限り療育の課題に留意することが大切です。

【アトピー性皮膚炎への対応】

アトピー性皮膚炎が疑われる場合には、保護者にかかりつけ医等の指示を受けるよう助言します。誤食に伴う急性の発疹の場合は、直ちに専門医に救急受診します。

【乳幼児突然死症候群(SIDS)】

乳幼児突然死症候群(SIDS)は、「それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査および解剖検査によってもその原因が同定されていない、原則として1歳未満児の突然の死をもたらした症候群」と定義されています。

主として睡眠中に発生し、日本での発生頻度はおおよそ出生4,000 人に1人と推定され、生後2か月から6か月に多く、稀には1歳以上で発症することもあります。SIDSのリスク因子として、「両親の喫煙」「人工栄養」「うつぶせ寝」の3点が指摘されており、うつぶせ寝にして放置することは避けなくてはなりません。うつぶせにする際には、子どものそばを離れないようにし、離れる場合には、仰向けにするか、他の保育士等が見守るようにします。特に入所初期の観察は十分に行います。

【その他の医療的ケアを必要とする子どもへの対応】

在宅医療の普及に伴い、様々な医療的ケアを必要とする子どもの入所が求められることもあります。

保育所で医療的ケアを必要とする子どもを受け入れる場合には、主治医や嘱託医、看護師等と十分に協議するとともに、協力医療機関とも密接な連携を確立します。また、市町村からの支援を受けるなどの体制を整えることが重要です。
保育所における医療的ケアの限界と困難度等について、保護者の十分な理解を得るようにすることも大切です。

⑥救急蘇生法等について

救急蘇生を効果的に行うためには、子どもの急変を早期に発見することが重要であり、日常的な保健管理のあり方が大きな意味を持ちます。保育士をはじめ全職員は、各種研修会等の機会を活用して、救急蘇生法や応急処置について熟知しておくようにします。

⑦病児・病後児保育事業を実施する場合の配慮

保育所に併設して病児・病後児保育事業を実施する場合には、専従の看護師等を配置し、嘱託医、連携医療機関と密接な連携を図ります。また、他の子どもへの感染予防のため、通常の保育室とは分離された専用室(保健室・静養室・保育室等)を整備することが必要です。保育中に急性期の病状が見られた場合には、保護者に連絡し、早期にかかりつけ医を受診するように助言するなどの対応も必要です。

2.環境及び衛生管理並びに安全管理

(1)環境及び衛生管理
  • ア施設の温度、湿度、換気、採光、音などの環境を常に適切な状態に保持するとともに、施設内外の設備、用具等の衛生管理に努めること。
  • イ子ども及び職員が、手洗い等により清潔を保つようにするとともに、施設内外の保健的環境の維持及び向上に努めること。
①温度等の調節

季節や施設の立地条件によってはエアコンや加湿器なども活用しながら室温、湿度を調節し、換気を行うことが必要です。さらに部屋の明るさ、音や声の大きさなどにも配慮しながら、心身の健康と情緒の安定が図られるよう保育環境を整えるように努めます。

②衛生管理

乳幼児は、心身共に未熟で抵抗力が弱く、容易に病気や感染症に罹ります。そのため、日頃から清掃・消毒等に関するマニュアルを活用し、常に清潔な環境が保てるよう配慮しなければなりません。その際、清掃薬品・消毒薬などは、鍵のかかる場所または、子どもの手の届かない場所で保管・管理し、安全の徹底を図ります。

③食中毒発生時の対応
  1. ○食中毒が疑われる場合には、対象となる症状が認められる子どもは別室に隔離し、保護者に連絡するとともに医療機関への受診を求めます。また、嘱託医や保健所・関係機関と連携し迅速な対応をとります。施設長や栄養士・看護師等は、入所児・家族・職員の健康状態を確認し、症状が疑われる場合は医療機関への受診を勧めます。なお、食中毒発生に関するマニュアルの作成と職員全員への周知を図ります。
  2. ○嘔吐物・便などは迅速かつ的確に処理・消毒を行い、二次感染の予防に努めます。その際、マスク・使い捨て手袋などを用いることが望まれます。また、手指の消毒を徹底します。
  3. ○食中毒発生時には、保健所の指示に従い、給食の中止、施設内の消毒、職員や子どもの手洗いを徹底しなければなりません。また、必要に応じて、行事などを控えるなど感染拡大を防ぐよう配慮します。
  4. ○食中毒の予防のための衛生管理の一環として、調理前の食品の管理や職員が確認すべき事項について計画表を作成するとともに、食中毒発生時に原因究明が行えるよう検食と記録を取り、保管します。
  5. ○子どもが調理体験をする場合は、衛生・安全面での事故を防止するため、留意すべき点検項目を作成し、周知徹底することが望まれます。
④子どもへの衛生指導

日常的に保育を通して基本的な清潔の習慣が身に付くよう配慮することが大切です。特に、手洗いは重要であり、正しい手の洗い方を指導します。動物の飼育をしている場合は、世話の後、必ず手洗いとうがいを徹底させる必要があります。
調理体験の際は、服装、爪切り、手洗いなど衛生面、また、調理器具への安全面の指導に留意しなくてはなりません。

⑤職員の衛生知識の向上と手順の周知徹底
  1. ○排便や嘔吐等の処理に当たっては、手洗いの徹底、使い捨て手袋の使用など、感染防止のための処理方法を周知徹底します。また、感染を拡げないように保育中に身に付けていた衣服は着替えるようにします。
  2. ○調乳や冷凍母乳を取り扱う場合や子どもの食事の介助の際には、衛生に十分配慮します。
  3. ○職員は②の「衛生管理」に記載されている事項を十分に踏まえ、自己の健康管理に十分に留意し、特に感染症が疑われる場合には速やかに報告し、自らが感染源とならないように適切に対処することが必要です。
(2)事故防止及び安全対策
  • ア保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に努め、安全対策のために職員の共通理解や体制作りを図るとともに、家庭や地域の諸機関の協力の下に安全指導を行うこと。
  • イ災害や事故の発生に備え、危険箇所の点検や避難訓練を実施するとともに、外部からの不審者等の侵入防止のための措置や訓練など不測の事態に備えて必要な対応を図ること。また、子どもの精神保健面における対応に留意すること。
  • ①日常の安全管理(セーフティマネジメント)

    子どもの環境の安全は、重要な課題です。安全点検表を作成して、施設、設備、遊具、玩具、用具、園庭等を定期的に点検し、安全性の確保や機能の保持など具体的な点検項目や点検日及び点検者を定めることが必要です。
    また、遊具の安全基準や規格などについて熟知し、必要に応じて専門技術者による定期点検を実施します。
    子どもが日常的に利用する散歩経路や公園等についても、異常や危険性がないか、工事箇所や交通量等を含めて点検し記録をつけ、その情報を全職員で共有します。

    ②災害への備えと避難訓練

    火災や地震等の災害発生に備え、避難訓練計画、職員の役割分担の確認、緊急時の対応等について、マニュアルを作成し、その周知を図るとともに、定期的な避難訓練を実施することが求められます。
    避難訓練は、消防署をはじめ、近隣の地域住民、そして家庭との連携の下に行うことが必要です。また、災害時に保育所が地域の避難所となることもあり、地域との連携はたいへん重要です。

    ③事故防止マニュアルの整備と事故予防

    事故防止のために、日常どのような点に留意すべきかについて、事故防止マニュアルを作成し、その周知を図る必要があります。

    1. ○日常的な事故予防:あと一歩で事故になるところだったという、ヒヤリ・ハッとした出来事(インシデント)を記録し分析して、事故予防対策に活用することが望まれます。
    2. ○子どもの発達との関係:事故は、乳幼児の発達の特性と密接な関わりを持って発生することが多く、保育士等は、子どもの発達特性と事故との関わりを理解することが望まれます。
    3. ○保育の体制:子どもの動静については、常に全員の子どもを把握するようにします。観察の空白時間が生じないよう職員間の連携を密にする必要があります。午睡を含めて、子どもの安全の観察に当たっては、一人一人を確実に観察することが大切です。
    4. ○事故が生じた場合:必要に応じて迅速に応急処置、救急蘇生を行うとともに、緊急度に応じて救急車の手配、保護者及び嘱託医への連絡等を行わなければなりません。
    5. ○保護者への説明:緊急時には早急にまた簡潔に要点を伝え、事故原因等については、改めて具体的に説明することが必要です。
    ④危機管理

    不審者の侵入や火災、地震、重大事故や食中毒の発生等、子どもに大きな影響を及ぼす恐れのある事態に至った際の危機管理についても、日常的に検討しておく必要があります。保育所内で緊急事態が発生した際には、子どもの安全に留意し適切に対処します。
    緊急事態発生後の精神保健への配慮:緊急事態の際には、保育士等は子どもたちが不安にならないよう冷静に振る舞うことが大切です。また、保護者に対しても冷静に対応することを忘れてはなりません。
    子どもたちが緊急事態を目前に体験した場合は、強い恐怖感、不安感を抱き、情緒的に不安定になることが見られます(心的外傷後ストレス障害:PTSD)。必要に応じて、小児精神科医や臨床心理士等による援助を受けて、子どもと家族への精神保健面への配慮をします。

    3.食育の推進

    保育所における食育は、健康な生活の基本としての「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培うことを目標として、次の事項に留意して実施しなければならない。
    子どもが豊かな人間性を育み、生きる力を身に付けていくために、また、子どもの健康支援のために「食」はたいへん重要です。乳幼児期における望ましい食習慣の定着及び食を通じた人間性の形成・家族関係づくりによる心身の健全育成を図るため、保育所では食に関する取組を積極的に進めていくことが求められています。
    「食育基本法」(平成17年法律第63号)を踏まえ、「保育所における食育に関する指針」(平成16年3月29日雇児発第03290015号)を参考に、保育の内容の一環として食育を位置付けます。そして、施設長の責任のもと、保育士、調理員、栄養士、看護師などの全職員が協力し、各保育所の創意工夫のもとに食育を推進していくことが求められます。
    また、子どもの保護者についても、食への理解が深まり、食事をつくること、子どもと一緒に食べることに喜びが持てるよう、調理室などの環境を活用し、食生活に関する相談・助言や体験の機会をつくることが望まれます。

    (1)食育の基本
    (1)子どもが生活と遊びの中で、意欲を持って食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、食事を楽しみ合う子どもに成長していくことを期待するものであること。
    ①食育の目標

    保育所における食育は「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培うために、毎日の生活と遊びの中で、自らの意欲を持って食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、大人や仲間などの人々と楽しみ合う子どもに成長していくことを期待するものです。食育の実施に当たっては、家庭や地域社会と連携を図り、それぞれの職員の専門性を生かしながら、共に進めることが求められます。

    ②食育の内容

    「保育所における食育に関する指針」が示す食育の5項目を参考に、保育の内容に食育の視点を盛り込むよう努めることが必要です。食に関する体験がこれらの項目の間で相互に関連を持ちながら総合的に展開することができるように援助します。
    食育に関連する事項は、第3章(保育の内容)及び第4章(保育の計画及び評価)に深く関わります。特に、保育の養護的側面(生命の保持・情緒の安定)と教育的側面(健康・人間関係・環境・言葉・表現)の内容に、食育の視点が盛り込まれています。これらの内容を踏まえ、各保育所で計画的に食育に取り組むことが必要です。

    コラム:◎「食育の5項目」

    「保育所における食育に関する指針」では食と子どもの発達の観点から食育の5項目を以下のように設けています。

    1. 1)「食と健康」:健康な心と体を育て、自らが健康で安全な生活をつくり出す力を養う
    2. 2)「食と人間関係」:食を通じて、他の人々と親しみ支え合うために、自立心を育て、人と関わる力を養う
    3. 3)「食と文化」:食を通じて、人々が築き、継承してきた様々な文化を理解し、つくり出す力を養う
    4. 4)「いのちの育ちと食」:食を通じて、自らも含めたすべてのいのちを大切にする力を養う
    5. 5)「料理と食」:食を通じて、素材に目を向け、素材にかかわり、素材を調理することに関心を持つ力を養う
    (2)食育の計画
    (2)乳幼児期にふさわしい食生活が展開され、適切な援助が行われるよう、食事の提供を含む食育の計画を作成し、保育の計画に位置付けるとともに、その評価及び改善に努めること。
    ①計画の作成と評価

    「食育の計画」の作成に当たっては、平成19年11月に取りまとめられた「保育所における食育の計画づくりガイド」を参考に、次の点に留意し、子どもが主体的に食育の取組に参画できるよう計画していきます。

    1. ○保育所における全体的な計画である「保育課程」と具体的な計画として作成される「指導計画」の中に位置付ける。
    2. ○保育所での食事の提供は食育の一部であることから、食事の提供を含む食育の計画とする。
    3. ○作成に当たっては柔軟で発展的なものとなるように留意し、各年齢を通して一貫性のあるものにする。
    4. ○食育の計画を踏まえて実践が適切に進められているかどうかを把握し、その経過や結果を記録し、実践を評価することを通して、次の実践に向けて改善するように努める。
    5. ○食事内容を含めて食育の取組を保護者や地域に向けて発信し、食育の計画・実施を評価し、次の計画へとつなげる。
    ②食事の提供の留意点

    日々の食事提供に当たっては、子どもの状態に応じて摂取法や摂取量などを考慮します。特に次の点に留意し、子どもが食べることを楽しむことができるよう計画することが望まれます。

    1. ○入所前の生育歴や入所後の記録などから、子どもの発育・発達状態・健康状態・栄養状態・生活状況などを把握し、それぞれに応じた必要な栄養量が確保できるよう留意する。また、子どもの咀嚼や嚥下機能等の発達に応じて食品の種類、量、大きさ、固さ、食具等を配慮し、食に関わる体験が広がるよう工夫する。
    2. ○授乳・離乳期においては、食べる意欲の基礎をつくることができるよう家庭での生活を考慮し、一人一人の子どもの状況に応じて時間、調理方法、量などを決める。母乳育児を希望する保護者のために、衛生面を配慮し、冷凍母乳による栄養法などで対応する。
    3. ○安全で安心できる食事を提供するために、食材料の選定や保管時、調理後の温度管理の徹底など衛生面に配慮する。
    4. ○地域の様々な食文化等に関心を持つことができるよう、食事内容や行事等の内容にも配慮する。
    5. ○子どもの喫食状況の実態などを随時把握し、計画・実践過程を全職員で評価し、給食が子どもにとって美味しく魅力的なものであるよう食事の質の改善に努める。
    (3)食育のための環境
    (3)子どもが自らの感覚や体験を通して、自然の恵みとしての食材や調理する人への感謝の気持ちが育つように、子どもと調理員との関わりや、調理室など食に関わる保育環境に配慮すること。
    保育所では、次の事項に留意して、保育所での人的・物的な環境の計画的な構成が望まれます。
    1. ○自然の恵みとしての食材料や、それを育て、調理し、食事を整えてくれた人への感謝の気持ち、命を大切にする気持ちなどを育むこと。また、子どもの活動のバランスに配慮し、食欲を育むことができるようにするとともに、食と命の関わりなどを実感したり、体験したりできる環境を構成する。
    2. ○情緒の安定のためにもゆとりある食事の時間を確保し、食事する部屋が温かな親しみとくつろぎの場となるように、採光やテーブル・椅子・食器・食具、また、調理室や保育室などの環境に配慮する。
    3. ○子ども同士、保育士や栄養士・調理員など、また、保護者や地域の人々などと一緒に食べたり、食事をつくったりする中でも、子どもの人と関わる力が育まれるように環境を整える。
    (4)特別な配慮を含めた一人一人の子どもへの対応
    (4)体調不良、食物アレルギー、障害のある子どもなど、一人一人の子どもの心身の状態等に応じ、嘱託医、かかりつけ医等の指示や協力の下に適切に対応すること。栄養士が配置されている場合は、専門性を生かした対応を図ること。

    全職員が連携・協力して食育の推進に当たりますが、特に栄養士が配置されている場合には、子どもの健康状態、発育・発達状態、栄養状態、食生活の状況を見ながら、その専門性を生かして、献立の作成、食材料の選定、調理方法、摂取の方法、摂取量の指導に当たることが望まれます。また、必要に応じて療育機関、医療機関等の専門職の指導・指示を受けることが必要です。

    ①体調不良の子どもへの対応

    病気の始まりの状態、さらに病気の回復期等、病気や一人一人の心身の所見に応じた食事の提供は、病気の悪化を防ぐこと、病気の回復を早めること等の目的もあります。必要に応じて嘱託医やかかりつけ医の指導・指示により、食事を提供することが必要です。

    ②食物アレルギーのある子どもへの対応

    食べ物によって種々のアレルギー症状を呈する子どもの食事、特に除去食については、専門医や、かかりつけ医などの指導・指示が必要です。保護者の申し入れが、子どもの健康や発育・発達に支障をもたらすことも考えられます。除去食等が提供される場合には、除去食品の誤食などの事故防止に努め、当該の子どもだけでなく他の子どもや保護者にもその旨を理解してもらうことが必要です。

    ③障害のある子ども

    障害のある子どもに対し、他の子どもと異なる食事を提供する場合があり、食事の摂取に際しても介助の必要な場合があります。療育機関、医療機関等の専門職の指導・指示を受けて、一人一人の子どもの心身の状態、特に、咀嚼や嚥下の摂食機能や手指等の運動機能等の状態に応じた配慮が必要です。また、誤飲をはじめとする事故の防止にも留意しなければなりません。さらに、他の子どもや保護者が、障害のある子どもの食生活について理解できるように配慮します。

    ④食を通した保護者への支援

    家庭と連携・協力して食育を進めていくことが大切です。保育所での子どもの食事の様子や、保育所が食育に関してどのように取り組んでいるのかを伝えることは、家庭での食育の関心を高めていくことにつながります。家庭からの食生活に関する相談に応じたり、助言・支援を行います。
    具体的取組としては、毎日の送迎時での助言、家庭への通信、日々の連絡帳、給食やおやつの場を含めた保育参観や試食会、保護者の参加による調理実践、行事などが考えられます。懇談会などを通して、保護者同士の交流を図ることにより、家庭での食育の実践がより広がることも期待できます。
    地域の子育て家庭において、子どもの食生活に関する悩み等が子育て不安の一因となることもあります。食を通して子どもへの理解を深め、子育ての不安を軽減し、家庭や地域の養育力の向上につなげることができるよう保育所の調理室等を活用し、食生活に関する相談・支援を行うことも大切です。

    4.健康及び安全の実施体制等

    施設長は、入所する子どもの健康及び安全に最終的な責任を有することにかんがみ、この章の1から3までに規定する事項が保育所において適切に実施されるように、次の事項に留意し、保育所における健康及び安全の実施体制等の整備に努めなければならない。

    • (1)全職員が健康及び安全に関する共通理解を深め、適切な分担と協力の下に年間を通じて計画的に取り組むこと。
    • (2)取組の方針や具体的な活動の企画立案及び保育所内外の連絡調整の業務について、専門的職員が担当することが望ましいこと。栄養士及び看護師等が配置されている場合には、その専門性を生かして業務に当たること。
    • (3)保護者と常に密接な連携を図るとともに、保育所全体の方針や取組について、周知するよう努めること。
    • (4)市町村の支援の下に、地域の関係機関等との日常的な連携を図り、必要な協力が得られるよう努めること。
    (1)施設長の責務と組織的な取組

    子どもの健康と安全に関する第一義的責任は施設長にあります。施設長は全職員の連携・協力の下、健康と安全に関する適切な実施体制を確立するように努めなければなりません。そのためには、保育課程に基づいた保健計画・食育計画を策定し、年間を通じて計画的に実践することが求められます。

    (2)職員間の連携の重要性

    「健康及び安全」に関する具体的な実践においては、全職員の連携・協力が不可欠です。また、それぞれの市町村の保健センターや保健所、医療機関、療育機関等との連絡調整や協力体制の確立も欠かせません。この場合、保健医療や栄養・食生活に関する専門的知識が求められることが多く、専門的な技能を有する職員(嘱託医、看護師等、栄養士及び調理員)の役割が重要です。これらの職員が配置されている場合には、職種の専門性を生かして「健康及び安全」に関わる企画立案、連絡調整を行い、保育士等と連携を図っていくことが望まれます。

    コラム:◎保育に関わる専門職

    保育に関わる保育士以外の専門職の役割は以下のとおりです。

    【嘱託医】
    1. ◎保育所の子どもの発育・発達状態の評価,定期及び臨時の健康診断とその結果に関するカンファレンス
    2. ◎子どもの疾病及び傷害と事故の発生時の医学的処置及び医学的指導や指示
    3. ◎感染症発生時における指導指示、学校伝染病発生時の指導指示、出席停止に関する指導
    4. ◎予防接種に関する保護者及び保育士等に対する指導
    5. ◎衛生器材・医薬品に関する指導及びその使用に関する指導 等
    【看護師等】
    1. ◎子どもや職員の健康管理及び保健計画等の策定と保育における保健学的評価
    2. ◎子どもの健康状態の観察の実践及び保護者からの子どもの健康状態に関する情報の処理
    3. ◎子どもの健康状態の評価判定と異常発生時における保健学的・医学的対応及び子どもに対する健康教育
    4. ◎疾病異常・傷害発生時の救急的処置と保育士等に対する指導
    5. ◎子どもの発育・発達状態の把握とその評価及び家庭への連絡
    6. ◎乳児保育の実践と保育士に対する保健学的助言 等
    【栄養士】
    1. ◎食育の計画・実践・評価
    2. ◎授乳、離乳食を含めた食事・間食の提供と栄養管理
    3. ◎子どもの栄養状態、食生活の状況の観察及び保護者からの栄養・食生活に関する相談・助言
    4. ◎地域の子育て家庭からの栄養・食生活に関する相談・助言
    5. ◎病児・病後児保育、障害のある子ども、食物アレルギーの子どもの保育における食事の提供及び食生活に関する指導・相談
    6. ◎食事の提供及び食育の実践における職員への栄養学的助言 等
    【調理員】
    1. ◎食事の調理と提供
    2. ◎食育の実践 等
    (3)家庭との連携

    健康で安全な子どもの生活を確立するためには、保護者や家族の協力は不可欠であり、常に密接な連携を図ることが必要です。

    ①家庭からの情報

    子どもの家庭での生活実態、健康状態、既往症や予防接種歴、過去の傷害を伴う事故等の情報は、入所時だけでなく常に収集することが必要です。
    また、子どものかかりつけ医を確認し、必要に応じてかかりつけ医と連携を図るよう努めなければなりません。

    ②保育所からの情報提供と説明

    子どもの健康と安全、食生活や食育に関する活動については、保育所か
    ら家庭に情報提供することが必要です。特に、季節ごとの疾病・事故に関する情報、季節に応じた食事・献立、感染症の発生状況とその予防対策などについて、家庭に適宜伝えていくことが望まれます。また、保育所の子どもの健康と安全に関する基本的取組方針等については、入所時に説明することが必要です。さらに、保育現場における医療的ケアについては,入所時及び適宜、保護者との間で、嘱託医や地域の医療機関を交えた情報交換を行い、保護者に周知徹底を図ることが必要です。

    (4)専門機関・地域との連携
    ①保健医療における連携

    保健医療に関連する機関としては、保健センター、保健所、病院や診療所等の歯科領域を含む医療機関等があります。これらの機関から、保育現場で必要となる子どもの健康や安全に関する情報や技術の提供を受けることができます。
    また、保育所の嘱託医や歯科医と密接に連携し、保育現場で発生した疾病や傷害の発生時における具体的な対応や助言を得るとともに、日頃から情報交換を行うことが必要です。その際、子どもや家庭の個人的な情報に関しては、守秘義務の徹底が求められます。

    ②母子保健サービスとの連携

    乳幼児健診や訪問事業など、市町村が実施する各種保健サービスによって得られる子どもの健康状態、発育や発達状態に関する情報は、保育現場において有効です。保護者の了解を得て、母子健康手帳等も活用していきます。
    市町村が実施する乳幼児期の健診は、乳児、1歳6か月児及び3歳児を対象として実施されています。その他、各地域によって独自に他の年月齢を対象としていることもあります。また、「生後4か月までの全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)が全国的に実施されています。これらの健診や保健指導と保育所における健康診断を関連させ、子どもの状態をより正確に把握することが求められます。

    ③食育の取り組みにおける連携

    保育所における食育をより豊かに展開するためには、子どもの家庭・地域住民との連携・協力に加えて、地域の保健センター・保健所・医療機関、学校や社会教育機関、地域の商店や食事に関する産業、さらに地域の栄養・食生活に関する人材や職種の連携・協力を得ることも有効です。栄養士が配置されている場合には、その専門性を十分に発揮し、これらとの連絡調整の業務を積極的に行うことが期待されます。

    ④障害等のある子どもに関する連携

    医療機関や療育機関との連携が望まれます。療育に携わる専門職による専門的な対応や知識・技術を学ぶとともに、保育所での日々の子どもの様子を伝えるなど、情報交換を通じ、子ども理解を深めていきます。

    ⑤虐待防止等に関する連携

    保育現場において、不適切な養育や虐待等の疑いのある子どもや気になる子どもを発見した時は、速やかに市町村の関係部門(保健センター・児童福祉部門)へ連絡し、さらに必要に応じて児童相談所に連絡し、早期に子どもの保護や保護者への対応に当たることが必要です。また、地方自治体が設置する要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)に保育所が積極的に参画し、協力することが求められています。

    ⑥災害等の発生時における連携

    保育所内外の事故発生、災害発生やその災害訓練時及び不審者の侵入等の事態に備え、日頃から保護者、近隣の住民、地域の医療機関・保健センターや保健所・警察・消防等との密接な協力や支援に関わる連携体制を整備することが必要です。

    ⑦小学校との連携

    入所中の健康状態、発育・発達状態、既往症や事故の状態等は、子どもの卒所後の保健活動等に役立つこともあるので、保護者の了解の下に、第4章に定める方向にしたがって対応できるようにしましょう。また、小学校で発生している感染症などについても情報提供してもらい、保育現場での蔓延を予防することも必要です。

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    第6章 保護者に対する支援
    保育所における保護者への支援は、保育士等の業務であり、その専門性を生かした子育て支援の役割は、特に重要なものである。保育所は、第1章(総則)に示されているように、その特性を生かし、保育所に入所する子どもの保護者に対する支援及び地域の子育て家庭への支援について、職員間の連携を図りながら、次の事項に留意して、積極的に取り組むことが求められる。
    【保護者支援の原則】
    児童福祉法第18条の4は、「この法律で、保育士とは、第18条の18第1項の登録を受け、保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術を持って、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者をいう。」と定めています。
    保育士の重要な専門性の一つは保育であり、二つは児童の保護者に対する保育に関する指導(以下「保育指導」という。)です。以下に度々触れるように、保育士等の保護者に対する支援は、何よりもこの保育という業務と一体的に深く関連していることを常に考慮しておく必要があります。
    コラム:◎「保育指導」の意味
    子どもの保育の専門性を有する保育士が、保育に関する専門的知識・技術を背景としながら、保護者が支援を求めている子育ての問題や課題に対して、保護者の気持ちを受け止めつつ、安定した親子関係や養育力の向上をめざして行う子どもの養育(保育)に関する相談、助言、行動見本の提示その他の援助業務の総体をいいます。

    【地域子育て支援の原則】
    児童福祉法第48条の3は、「保育所は、当該保育所が主として利用される地域の住民に対してその行う保育に関して情報の提供を行い、並びにその行う保育に支障がない限りにおいて、乳児、幼児等の保育に関する相談に応じ、及び助言を行うよう努めなければならない。」と定めています。
    相談・助言は、保護者支援に欠かせない専門的機能です。法律において、保育所における通常業務である保育に支障をきたさない範囲でこれを行うことを明記しています。すべての保育所がその限界を超えて支援を行う必要はありません。
    しかし、近年一層地域子育て支援の役割が重視されてきている状況を踏まえ、地域子育て支援の意義を認識し、積極的に取り組むことが必要とされます。特に児童福祉法第21条の9で定められている子育て支援事業のうち、第1項第2号の「保育所その他の施設において保護者の児童の養育を支援する事業」のように、保育所の特性を生かした取組が求められています。
    地域における様々な子育て支援活動と連携し、それぞれの地域の特徴、保育所の特性を踏まえ、それを生かして進めることが大切です。
    またこの条文では、保育所の地域に対する情報提供の努力義務が明記されていますが、この業務も地域における子育て支援と深く関係しています。
    【入所児童の保護者との連携の原則】
    児童福祉施設最低基準第36条は、「保育所の長は、常に入所している乳児又は幼児の保護者と密接な連絡をとり、保育の内容等につき、その保護者の理解及び協力を得るよう努めなければならない。」と定めています。保育所における保育が、保護者との密接な連携のもとで行われることは、子どもの最善の利益を考慮し、子どもの福祉を重視した保護者支援を進める上で不可欠なものです。
    【特別の支援を必要とする家庭及び児童の優先入所の原則】
    保育所は、市町村が「保育に欠ける」と判断し、入所を受託した乳幼児の保育を行うことを目的としています。これに関連し、児童虐待の防止等に関する法律第13条の2は、市町村が保育所に入所する児童を選考する場合には、「児童虐待の防止に寄与するため、特別の支援を要する家庭の福祉に配慮しなければならない。」と定めています。また母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)第28条は、市町村が保育所に入所する児童を選考する場合には、「母子家庭等の福祉が増進されるように特別の配慮をしなければならない。」と定めています。さらに、発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第7条は、市町村は保育の実施に当たって、「発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通して図られるよう適切な配慮をするものとする。」と明記しています。
    これらの法の趣旨を踏まえ、特別の支援を必要とする家庭や保護者の保育や子育て支援に留意することが重要です。
    【保育所における二つの保護者支援】
    保育所における保護者に対する支援には、大きく次の二つがあります。その一つは、入所している子どもの保護者に対する支援です。もう一つは、保育所を利用していない子育て家庭も含めた地域における子育て支援です。前者に関しては、保育所は本来業務としてその中心的な機能を果たします。また、後者に関しては本来業務に支障のない範囲において、その社会的役割を十分自覚し、他の関係機関、サービスと連携しながら、保育所の機能や特性を生かした支援を行います。
    地域子育て支援活動は、現在、様々な専門職、ボランティア、当事者などが担っています。その中でも、日々子どもを保育し、子どもや保育に関する知識、技術、経験を豊かに持っている保育所が、保護者や子どもとの交流、保護者同士の交流、地域の様々な人々との交流を通じて、その特性を生かした活動や事業を進めています。
    【子育て支援の機能と特性】
    保育所は、以下のような子育て支援の機能、特性を持っています。つまり、①日々、子どもが通い、継続的に子どもの発達援助を行うことができること、②送迎時を中心として、日々保護者と接触があること、③保育所保育の専門職である保育士をはじめとして各種専門職が配置されていること、④災害時なども含め、子どもの生命・生活を守り、保護者の就労と自己実現を支える社会的使命を有していること、⑤公的施設として、様々な社会資源との連携や協力が可能であること、の5点です。保育所の子育て支援は、男女共同参画社会の進展や家庭の養育力の低下などの今日的状況を踏まえ、こうした保育所の特性や保育環境を生かして進めていくことが必要とされています。
    1.保育所における保護者に対する支援の基本
    (1)子どもの最善の利益を考慮し、子どもの福祉を重視すること。
    (2)保護者とともに、子どもの成長の喜びを共有すること。
    (3)保育に関する知識や技術などの保育士の専門性や、子どもの集団が常に存在する環境など、保育所の特性を生かすこと。
    (4)一人一人の保護者の状況を踏まえ、子どもと保護者の安定した関係に配慮して、保護者の養育力の向上に資するよう、適切に支援すること。
    (5)子育て等に関する相談や助言に当たっては、保護者の気持ちを受け止め、相互の信頼関係を基本に、保護者一人一人の自己決定を尊重するこ
    と。
    (6)子どもの利益に反しない限りにおいて、保護者や子どものプライバシーの保護、知り得た事柄の秘密保持に留意すること。
    (7)地域の子育て支援に関する資源を積極的に活用するとともに、子育て支援に関する地域の関係機関、団体等との連携及び協力を図ること。
    (1)子どもの最善の利益
    保育所における保護者に対する支援の基本の第1番目にあげられている「子どもの最善の利益」については、第1章(総則)に記されているように、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)に明記されています。
    保護者に対する支援に当たっては、イギリスの児童法(1989年)第1条第3項の「子の福祉」の判断基準を参考にすることができるでしょう。
    ◎コラム:子どもの最善の利益を考慮する基準例
    イギリスの児童法(1989年)第1条第3項の「子の福祉」の判断基準を参考にして考慮すべき内容を例にあげると、以下の通りです。
    「子どもの年齢、性別、背景その他の特徴」、「子どもの確かめ得る意見と感情」、「子どもの身体的、心理的、教育的及び社会的ニーズ」、「保護者支援のために子どもに対してとられた決定の結果、子どもを支援することとなる者(保護者や保育士等の専門職など)が、子どものニーズを満たすことのできる可能性」「保護者に対してとられた支援の結果、子どもの状況の変化が子どもに及ぼす影響」
    (2)保護者との共感
    保育士等が保護者と交流し、子どもへの愛情や成長を喜ぶ気持ちを共感し合うことによって、保護者は子育てへの意欲や自信をふくらませることができます。保育所に入所している子どもの保護者とのコミュニケーションにおいても、地域の子育て家庭への支援の場においても、保護者自身が子育てに自信を持ち、子育てを楽しいと感じることができるような保育所や保育士の働きかけ、環境づくりが望まれます。

    (3)保育所の特性を生かした支援
    保育所の施設・設備は、子育て支援活動にふさわしい条件を多く備えており、保護者への支援を効果的に進めることができます。専門性を有する職員が配置されているという保育所の特性を生かし、保育士が行う保育指導、看護師や保健師が行う保健指導、栄養士が行う栄養指導といった支援が一体となって行われることが望まれます。
    また、保育所は、地域において最も身近な児童福祉施設であり、乳児から就学前までの様々な育ちを理解し支える保育を実践している場でもあります。子どもを深く理解する視点を伝えられたり、その実践を見たりすることも、保護者にとっては大きな支援になります。
    入所児の家庭へは保護者懇談会や保育参加など、地域の子育て家庭へは行事への親子参加や保育体験などの機会を活用するとともに、これらの機会に父親の参加を促すことも重要です。さらに、これらの支援が保護者同士の交流や相互支援あるいは保護者の自主的活動を促すことにも配慮する必要があります。
    (4)保護者の養育力向上への寄与
    これらの支援は、それぞれの保護者や子どもの状況を踏まえて、保護者と子どもとの安定した関係や保護者の養育力の向上に寄与するために行われるものであることを常に留意する必要があります。そのためには、子どもと保護者との関係、保護者同士の関係、地域と子どもや保護者との関係を把握し、それらの関係性を高めることが、保護者の子育てや子どもの成長を支える大きな力になることを念頭に置いて働きかけることが大切です。
    (5)相談・助言におけるソーシャルワークの機能
    保育所においては、子育て等に関する相談や助言など、子育て支援のため、保育士や他の専門性を有する職員が相応にソーシャルワーク機能を果たすことも必要となります。その機能は、現状では主として保育士が担うこととなります。ただし、保育所や保育士はソーシャルワークを中心的に担う専門機関や専門職ではないことに留意し、ソーシャルワークの原理(態度)、知識、技術等への理解を深めた上で、援助を展開することが必要です。
    ①対人援助職としての基本
    ソーシャルワークの原理(態度)には、保護者の受容、自己決定の尊重、個人情報の取扱いがあります。保育所におけるソーシャルワークでは、一人一人の保護者を尊重しつつ、ありのままを理解し受け止める「受容」が基本的姿勢として求められます。受容とは、不適切と思われる行動等を無条件に肯定することではなく、そのような行動も保護者を理解する手がかりとする姿勢を保つことです。
    援助の過程においては、保育士等は保護者自らが選択、決定していくことを支援していくことが大切です。このような援助関係は、安心して話をできる状態が保証されていること、つまり個人の情報が守られていることによって成り立ちます。ただし、後述するように、虐待の通告や要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)との連携や協力に関わる活動においては、秘密保持義務を超えて情報の提供や交換がなされなければならないことにも、留意する必要があります。

    ②相談・助言の実際
    保育所における相談・助言は、臨床相談機関・施設や行政機関のそれとは異なり、日常保育の様々な機会をとらえて行われます。育児講座や子育てサークルなどの活動を通じて実施されることも多くなっています。相談の形態も、日常場面における相談、電話による相談、面接による相談など様々です。
    相談の基本原理を踏まえ、関係機関や専門職との連携を密にし、その専門性の範囲と限界を熟知した対応を心がけることが必要です。
    ◎コラム:ソーシャルワークとは
    生活課題を抱える対象者と、対象者が必要とする社会資源との関係を調整しながら、対象者の課題解決や自立的な生活、自己実現、よりよく生きることの達成を支える一連の活動をいいます。対象者が必要とする社会資源がない場合は、必要な資源の開発や対象者のニーズを行政や他の専門機関に伝えるなどの活動も行います。さらに、同じような問題が起きないように、対象者が他の人々と共に主体的に活動することを側面的に支援することもあります。
    保育所においては、保育士等がこれらの活動をすべて行うことは難しいといえますが、これらのソーシャルワークの知識や技術を一部活用することが大切です。

    (6)プライバシーの保護及び秘密保持
    保護者や子どものプライバシーの保護、知り得た事柄の秘密保持は、相談・助言において欠かすことのできない専門的原則であり、倫理です。児童福祉法第18条の22は、「保育士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保育士でなくなった後においても、同様とする。」と厳しく定め、第61条の2で、違反した場合の罰則も定めています。
    保育士に限らず、これらの業務に関わるすべての人々が深くこの原則や倫理を遵守することが求められます。
    ただし、子どもが虐待を受けている状況など、秘密を保持することが子どもの福祉を侵害し、子どもの最善の利益を図ることができないような場合は、正当な理由に該当しますので、しかるべき対応を図るために、関係機関等に通知し、協議することが認められます。
    (7)地域の関係機関等との連携・協力
    保護者の支援を適切に行うためには、保育所の役割や専門性を十分に生かすとともに、その役割や専門性の範囲を熟知していることが求められます。このため、関係機関の役割や機能をよく理解し、それらとの連携や協力を常に考慮して支援を行う必要があります。特に、児童相談所、福祉事務所、市町村相談窓口、市町村保育担当部局、市町村保健センター、児童委員・主任児童委員、療育センター、教育委員会等との連携を欠かすことができません。
    保育所のみで保護者支援の役割を抱え込むことなく、あるいは保護者の意向に消極的態度を示すことなく、様々な保育や子育て支援の役割・機能を持っている社会資源や関係者と連携してそれらを活用することが必要です。そして、地域における保育に関する情報を常に把握し、必要な情報を保護者に適切に提供することが大切です。

    2.保育所に入所している子どもの保護者に対する支援
    (1)保育所に入所している子どもの保護者に対する支援は、子どもの保育との密接な関連の中で、子どもの送迎時の対応、相談や助言、連絡や通信、会合や行事など様々な機会を活用して行うこと。
    (2)保護者に対し、保育所における子どもの様子や日々の保育の意図などを説明し、保護者との相互理解を図るよう努めること。
    (3)保育所において、保護者の仕事と子育ての両立等を支援するため、通常の保育に加えて、保育時間の延長、休日、夜間の保育、病児・病後児に対する保育など多様な保育を実施する場合には、保護者の状況に配慮するとともに、子どもの福祉が尊重されるよう努めること。
    (4)子どもに障害や発達上の課題が見られる場合には、市町村や関係機関と連携及び協力を図りつつ、保護者に対する個別の支援を行うよう努め
    ること。
    (5)保護者に育児不安等が見られる場合には、保護者の希望に応じて、個別の支援を行うよう努めること。
    (6)保護者に不適切な養育等が疑われる場合には、市町村や関係機関と連携し、要保護児童対策地域協議会で検討するなど適切な対応を図ること。
    また、虐待が疑われる場合には、速やかに市町村又は児童相談所に通告
    し、適切な対応を図ること。
    (1)子どもの保育と密接に関連した保護者支援
    保育所に入所している子どもの保護者に対する支援は、日常の保育と一体に行われるところに特徴があります。保護者に対する支援の内容、方法の例を示すと、以下の通りです。
    ①日々のコミュニケーション
    連絡ノート、送迎時の対話、園内の掲示などで、保育の内容や子どもの様子などを知らせることは、保護者への支援と深くつながっています。日々の活動や子どもの言動に関する小さな報告をする場合であっても、保護者の子育ての自信や意欲を高めることにつながる伝え方を工夫することが望まれます。特に、一人一人の子どもの発達を見守る専門職の視点から、子どもの気持ちや行動の理解の仕方、心身の成長の姿などを知らせることは、保護者を励まし子どもへの理解を助けるという意味で、重要な支援と考えられます。

    ②保護者が参加する行事
    保護者懇談会、個人面談、家庭訪問、保育参観、保育参加(体験)、その他の特別な活動や行事(親子遠足、運動会など)などにおいても、保育の意図、日常の保育や子どもの様子、課題などを保護者に伝えるとともに、保護者の気持ちや悩みを直接聴き取る機会としたり、保護者同士の交流の場となるように配慮したりするなど、保護者支援の視点からの内容や実施方法の工夫が求められます。
    様々な行事は、保育所の保育の方針や保護者の状況に応じて、保護者の希望を取り入れたりすることも望まれますが、保育の一環として、子ども自身の満足感や主体性が尊重されるようにします。
    ③保護者の自主的活動の支援
    保護者会、その他の保護者の自主的活動についても、保護者同士の交流を促し、子育てを支え合う視点からの支援が行われることが望まれます。
    ④相談・助言
    保護者から明確に相談・助言を求められた時に限らず、送迎時の対話、連絡ノート、意見や要望、苦情の内容などから、必要があると判断される場合は、相談・助言のための面談の機会を積極的に設けることが望まれます。担任の保育士がすべて対応するのではなく、内容によっては、主任・施設長などが対応する必要があります。保護者の様々な疑問、気がかりなどに対して、相談を受ける保育士・施設長は、まず傾聴することを基本とし、保護者の心情をとらえながら、理解、共感に基づき説明、助言などを行い、その中で保護者自身が納得や解決に至ることができるように援助することが大切です。
    また、他の専門機関との連携を密にし、必要に応じて紹介・情報提供などを行います。
    (2)保護者との相互理解
    ①伝達と説明
    家庭との適切な連携を図り、保育を行っていくためには、日々の保育の意図を保護者に説明する努力が必要であり、保護者が保育の方針や意図について理解していることが望まれます。そのためには、保育方針や保育課程の内容、どのような意図で日々の保育や環境づくりが行われているかなどについて、入所前の見学時、入所時、日々の対話や連絡、行事などの機会をとらえ保護者が理解しやすい情報や形で伝えていくことが必要です。
    養護と教育が一体となった保育を行っているという保育所の全体像につ
    いて保護者に知らせることは、保護者が子育ての参考にし、また就学までの子どもの発達の見通しを持つためにも、有効なことです。保育指針の内容を紹介したり、その内容を活用した情報提供や助言を行うなどの工夫も望まれます。
    子どもの生活は、家庭から保育所へ、保育所から家庭へと連続しており、家庭と保育所との相互理解は、子どもの安定的な保育に欠かせないものであるといえます。保育所は、家庭との連携を基本としていることを常に明瞭にし、入所時にもそのことを保護者に伝えておく必要があります。

    ②信頼関係の構築
    保育所と保護者との信頼関係は、相互の意思疎通の積み重ねによって成り立っていきます。具体的には、子どもに関する情報の交換を細やかに行うこと、保育士と保護者の間で子どもへの愛情や成長を喜ぶ気持ちを伝え合うこと、保護者のおかれている状況やその思いを受け止め理解を示すこと、保護者が保育の意図を理解できるように説明する機会を提供すること、保護者に疑問や要望がある場合は、対話を通して誠実に対応することなどが必要です。
    (3)保護者の仕事と子育ての両立等への支援
    保護者の就労等のニーズに応じた多様な保育サービスも、保育所の重要な役割です。保護者の仕事と子育ての両立等を支援するために、保護者の状況を配慮して行うとともに、常に子どもの福祉の尊重を念頭におき、子どもの生活への配慮がなされるよう、家庭と連携・協力していく必要があります。その主な内容、方法を述べると、以下のとおりです。
    ①延長保育・夜間保育
    子どもの発達の状況、健康状態、生活習慣、生活リズム及び情緒の安定を配慮して保育を行うよう留意する必要があります。夕方の食事あるいは補食についても、子どもの状況・家庭の生活時間によって適切な提供方法を配慮し、保育士間の様々な必要事項の申し送りや保護者への連絡事項についても、適切に意思疎通が図られるよう配慮することが必要です。

    ②休日保育
    子どもにとって通常保育とは異なる環境や集団構成になることにも配慮して、子どもが安定して豊かな時間を過ごせるように工夫することが必要です。
    ③病児・病後児保育
    保育中に体調不良が発生した場合の必要な体制・環境については、第5章で示されている内容に基づいて適切に対応します。また、病児・病後児保育を行う場合は、特に受け入れ体制やルールについて、保護者に十分に説明し、子どもの負担が少なく、リスクが生じないように配慮し、保護者と連携して進めることが大切です。
    (4)障害や発達上の課題が見られる子どもとその保護者に対する支援
    障害や発達上の課題が見られる子どもとその保護者に対しては、更に十分な配慮のもとに保育並びに支援を行うことが必要です。これらの子どもの保育に当たっては、第4章-1-(3)-「ウ障害のある子どもの保育」に記されている事項を十分に配慮し、保護者、主治医や関係機関との連携を密にするとともに、必要に応じて療育機関等の専門機関からの助言を受けるなど、適切な対応を図る必要があります。また、保護者に対しては必要に応じて保育指導を行うとともに、他の子どもや保護者に対して、障害に対する正しい知識や認識ができるように支援する必要があります。
    なお、発達障害者支援法に基づき、市町村が保育の実施に当たって発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通して図られるよう配慮して入所を決定した場合には、特に上述の事項を踏まえて支援を行うことが求められます。また、幼稚園、小学校との連携に当たっては、学校教育における個別支援計画の策定とも関連することに留意することが必要です。

    (5)保護者に対する個別支援
    育児不安等が見られる保護者に対して支援を行うためには、相談・助言等の専門性が不可欠となりますが、さらに保育指導、中でも個別支援の知識、技術等が求められます。特に以下の点が重要です。
    ①保育指導について
    保護者への支援の基本となる保育士の専門的業務が、保育指導です。これは、児童福祉法に定められた保育士の重要な業務です。
    保育指導業務はこれまでも保育所において実施されてきましたが、保育士の業務として法定化されたことにより、その知識・技術やそれを提供するための倫理的事項について、今後、より明確化、体系化することが必要と考えられます。

    ②個別支援の知識・技術
    保育所における個別的な支援は、個々の保護者の思いや意向、要望、悩みや不安などに対して、保育士が培ってきた知識や技術、保育所保育の専門性を中心としながら行う援助活動です。ただし、その内容によっては、保育の知識や技術に加えて、ソーシャルワークやカウンセリング等の知識や技術を援用する必要があります。
    さらに子どもの健全育成の観点から、多胎児や低体重出生児、外国籍の子ども、慢性疾患のある子どもの保護者への支援が求められます。また、精神疾患等を抱える保護者、育児不安を持つ保護者等への個別的な対応も必要に応じて行います。
    ③保育所における個別支援
    保育所における個別的な援助に当たっては、保育の専門性という視点から情報収集と分析、援助方法や手段の選択等を行います。収集する情報の例としては、保護者の意向や思い、家族の状況、関わりのある社会資源等に加えて、子どもの発達や行動の特徴、生活リズムや生活習慣、そして保育所における子どもの行動特徴、送迎時や連絡帳の記述等に見られる親子関係等を挙げることができます。保護者への支援業務に責任を持って適切に対応するためには、必要に応じて子どもと保護者を含む援助計画や記録を作成し、援助に生かすことが求められます。
    ④個別支援の実際
    保育所において個別的な支援を行う場合は、必要に応じて他の機関と連携するとともに、作成された援助計画や記録を活用するなど、組織として子どもや家族を援助する体制づくりが重要となります。また、主たる援助者となる保育士を、施設長、主任、他の保育士等が役割分担を行いながら支えます。
    (6)保護者に不適切な養育等が疑われる場合の支援
    保護者に不適切な養育等や虐待が疑われる場合の保護者支援には、時に保育所と保護者との間で意向や気持ちにずれが生じたり、対立が生じかねないことがあります。何よりも重要なことは、常日頃、保護者との接触を十分に行い、保護者と子どもとの関係に心を配り、ソーシャルワークの機能を念頭に置いて、関係機関との連携のもとに、子どもの最善の利益を重視して支援を行うことです。そのことが保護者の養育に変化をもたらし、あるいは虐待の予防や養育の改善に寄与する可能性を広げます。
    しかし、保育所や保育士等による対応では不十分であったり、限界があると判断される場合には、関係機関との連携がより強く求められます。特に児童虐待の防止等に関する法律が規定する虐待に関する通告義務は、保育所や保育士等にも課せられています。このような場合は、特に児童相談所等の関係機関との連携、協力が求められます。これらに関する対応については、第5章の1「子どもの健康支援」の内容を踏まえ、必要なマニュアルなどを作成し活用するとともに、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)との関係を深め、参画することが求められます。

    3.地域における子育て支援

    (1)保育所は、児童福祉法第48条の3の規定に基づき、その行う保育に支障がない限りにおいて、地域の実情や当該保育所の体制等を踏まえ、次に掲げるような地域の保護者等に対する子育て支援を積極的に行うよう努めること。
    ア地域の子育ての拠点としての機能
    (ア)子育て家庭への保育所機能の開放(施設及び設備の開放、体験保育等)
    (イ)子育て等に関する相談や援助の実施
    (ウ)子育て家庭の交流の場の提供及び交流の促進
    (エ)地域の子育て支援に関する情報の提供
    イ一時保育
    (2)市町村の支援を得て、地域の関係機関、団体等との積極的な連携及び協力を図るとともに、子育て支援に関わる地域の人材の積極的な活用を図るよう努めること。
    (3)地域の要保護児童への対応など、地域の子どもをめぐる諸課題に対し、要保護児童対策地域協議会など関係機関等と連携、協力して取り組むよう努めること。
    (1)地域における子育て支援の内容
    ①地域における子育て支援の役割
    保育所には、保育の専門的機能を地域の子育て支援において積極的に展開することが求められています。保育所の地域子育て支援は、児童福祉法第48条の3に基づき、保育所が所在する地域の特徴や、保育所自体の特徴を踏まえて支援を行うことが重要です。
    地域子育て支援においても、ソーシャルワークの原理を踏まえることは非常に大切です。保護者の受容、自己決定の尊重、個人情報の保護等については、本章の「1.保育所における保護者支援の基本」の内容が参考となります。

    ②地域子育て支援の二つの機能
    地域における子育て支援には、大きく二つの機能があると考えられます。
    その第一は、地域の子育ての拠点としての機能であり、これには、①子育て家庭への保育所機能の開放(施設及び設備の開放、体験保育等)、②子育て等に関する相談や援助の実施、③子育て家庭の交流の場の提供及び交流の促進、④地域の子育て支援に関する情報の提供があります。いろいろな行事を通じた各種の地域活動もこれに入ります。第二には、一時保育があります。
    保育所がどのようにそれらの機能を果たしていくのかは、地域の実情や保育所の体制によって異なります。地域に住む子どもと保護者の状態、地域の関係機関、専門機関の状況などを把握し、地域の状況に応じた子育て支援機能を発揮することが保育所には、求められています。
    ③子育て支援の活動場面
    子育て支援は、様々な場面を捉えて行われます。食事や排泄などの基本的生活習慣の自立に関することや、遊びや玩具、遊具の使い方、子どもとの適切な関わり方などについて、一人一人の子どもや保護者の状況に応じて、具体的に助言したり行動見本を提示することも有効です。
    また、具体的なプログラムとしては、親子遊び、離乳食づくりや食育に関する様々な育児講座や体験活動、給食の試食会等があります。特に食育に関わる支援活動は、第5章3「食育の推進」に示されている趣旨と関連させて行うことにより、地域子育て支援にも役立つことが期待されます。
    地域における子育て支援においても、保育士、栄養士、調理員、看護師などの職員が配置されているという保育所の特性を生かして、これらの専門職員がその専門性を基盤として子育て支援に関わることが重要です。
    ④安心して利用できる環境づくり
    地域子育て支援を有効に進める上で欠かせないことは、保育所が地域の子育て家庭にとって安心して利用できる環境が整っていることです。
    まず何よりも職員が子育て支援の役割の重要性を認識し、保護者が安心して気持ちよく利用できるような雰囲気づくりを心がけます。保護者の様々な思いに対応できるように親しみを持って応じる雰囲気など、保護者に対して細やかな心配りをすることが求められます。子どもが喜ぶ遊びや遊具を提供したり、子どもにも優しく声をかけたり遊びに導いたりすることも大切です。
    地域に開かれた保育所は、子育て家庭にとって心強い存在となるでしょう。気軽に訪れ、相談したりすることができる保育所が身近にあることは、子育てする上での安心感につながります。育児不安を和らげ、虐待を防止する役割が保育所にあることを自覚して、地域の子育て家庭を受け入れていくことが必要です。
    ⑤一時保育
    一時保育の実施に当たっては、地域の一時保育のニーズを把握し、市町村と緊密な連携を取りつつ行うことが求められます。
    一時保育における子どもの集団構成は、通常保育の集団構成と異ることに配慮して、一人一人の子どもの心身の状態などを考慮して保育するとともに、必要に応じて通常保育とも関連させるなどして、柔軟な保育を行うことが求められます。
    また、保育中のけがや事故に十分配慮するとともに、事故責任への対応を明確にしておくことが必要です。
    (2)地域子育て支援における地域との連携
    ①地域関係機関等との連携及び人材等の積極的活用
    地域子育て支援は、保育所単独で行うもののほか、市町村、保育や子育て支援に関わる関係機関や関係者と連携して行うもの、それらの関係機関等が単独で実施するものもあります。
    「生後4か月までの全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)など、母子保健における妊産婦への支援は乳児保育との関連も深く、こうした地域全体の子育て支援の状況を視野に入れ、連携を図ることも大切です。
    児童福祉法第21条の9で定められている市町村が行う子育て支援事業(①居宅において保護者の養育を支援する事業②保育所その他の施設において保護者の児童の養育を支援する事業③養育に関する問題について保護者からの相談に応じ、情報の提供や助言を行う事業)の実施状況や実施計画を把握し、保育所が中心となって取り組むことが適当である事業や活動と、他の組織で取り組むことが適当である事業や活動について整理した上で実施することが大切です。
    市町村の他、特に連携や協力を必要とする地域の関係機関や関係者としては、児童相談所、福祉事務所、保健センター、療育センター、小学校、中学校、高等学校、児童委員、つどいの広場、児童館、家庭的保育(保育ママ)、ベビーシッター事業、ファミリーサポートセンター事業、関連NPO法人などを挙げることができます。地域の実情を踏まえて、また関係機関、専門機関、関係者の状況などを把握して、地域性に応じた子育て支援を果たすことが望まれます。

    ②地域の子育て力向上への寄与
    子育て支援は、地域の子どもの健全育成のためにも有効です。中学・高校生を対象とした「児童ふれあい交流事業」や保育体験など、次世代育成支援の観点から、将来に向けて地域の子育て力の向上につながるような支援を展開していくことが求められています。
    保育所においても、乳幼児、小学生・中学生、高校生、青年、そして高齢者を含む多様な年齢層を視野に入れ、世代間の交流を図りながら、子育ての知識、技術を伝え合うなど、人と人とのゆるやかなつながりを大切にしていきます。そして、地域の人が持っている様々な力を引き出し、発揮されるよう後押ししていくことや、地域に存在する様々な人を結びつけていくといったことなどが保育所に期待されているといえます。子育て支援に関わる活動を展開していく中で、人と人との関わりを通して、地域社会の活性化に寄与していくことが求められます。

    (3)地域における関係づくり及び問題発生予防と早期対応
    地域子育て支援は、地域の子どもの健全育成や子育て家庭の養育力の向上、そして、親子をはじめ、様々な人との関係づくりに寄与することが期待されます。保護者や地域の人々と子育ての喜びを分かち合い、子育てや保育に関する知恵や知識を交換し、子育ての文化や子どもを大切にする価値観等を共に紡ぎ出していくことも保育所の大切な役割であり、それは、第1章(総則)の4で示された保育所の社会的責任とも関連します。
    また一方、地域の子どもや子育て家庭をめぐる諸問題の発生を早期に予防し、その解決に寄与することも大事な役割となります。特に保護を必要とする子どもたちへの対応に関しては、今後ますます保育所の重要な役割となるでしょう。第5章の1並びに本章の2及び3の解説において記述した虐待の防止や対応を積極的に進めたり、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)との連携に努めることが期待されます。
    第7章職員の資質向上
    第1章(総則)から前章(保護者に対する支援)までに示された事項を踏まえ、保育所は、質の高い保育を展開するため、絶えず、一人一人の職員についての資質向上及び職員全体の専門性の向上を図るよう努めなければならない。
    【職員の資質向上が求められる背景としての制度の変化】
    児童福祉施設最低基準第7条の2第1項において「児童福祉施設の職員は、法に定めるそれぞれの施設の目的を達成するために必要な知識及び技術の修得、維持及び向上に努めなければならない」とされており、施設長を含めた職員の質の向上について規定されています。
    保育所の質の向上に関しては、保育所が置かれている背景として保育制度がどのように変わってきたのかを理解しておくことが大切です。平成9年の児童福祉法改正(平成10年4月施行)により、保育所は措置制度から利用者が保育所を選択できる契約方式に変わりました。また、保育ニーズの多様化に対応するため、様々な特別保育が実施されるとともに、家庭や地域の養育機能の低下により、子どもの保育だけでなく、入所している子どもの保護者への支援及び地域における子育て支援を行うことが、児童福祉法において努力義務とされました。さらに、平成15年からは保育士が法定資格となるとともに、子どもの保育だけでなく、保護者への保育に関する指導が保育士の業務とされています。
    このように保育所の役割や機能が多様化し拡大していく中で、それに対応すべく各保育所が保育の質の向上を更に目指す必要性がでてきたのです。
    1職員の資質向上に関する基本的事項

    (1)保育所職員に求められる専門性と人間性
    職員の資質向上に関しては、次の事項に留意して取り組むよう努めなければならない。
    (1)子どもの最善の利益を考慮し、人権に配慮した保育を行うためには、職員一人一人の倫理観、人間性並びに保育所職員としての職務及び責任の理解と自覚が基盤となること。

    保育の質の向上を図るには、職員一人一人の資質向上がまず基本となります。
    保育所保育においては、職員が子どもを大切に思い、日頃から子どもと心が通い合うようにすることが大切です。保育士等が子どもの気持ちを受け止めて柔軟に保育を行い、子どもの保護者や地域への子育て支援を行っていくためには、様々な知識と技術及び適切な判断が求められます。
    保育士の専門性については第1章(総則)で規定されましたが、子どもの保育と保護者の援助を行っていくためには、すべての保育所職員に対してそれぞれにふさわしい専門性が必要です。
    同時に子どもの最善の利益を考慮して保育するためには、職員の人間観、子ども観などの総体的なものとして現れる人間性や、保育所職員として自らの職務を適切に遂行していく責任に対する自覚が必要です。その上で、子どもの人権を尊重することへの格段の配慮が求められます。
    また、保育所の職員は、その言動が子どもあるいは保護者に大きな影響を与える存在であることから、特に高い倫理性を求められます。一人一人の職員が備えるべき知識・技術や判断及び人間性は、時間や場所、対象を限定して発揮されるものではなく、日頃の保育における言動のすべてを通して表出するものです。これらが高い倫理観に裏付けられたものであってはじめて、子どもや保護者に対する援助は十分な意味や効果を持ちます。プライバシーの保護や子どもの立場に立ってそのニーズを代弁することなど、職員が持つべき倫理性の具体的な内容については、職種により関係団体において倫理綱領などが定められています。
    こうしたことを一人一人が十分に理解し常に認識しながら、日頃から職場内研修や職場外研修、自己研鑽により保育の専門性を高めることが重要です。
    このような保育所職員として求められる専門性や人間性は、自らの考え方や生き方と深く関係しており、主体的に向上させようとする意思がなければ高まりません。
    なお、保育士については、全国保育士会において、保育の更なる質の向上を目指し、保育士資格の法定化を機に「全国保育士会倫理綱領」が定められています。

    (2)職員の共通理解と協働性

    (2)保育所全体の保育の質の向上を図るため、職員一人一人が、保育実践や研修などを通じて保育の専門性などを高めるとともに、保育実践や保育の内容に関する職員の共通理解を図り、協働性を高めていくこと。
    ①保育所職員としての成長
    これまで、保育所における研修では、特に一人一人の職員の専門性の向上を図ることに重点が置かれてきました。しかし、保育所の機能や役割が増す中で、組織の一員としての成長もこれまで以上に求められています。
    保育所がその責務を十分に果たすために、職員がお互いに協働し、職員全体の一員としての役割をしっかりと担っていくことが期待されているのです。
    この組織の一員としての成長は、従来は保育所内でのカンファレンスや職員会議を通して促されていく側面が比較的大きいものでしたが、今後は個々人の専門的な知識・技術を習得していく段階と同様、より意識的・計画的に取り組まれる必要があります。保育所職員としての役割、意識、倫理等に関して、研修の機会を設けることが求められます。

    ②組織性を高めるための条件
    保育所の専門性は、組織の理念や方針等の共通理解、個人の主体性や意欲、職員間の信頼関係と協働性、評価や研修等の計画的実施などの要素によって向上します。
    保育所がそれぞれに掲げている理念や方針について、職員全員が共通認識を持つことが最も大切です。保育の質を高めていくためには、なぜ、そうした理念や方針が必要なのかを、職員一人一人がしっかりと理解する必要があります。理念や方針について理解が深まれば、個人の主体性や意欲が向上し、その実現のために何をすればいいのか、どのような保育や業務が必要なのかを自ら考え判断するようになります。職員の間に目指す目標が共有されることで、その目標に向かって協力することの重要性も深く認識するようになり、職員の協働性が高まっていくのです。
    ただし、理念や方針は、会議や文書などによる一通りの説明だけで、職員間に浸透するものではありません。施設長や主任保育士をはじめとするリーダー的立場の職員が常に組織としての役割や使命、目標や将来展望を、職員だけではなく保護者や社会に対して表明する必要があります。また施設案内や保育所のしおり等に掲載するなど、いつでも職員や保護者が確かめることができるようにすることも大切です。職員が常に理念や方針に触れたり、話し合ったりする機会を積み重ねることで定着していくものです。
    ③保育の内容や職務内容の共通理解
    また、保育の内容について職員の共通理解も不可欠です。職員間での密な連携による保育を実践するためには、どのような保育を行うのか、その内容全体を各自がよく理解しておく必要があります。特に、毎年作成する事業計画をはじめ、保育の内容の根幹となる保育課程や具体的な計画である指導計画のほか、実践や評価に関する記録など、保育の質の向上に関するものについては、共通理解を持つ機会を計画的に設けるようにします。
    さらに職務内容についての共通理解も大切です。子どもの保育及び保護者支援は、保育所の方針のもとに組織される職務分担やクラス担任配置等によって計画的、組織的に実施されます。その際、職員同士がそれぞれの職務内容についてよく理解し合うことで、どのような場合にどのような連携が必要なのか判断できるようになり、それによって、それぞれの専門性を発揮した職員の協力体制が可能となります。
    このように、職員が共通理解を深め、相互の信頼関係が強まることで、自らの実践への自己評価や研修、自己研鑽への意欲が高まっていきます。
    子どもの最善の利益の実現のために、組織として高いモチベーションを共有した職員の集まりが、保育所全体の保育の質を高めていくことになります。
    (3)喜びや意欲を持って取り組むために
    (3)職員同士の信頼関係とともに、職員と子ども及び職員と保護者との信頼関係を形成していく中で、常に自己研鑽に努め、喜びや意欲を持って保育に当たること。

    ①信頼関係の中で育まれる職員の喜びや意欲
    保育の質を高めるためには、職員の主体性や意欲が育つ環境をつくることが必要です。職員の意欲や主体性は、職員間や子ども・保護者との間に信頼関係が形成され、それがよりよいものとなっていく中で育まれます。
    自らの保育や職員同士での協働によって、子どもが安心感や達成感を味わいながら保育所での生活を過ごし、成長していく姿を目にすること、またそれを通じて得られる喜びや充実感を保護者と共有することによって、それぞれの間の信頼関係が築かれていきます。そしてその信頼関係の中で培われる職員の意欲や主体性が、相互の学び合いや育ち合いを支え、実践への原動力となり、それがまた保育の質を高めていくという好循環をつくっていくのです。
    保育所における様々な関係の中で、特に職員同士、職員と保護者、保護者同士の間の信頼関係の形成は重要であり、その信頼関係を基盤に、保育が安定して営まれます。職員は保護者の子どもへの愛情と健やかな育ちへの願いを丁寧に汲み取りながら、一人一人の子どもの保育に当たることが必要です。子どもの最善の利益のために、創意と工夫を惜しまない職員の意欲や情熱は、保育所と保護者との信頼関係を深め、職員と保護者が共に、子どもの育ちを喜び合うことに繋がります。こうした信頼関係が職員の意欲や主体性を育む条件の一つといえるでしょう。

    ②保護者との信頼関係
    職員と保護者がお互いに信頼し、協力し合う関係になるためには、職員は保護者の意向を的確に把握する必要があります。この保護者の意向を把握することは、保護者の要求をすべて受け入れることではなく、保護者の我が子に対する思いや保育所に対する期待を把握し、尊重した上で、子どもの最善の利益を第一義にした「共に育て合う保育」を行うことです。
    保育所が保護者との協力体制を築くためには、日頃から保育理念や保育方針、保育内容・方法等を様々な機会を通して情報提供するとともに、保育参観のほか保育参加、個別面談などを実施することも有効です。
    なお、保育所における相談・助言に関する知識・技術の取得については、児童福祉法第48条の3において、保育士の努力義務として規定されています。第6章に述べられている内容を踏まえ、保護者とのより良い関係を構築していくために、研修や自己研鑽による職員の専門性の向上が求められます。
    ③自己研鑽とそれを育てる仕組みとしての研修体制
    自己研鑽とは、職場内での共通の目標の実現や達成のために、いま自分にみいだせないものや足りないものを主体的に探したり、あるいは課題を解決するために必要なことを努力したりすることです。
    職員が保育に意欲や喜びを持って取り組むためには、職員や保護者の信頼関係の中で子どもの育ちへの願いや喜びを共有することができる環境が望ましく、その実現のために、組織としての目標を明確に定め、職員一人一人の意欲や努力を支え、促進させる仕組みが必要となります。ここに施設長の責務として研修体制構築の必要性が出てきます。

    2施設長の責務

    施設長は、保育の質及び職員の資質の向上のため、次の事項に留意するとともに、必要な環境の確保に努めなければならない。

    (1)施設長は、保育所の役割や社会的責任を遂行するために、法令等を遵守し、保育所を取り巻く社会情勢などを踏まえ、その専門性等の向上に努めること。

    (2)第4章(保育の計画及び評価)の2の(1)(保育士等の自己評価)及び(2)(保育所の自己評価)等を踏まえ、職員が保育所の課題について共通理解を深め、協力して改善に努めることができる体制を作ること。

    (3)職員及び保育所の課題を踏まえた保育所内外の研修を体系的、計画的に実施するとともに、職員の自己研鑽に対する援助や助言に努めること。

    児童福祉施設として社会的な役割を担う保育所は公共性の高い施設であり、地域社会において重要な役割を担っています。また保育士は子どもを育て、保護者を支援するという高い専門性を求められる職種でもあります。こうしたことから、職員は研修を行い自己研鑽に努めることが求められます。
    保育所は専門性を有する職員によってその業務が遂行されることから、職員の資質向上のための環境の確保も施設長の役割の一つです。保育の現場では、保育士等が持つ基礎的理論や技術を、実践を通して高め、保育所組織の中で発揮される専門性を更に向上させていくことが求められます。施設長は自らの施設の研修の体制とその結果を自己評価し、改善、向上させていくことが望まれます。
    また、保育士、栄養士、看護師などを目指す学生の実習を積極的に受け入れ、養成施設との連携を図りながら、実習指導や評価を行うことも求められます。
    (1)施設長の責務とその専門性の向上
    施設長は、第1章から第6章までに示された内容を踏まえて保育所を運営するために、保育の実施と運営上の根拠となる法令はもちろん、基本的な関連法令(福祉分野に限らず雇用・労働、防災、環境への配慮に関するもの等)や、保育に関わる倫理等を正しく理解しておくことが必要です。
    とりわけ、第1章(総則)で示された保育所の役割と社会的責任を適切に果たすために、施設長は自己評価や第三者評価の実施、保護者の苦情解決などを通して、保育の質の向上を図るとともに、地域住民に対して保育所に関する情報を提供することが求められます。
    施設長が果たす役割は大きく、常に保育所運営等の課題を自覚し、人間性を高めるなど、日頃から研鑽に努める必要があります。施設長は、保育指針に示される原理原則を踏まえ、保育の理念や目標に基づき、子どもの最善の利益を根幹とする保育の質の向上を図り、その社会的使命と責任を果たすよう、組織の長としてのリーダーシップを発揮することが肝要です。
    (2)職員の自己評価と保育所の自己評価との連動による保育の改善保育の自己評価と同じように、研修にも自己評価サイクルがあります。
    研修計画を立てて実行し、その成果を自己評価し、また次の研修計画の改善に生かすというサイクルです。
    研修が保育に役立つものとなるように、研修の成果を保育所の自己評価サイクルと連動させます。つまり第4章の保育士等の自己評価や保育所の自己評価の結果から、今後の課題として明らかになったものについて、改善策が適切と考えられるものを研修として盛り込むようにします。
    この研修計画の作成に当たっては、一人一人の職員の持つ資質や専門性を分析するとともに、経験年数や本人の意向等も考慮し生涯教育として計画的に実施することが大切です。保育士等の自己評価やライフステージに合わせた研修計画が期待されます。職員の専門性は、一気に高まるものではありません。長期的な展望の下に、自らの学ぶ意欲が高まるような研修計画を、職員と共に作り上げるようにします。
    なお、保育所の勤務体制は十分な研修を行うだけの時間を確保することが難しく、保育に支障が出ない範囲での研修が期待されており、実効性のある計画が大切です。また、学んだ知識、技術や判断力が、実践にうまく生かされるように、研修体制を保育所運営の全体の中にバランスよく位置付けることが重要だといえます。
    (3)研修体制の確立と自己研鑽への援助・助言
    ①研修体制の確立と着実な実施
    保育所が保育の質の向上を図っていくためには、組織の中で保育の質について定期的、継続的に検討を行い、課題を把握し、改善のために具体的に取り組めるような体制を構築することが必要です。施設長のリーダーシップのもと、研修に関する保育所としての基本的姿勢を明確にして、職務分担などに研修担当を位置付け、体系的・計画的に取り組むようにします。
    また研修の基本的姿勢や在り方は、具体的な保育実践を積み重ねていく中で、深まり成熟していくものです。
    そうした基本的姿勢を確立させながら、個人別の研修計画や施設全体の計画を作ることを目指し、研修の成果と課題に基づき、次の研修計画に反映させるようにすることが大切です。
    また、組織の規模によっては、専門性の高い職員から経験の浅い職員まで、多くの職員がいることを生かし、職員間で学び合いを深めていくことができるような体制をつくることも一つの方法です。

    ②職員の意欲を高めるために
    職員の自己研鑽については、職員一人一人の質の向上を図ることが保育所としての質の向上にもつながるため、施設長は、職員の意向も考慮しながら、職員の自己啓発の動機付けや助言(情報提供等)及び援助(時間等)に努めることが求められます。
    職員が自らを高めようとする意欲は、子どもの成長の実感、保育の充実感や満足感、職員間の信頼関係の深まり、保育を学ぶ楽しさの体験、保護者からの感謝など、様々な経験を重ねる中で培われていきます。研修の機会はもちろん、毎日の業務の中で、適切な助言が得られ、課題解決の方法を学ぶことができるような仕組みは、職員の自己啓発の意欲向上につながります。職員個人の課題であっても、組織としての課題と重なるものも多いため、同僚と一緒に研究や検討を行うことも必要です。さらに、施設としての研修内容にふさわしいものを取り上げて、研修体系に取り込んで位置付けていきます。
    ③施設長や主任保育士など指導的立場の職員の姿勢職員が自ら学びたいと思う気持ちは極めて貴重なものです。施設長や主任保育士をはじめリーダー的な立場の職員は、その意欲を大切にしながら、指導や助言をします。
    また一人一人の職員が直面している問題、あるいは挑戦しようと臨んでいる課題などを把握し、その上で、問題や課題の内容と職員の力量の両方を踏まえ、適切な研修内容や手段を提供し、助言を行います。
    日常業務の中で、経験の浅い職員は、中堅職員やベテラン職員の仕事を通じて学んでいることが多いものです。そのため、リーダー的立場の職員は何が望ましいモデルかについて自覚しておくことが大切です。経験年数の長短や、未熟さを指摘するような形ではなく、その立場と長所を尊重し理解しながら、どうすれば問題を解決できるか、どのような方法があるか、同僚として助言することが望ましいでしょう。また研修や会議といった公的な場以外でも、職員の悩みに耳を傾けたり、雑談や普段の付き合いの中で助言したりする機会を大切にしたいものです。

    3職員の研修等

    (1)専門性を高める研修

    (1)職員は、子どもの保育及び保護者に対する保育に関する指導が適切に行われるように、自己評価に基づく課題等を踏まえ、保育所内外の研修等を通じて、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上に努めなければならない。

    ①望ましい研修像
    保育所の職員の研修においては、1)職員の意欲が向上し主体性が尊重されること、2)一人一人の学びの深まりにつながっていること、3)職員間の連携が密であること、4)日々の実践に生きるものであること、などが求められます。

    ②研修内容と研修方法
    保育所では、職員の修得すべきねらいや目的に応じて、研修内容、形態や方法、時間などを適切に組み合わせて研修を行います。
    職員配置など、保育条件が厳しい状況の中で、施設内での研修を中心に、派遣研修や自己啓発の支援がそれぞれの努力と工夫によって展開されています。
    研修の形態としては、職場内研修(OJT)、職場外研修(Off-JT)、自己啓発支援(SDS)があります。また研修方法は多種多様で、講義、演習、質疑応答、グループ討議、ワークショップ、研究発表、事例検討、読書会、共同研究などがあります。
    ③職場内研修の実際
    保育の質の向上を図る上で研修が重要であることは、既に述べてきました。中でも、同僚と話し合い、自らの保育を振り返りながら次の課題をみいだすために、職場内での研修を行うことが大切です。ここでは、既に保育所内で実際に行われている研修の手法やその具体例をいくつか示します。
    【小グループでの学び合い】
    長時間に及ぶ保育を実施しているために、多くの保育所ではローテーションでの勤務体制がとられている中で、より実効性のある研修を行うためには、課題に応じて数名のグループで学び合うというのも一つの方法です。その際、メンバーも保育経験年数、担当する子どもの年齢、職種など、課題に即して組み合わせます。また、小グループで検討した内容を職員全体で共有できるように、記録などを活用して伝達していくことが求められます。
    【既存の記録・資料を活用しての研修】
    短時間で効率的に職場内研修を行うためには、具体的な資料をもとに検討することが大切です。資料を用いることで、事前に自分の疑問や考えをまとめることができたり、研修に参加しなかった職員も内容を共有することが可能になります。その際、資料は、日常的に記録している保育日誌、連絡帳、児童票などを資料として活用することも有効です。こうした記録の研修への活用は、発達の連続性を捉えやすくする上でも重要です。IT
    を効果的に活用して効率化を図ることも必要でしょう。
    【保育の公開や他の保育所・施設での保育参加】
    保育の取組を他の保育士等や関係者に公開することにより、自らの保育を多様な側面から客観的に検討することができます。また、他の保育所や施設を訪問し、直にその保育に触れることは、自らの保育の良さや課題を改めて見つめ直すきっかけとなります。互いに保育の役割を担い合うために保育士の人数が研修によって不足する事態を避けることができるだけでなく、それぞれが工夫していることを伝え合うという利点もあります。
    【職員相互の学び合い】
    職場外研修を受けてきた職員が、その研修で学んだ知識や技術などを職場内の他の職員に伝達することや、職員一人一人の得意な領域を生かして職場内研修などの講師を務める方法もあります。研修を受けるだけでなく自ら提供する中で工夫が図られます。このように職員が能動的に研修に関わることにより、それぞれの知識や専門性を高めていきます。
    【外部の専門職からの学び】
    職場内のメンバーに、時には外部の研究者や地域の関連する機関の職員などを加えて研修を行うことも有効です。そのことにより、職場内では気が付きにくい新たな観点からの保育の検討や見直しが可能となります。また、保育に関連する最新の情報や他の分野の動向などを知ることもできます。講師の研修の進め方や手法などから学ぶこともあるでしょう。
    【複数の施設が協力して実施する研修】
    課題を設定して複数の保育所がそれぞれ情報を提供し合うことによって、その課題についてより深く広く学ぶことができます。外部からの講師を招いての研修など、単独の保育所では実現することが難しい研修を企画することも、複数の保育所が協力することによって可能になることが期待されます。
    (2)学び合いの環境づくりと保育所の活性化

    (2)職員一人一人が課題を持って主体的に学ぶとともに、他の職員や地域の関係機関など、様々な人や場との関わりの中で共に学び合う環境を醸成していくことにより、保育所の活性化を図っていくことが求められる。

    ①子どもの福祉の増進のための学び
    保育所は子どもや保護者に限らず、地域の人や組織と多様な関係を持っています。職員は子どもとの生活や保護者との対話をはじめ、地域の主任児童委員や民生委員との情報交換、専門機関との事例検討、子どもの就学先や地域の学校との連携、地域の子育て支援活動、養成校の実習生受け入れ、学生や社会人のボランティア体験、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)等の地域ネットワーク作りなど、様々な活動を通じて、互いに学び合いを重ねています。
    それぞれの立場や役割は異なっていても、こうした関わりや活動の一つ一つは子どもの最善の利益への思いによって結ばれており、それらが連動して地域で生まれ育つ子どもの福祉増進に貢献しているといえます。

    ②「育ち」「育てる」ことのために
    保育所は子どもの生活の場所であり、職員にとっては仕事の場所であり、また保護者にとっては大切な我が子を託す場所です。しかし、見方を変えると、子どもは遊びを通して学び、保護者は子育てを通して学び、職員は仕事を通して学んでいます。そして保育所職員は、その専門性や人間性を発揮して、子どもとの生活を、その生活を通して、より望ましい生活へ高めていくために、常に学び続ける存在です。職員は常に子ども一人一人にとって何が最善なのかを第一に考えて、主体的に福祉の増進と発達の保障を図らなければなりません。
    現代は多様な価値観が混在し、保護者との関係にも様々な課題があります。様々な人との共生を求め、子どもの最善の利益に配慮した保育と子育て支援の実現が保育所には求められます。職員が保育所で働くということは、保育を通じて、その価値を共有する社会を実現しようとする文化的な営みに参加しているといえるでしょう。
    このように保育所は、地域で生活を共にする人々の学び合いの場であり、子どもの最善の利益を第一に考える生活の価値を創造する場でもあります。
    職員一人一人が主体的に学び合う者として存在することにより、保育所は活性化し、質の高い保育が実現していきます。こうした環境を創り出すための条件整備が求められます。
    保育所は人が「育ち」「育てる」という人類普遍の価値を共有し、継承し、広げることを通じて社会に貢献していく重要な場なのです。

保育いろいろ

保育にまつわる「いろいろ」を随時掲載しています。何かの参考にでもなれば幸いです。

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